足元の三毛猫がにゃあんと鳴いた。
ぼんやりしていた女性は我にかえって餌を取り出した。
ここは二番街にある通称猫屋敷。
ここに住んでいる女性が大層猫好きだからそんな名前がついた。
何故この女性が猫好きになったかはよくわかっていない。
知らなくてもここは猫屋敷、そういうことになっていた。
風の穏やかな晩。
女性はぼんやりすることが多くなる。
「…」
風に隠れるような声で男性の名を呼ぶ。
猫達はそれを知っている。
だから風の穏やかな晩は飼い主をそっとしておく。
それは猫達の囁き声…
『夢を追う人だと聞いている…』
『夢を追ったまま戻ってこない?』
『帰ってくると約束したそうな…』
『帰ってくるといいのぅ…』
それは猫達の囁き声…
『君は猫のような目をしている…』
そう、私の目を誉めてくれました…
『俺は天使を探している…』
あなたは天使を追いかけていってしまったのですか?
もう地上には降りてこないのですか?
『斜陽街からきっと行けるはずなんだ…』
あなたがいなくなってから、猫にあなたを探します…
あなたの幻を探します…
『きっと帰ってくる』
男はそう言って出ていったきり…
風の穏やかな晩。
大きな月の出た晩。
女性は窓際で眠っていた。
オルゴールの音に揺られて。
あの人が約束にとくれたもの。
月明かりとオルゴールに揺られて。
ああ、寂しそうなあの人の眼差しを思い出します。
『あの人の伴侶は私ではなかった…』
『あの人はいつだって天使を探していた…』
大きな月も傾きかけて…
彼女は夢の中で泣いた。