これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
黒い扉の向こうの世界の物語。
あるグループにいるある少年がいた。
少年はボウガンを使うのが達者だった。
そのグループに、ある悪党の所へ結婚するかもしれないという女性がいた。
少年は全力で阻止しにかかった。
少年はその女性が好きだった。
悪党に汚されるのは死んでも嫌だと思った。
「大丈夫よ」
女性かそう言って、からから笑った。
水の多いその街では至る所に運河がある。
少年はその運河で頭を冷やしながら螺子をいじっていた。
「もうすぐだろう」
「これで決まったな」
などと言う声がする。
その悪党は、今日、花嫁を発表するらしい。
女性は大丈夫といっていた。
けれど、これ以上は耐えられなかった。
少年は仲間を集めると…
モーターボートで悪党の会場、ウォータードームを襲撃した。
花嫁をさらいに…
仲間が目くらましを使う。
少年は花嫁をさらう。
悪党はぼんやりとしていた。
悪党と言う言葉が似合わないほどに。
「ばか…」
女性はそう言ったっきり、言葉にならなかった。
泣いていた。
花嫁は涙をぐいっと拭いた。
「さーぁ、運転は任せて!」
そして、荒っぽい運転をはじめた。
追手は全て少年のボウガンに倒れた。
少年の黒いボウガンは狙いを外すことはなかった。
いつか僕等は捕まってしまうかもしれない。
僕等が悪党と信じているその男も、悪党でないのかもしれない。
それでも今は…今だけは。
自分の気持ちに正直でありたかった。
花嫁と仲間たちの乗るモーターボート。
きらきらとした水飛沫と笑顔。
少年はこの瞬間が永遠に思われた。