斜陽街三番街、がらくた横丁という所に玩具屋はある。
玩具屋は、いわゆるおもちゃ屋だ。
空缶などの金属から店主が小器用におもちゃを作り出す。
店主は40才代くらいのひょろりと細い中年で、
少々ヘビースモーカー、店内は煙草の匂いがする。
気が向くときに寝起きしては、煙草を吹かしながらおもちゃを作るのが店主の日課になっている。
店主は、空缶おもちゃや、ブリキなんかのおもちゃを作ることを好む。
無論その他のおもちゃもある程度揃えている。
ぬいぐるみや人形だってあるし、テレビゲームだってある。
ただ、それらはここで作っている物ではないようだ。
しかし、玩具屋の店主は頼めばそれらも修理してくれる。
手先の器用さでは斜陽街一二を争うそうだ。
「おじちゃあん」
「じっちゃあ」
小さな兄弟が首の取れた人形を持ってくる。
「こわれちゃったぁ」
「ああ、壊れちゃってるねぇ…よしよし、捨てずによく持ってきたね。すぐ直してあげよう」
それでも子どもは不安な目をしている。
そんなときには直る過程を子ども達に見せてあげる。
「ここをこうして…」
玩具屋の手が器用に人形の首を繋げていく。
「ここをちょちょいと…」
子ども達の目に光りがともる。
「こうすれば、出来上がりだ」
そんな時にはもう子ども達の目はきらきら輝いて。
「ありがとう、おじちゃん」
「ありがとー」
礼もそこそこに駆け出していく。
玩具屋はそんな子ども達の目が好きだ。
おもちゃの置かれている棚の中に、一つだけ、非売品になっているおもちゃがある。
夕焼け色の可愛らしい服をまとった、小さな猿がシンバルを叩くおもちゃだ。
「ああ…それは…昔友達だった猿がいましてね…」
その思い出なんですよ…
店主は少しはにかんで笑った。
玩具屋の棚には、今でも、猿のおもちゃと空缶ぽっくりが並んでいる。
その意味を知る者は、あまり多くないそうだ。