三番街のがらくた横丁の一角に合成屋という店がある。
そこの主人はトーナという名前だそうだ。
主人はいつも無貌の仮面をかぶっており、表情は見えない。
さらに格好はというと、長い黒のローブに、両腕が義手ときている。
髪は短くて黒い。
若いのかというとそれもわからない。
性別もよくわからない。
とにかく合成屋は謎に満ちた人物だ。
合成屋は相性の良い物を、『賢者の井戸』で合成するのが仕事だ。
今日も今日とて、割れ鍋と閉じ蓋を合成している。
きちきち鳴る義手で物を手にとり、井戸に放り込む。
もにゃもにゃと呪文を唱え、最後に井戸を蹴飛ばす。
少々乱暴だが、そうすると合成されたものが飛び出してくるのだ。
今回は…良質の鍋が出てきた。
客は嬉しそうに鍋を手に取ると帰っていった。
合成屋は井戸の縁に腰掛けた。
その昔賢者の石が放り込まれたという、いわれがある井戸だ。
覗き込むが底は深く、水面に無貌の仮面が写るのが関の山だった。
義手に井戸の水を取る。
さびはしないようだ。
しかし、普通の手に水を取るようにはいかない。
隙間からどんどん水はこぼれおちた。
合成屋がここに来るまで何をしていたか。
合成屋自身語ろうとしないし、
知る人もいない。
合成屋が来るまで賢者の井戸がどうなっていたのか、
或いは合成屋がいつ来たのか。
同じがらくた横丁に住む螺子師も、はっきりしたことはわからない。
「物はね…さびしいんですよ」
妄想屋が合成屋をたずねたとき、合成屋はそんな事を言っていた。
「一つじゃさびしいんです、だから、二つで一つになろうとするんです。けれど、一つになるとまた寂しくなるんですよ…それでも物は合成を求めているんです」
それってなんなんでしょうかねぇ、合成屋は小首をかしげた。
さあね、と妄想屋は返した。
今日も合成屋は井戸の傍にいる。
相性のいい物を持っていけば、喜んで合成してくれるはずだ。