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第14話 霧

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

重そうな鉄の扉の向こうの世界の物語。


男はミルク色の霧に倒れていた。

遠近感がわからない。

ああそうだ、眼球も片方しかないんだった…

そう思い出すのにひどく時間がかかった。

男はここに来る際、身体だけ半分、かの場所に残してきた。

今自分は半分しかない。

…記憶も…大半残してきたんだった…

今自分が何者なのかわからない。

不安はなかった。

とうとう辿り着いたと思っていた。

意識を失う前、人影を見た気がした…


温かい場所で覚醒した。

どうやらここは液体のようだ。

苦しくはない。

「…足りない…を補って…」

なんだか声に安心出来た。

ぼんやりと外が見える。

白い影がせわしなく動いていた。

「あ…目が覚めた…」

影が近づいてきた。

「大丈夫…足りないところは…補って…あげるから」

安心したらまた眠くなった…


再び目を覚ましたのはベッドの上だった。

ベッド…このくらいは覚えているらしい。

ベッド…天井…水差し…手…

目で追える物を復習する。

ふと、左手に違和感。

左手は金属に覆われていた。

手を開いて閉じる動きをする。

ウィーン、という音がする。

義手…という言葉が閃いた。

思っていた義手より、どうも機械的だ。

記憶にはマネキンのような義手があった。

取り合えず動きを確かめる。

水差しを取ってみようと思った。

手を伸ばし、握る。

距離が足りなく、空を掴んだ。

そういえば目の焦点が合いにくい。

片目ずつ開く。

左眼を開くとき、違和感。

右手で触れてみる。

金属の触感。

どうやらこちらは義眼らしい。


窓から風が入ってきた。

窓の外はぼんやりとしたミルク色の霧。

義眼で見るそれは、ここに来た最初に見たものと同じだった。

まだ馴染まないようだ。

『とうとう辿り着いた』

男は意識を失う前にそう思った。

自分は何を求めてここに来たのか。

男は思い出そうとした。


入り口から、ノック。

入ってきた人物が、答えをくれるような気がした。

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