一番街に電脳中心という店がある。
他の店に比べるとネオンが明るい。
青のネオン管で「電脳中心」とあり、赤のネオン管が「歓迎!」とある。
ここの店主は電脳娘々(でんのうにゃんにゃん)と呼ばれている。
カーキ色のだぼたぼの古い中国の国民服を着て、
同じ色の赤い星の一つ付いた帽子をかぶっている。
化粧っ気のないつり目の女性だ。
音屋から買ってきたちょっとのりのいいCDかけて、
カタカタとキーを叩く。
彼女はキーを叩かないことも出来る。
どこかの古い漫画のようにコードを自分の身体に取り込んで情報を得ることも出来る。
彼女はあまりそれを好まない。
このカタカタが好きらしい。
電脳娘々の仕事は主に情報探し。
よく来るのは番外地で営業している探偵。
態度はでかいが、いいお客だ。
あとは夜羽。
散歩がてらに妄想探しに来るらしい。
仕事熱心は結構だと思うが、夜羽の場合絶対楽しんでいると娘々は思っている。
電脳娘々はそんな斜陽街の住人といった生体系より、
ディスプレイ越しに電脳系と接する機会の方が多い。
電脳中心は電脳街にアクセスしている。
電脳系が集まっているらしい。
娘々はその中にある「アルコール」というグループのメンバーに友人がいる。
シャンジャーという。
彼は風水師と自称し、電脳のバグとりをしている。
「アルコール」は、アクセスしている者に癒しや夢、妄想を提供しているらしい。
丁度酒を飲んだようにするのだろう。
電脳系にはいろんな商売がある、と、娘々は思う。
娘々は電脳空間が好きだ。
あたたかい海のような空間だと思う。
この海を渡る手段はいくらでもある。
娘々なら魂一つで渡れる。
情報の海。
娘々は穏やかで荒々しく、
時には静かに、時にはどろどろしている。
その海が好きだ。