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第8話 電脳

一番街に電脳中心という店がある。

他の店に比べるとネオンが明るい。

青のネオン管で「電脳中心」とあり、赤のネオン管が「歓迎!」とある。

ここの店主は電脳娘々(でんのうにゃんにゃん)と呼ばれている。

カーキ色のだぼたぼの古い中国の国民服を着て、

同じ色の赤い星の一つ付いた帽子をかぶっている。

化粧っ気のないつり目の女性だ。


音屋から買ってきたちょっとのりのいいCDかけて、

カタカタとキーを叩く。

彼女はキーを叩かないことも出来る。

どこかの古い漫画のようにコードを自分の身体に取り込んで情報を得ることも出来る。

彼女はあまりそれを好まない。

このカタカタが好きらしい。


電脳娘々の仕事は主に情報探し。

よく来るのは番外地で営業している探偵。

態度はでかいが、いいお客だ。

あとは夜羽。

散歩がてらに妄想探しに来るらしい。

仕事熱心は結構だと思うが、夜羽の場合絶対楽しんでいると娘々は思っている。


電脳娘々はそんな斜陽街の住人といった生体系より、

ディスプレイ越しに電脳系と接する機会の方が多い。

電脳中心は電脳街にアクセスしている。

電脳系が集まっているらしい。

娘々はその中にある「アルコール」というグループのメンバーに友人がいる。

シャンジャーという。

彼は風水師と自称し、電脳のバグとりをしている。

「アルコール」は、アクセスしている者に癒しや夢、妄想を提供しているらしい。

丁度酒を飲んだようにするのだろう。

電脳系にはいろんな商売がある、と、娘々は思う。


娘々は電脳空間が好きだ。

あたたかい海のような空間だと思う。

この海を渡る手段はいくらでもある。

娘々なら魂一つで渡れる。

情報の海。


娘々は穏やかで荒々しく、

時には静かに、時にはどろどろしている。

その海が好きだ。

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