鳥篭屋は斜陽街番外地にある。
鳥篭だけを置いているという店だ。
鉄製、竹製、いろんな鳥篭が置いてある。
店主はパワフルなおばさんで、ちょっとでも隙があると鳥篭を売りつけたがる人だ。
「鳥篭はねぇ、いいよ」
おばさんが話す。
「鳥篭を使うと戻れるんだよ」
どこに戻れるのか客がたずねる。
「そりゃあんた人それぞれさ。家という人もいる。愛しい人のもとという人もいる。ま、いろいろだよ…」
あたしにゃこの店だね、と、おばさんはカラカラ笑った。
「たくさんの人が鳥篭買っていった…」
おばさんは奥の間と店の間に腰掛けてそんな昔話を聞かせてくれた。
「訝しがって買っていった人…最後の頼みと買っていった人…それから、鳥を入れるために買っていった人…」
いろいろいたよ、とおばさんは言う。
「それぞれのもとで鳥篭はきっと役に立ったに違いない…あたしゃそう信じているんだ…」
おばさんはお茶をすする。
「鳥篭はあたしの息子みたいなものだからね…」
おばさんは目を細めて鳥篭達を見回す。
無表情な鳥篭達は、それでも、どこか嬉しそうだった。
「誰も帰る場所がある…あたしゃそう思ってる」
おばさんはバリンとセンベイを食べ、もぐもぐして嚥下する。
そしてまた茶をすする。
「鳥篭達はその手伝いをする。何も不思議なことはない。鳥篭を使うと戻れるだけなんだ」
ふぅとおばさんは溜息をつく。
「あんたも戻りたい場所はあるかい?」
お客は「さぁ?」と答える。
「そうかい…それでも、そのうちどうしても戻りたい場所が出来る。ここにしか帰れない、心の家が出来る。今はわからなくてもいつかそうなる。あたしゃそういうお客を幾人も見てきたからね…」
店内の蛍光燈で鳥篭が照らし出される。
おばさんが黙っていると、蛍光燈の時折ピラピラする音以外はなんの音もしない。
静かな店内だ。
「戻りたい場所はきっとあるはずさ…」
おばさんはそう締めくくった。