斜陽街で電話を使う者は少ない。
番外地の探偵は電話をよく使う一人だ。
依頼がかかってくることもある。
いたずら…も、たまにはかかってくる。
そして、ごく希によくわからないのがかかってくる。
トゥルルルル…
電話のベルが鳴る。
こんな時に限って助手がいない。
探偵はしぶしぶ自分で電話を取った。
「はい、こちら探偵事務所…」
『…』
「もしもし?」
『…』
「もしもし?」
二度目は少し語気が荒くなった。
そうして微かに言葉が聞こえた。
『…たすけて…』
電話はそこで切れた。
逆探知なんて言う御大層なことはしていない。
それでも探偵は助けを求める誰かを助けたかった。
帰ってきた助手と入れ替わりに探偵は斜陽街をかけていった。
こんな時、探偵は勘がきく。
探偵は三番街のがらくた横丁のあたりに来ていた。
勘が指すのはこのあたりだ。
この辺に電話なんてあっただろうか?
否、ここは斜陽街、電話無しでも回線に侵入するようなのもいるかもしれない。
探偵がきょろきょろしていると、おろおろした風の合成屋をみつけた。
「よぉ」
探偵は声をかけた。
「探偵さぁん」
合成屋はびっくりしたようだったが、すぐにお願いモードに切り替わった。
「横丁の奥の壁が崩れちゃって…何か下敷きになったみたいなんですよぅ」
探偵と合成屋は狭い横丁を奥に進む。
奥のあたりに、なるほど、崩れた壁があった。
「これか…よいっしょ」
探偵が瓦礫を退けると、その下に使われていない古い端末と…何か小さなものが出ていった。
「あ、猫…」
合成屋の言うとおり、それは小さな猫だった。
猫は汚れた身体を自分できれいにすると、やがてどこかへ走り去っていった。
トゥルルルル…
電話のベルが鳴る。
「はい、こちら探偵事務所…」
『…』
「もしもし?」
『…ありがとう…』
それは小さな声だった。
「どういたしまして」
電話はそこで終わったが、探偵はちょっとあたたかい気持ちになった。