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第13話 猫

足元の三毛猫がにゃあんと鳴いた。

ぼんやりしていた女性は我にかえって餌を取り出した。


ここは二番街にある通称猫屋敷。

ここに住んでいる女性が大層猫好きだからそんな名前がついた。

何故この女性が猫好きになったかはよくわかっていない。

知らなくてもここは猫屋敷、そういうことになっていた。


風の穏やかな晩。

女性はぼんやりすることが多くなる。

「…」

風に隠れるような声で男性の名を呼ぶ。

猫達はそれを知っている。

だから風の穏やかな晩は飼い主をそっとしておく。


それは猫達の囁き声…

『夢を追う人だと聞いている…』

『夢を追ったまま戻ってこない?』

『帰ってくると約束したそうな…』

『帰ってくるといいのぅ…』

それは猫達の囁き声…


『君は猫のような目をしている…』

そう、私の目を誉めてくれました…

『俺は天使を探している…』

あなたは天使を追いかけていってしまったのですか?

もう地上には降りてこないのですか?

『斜陽街からきっと行けるはずなんだ…』

あなたがいなくなってから、猫にあなたを探します…

あなたの幻を探します…


『きっと帰ってくる』


男はそう言って出ていったきり…


風の穏やかな晩。

大きな月の出た晩。

女性は窓際で眠っていた。

オルゴールの音に揺られて。

あの人が約束にとくれたもの。

月明かりとオルゴールに揺られて。

ああ、寂しそうなあの人の眼差しを思い出します。


『あの人の伴侶は私ではなかった…』

『あの人はいつだって天使を探していた…』


大きな月も傾きかけて…

彼女は夢の中で泣いた。

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