これはある男の物語。
その男は趣味で玩具を作っていた。
手先が器用だったのかもしれない。
男はそれで子どもを遊ばせたりするのが好きだった。
男はある日、番外地の坂で子猿を見付けた。
小さな小さな猿だった。
猿は男のたまたま持っていた空缶ぽっくりに気を引かれたらしい。
空缶に紐を通しただけの玩具だ。
男は猿にぽっくりを教えた。
猿は見よう見まねで遊んだ…が、ぽっくりが大きすぎて転んでしまった。
男は猿の手当てをした。
小さな小さな猿だから、綿棒に傷薬を塗って手当てした。
猿は痛がった、しみたのかもしれない。
それでも、明くる日には痛くなくなったらしく、
また懲りずにぽっくり遊びをした。
こつを掴んできたらしく、初めて出会った坂を、ぽっくりぽっくりと歩くのが好きだった。
男はそんな猿を、子どもを見るように見守っていた。
男は猿にピリリという名前をつけた。
ある日、男は番外地の廃ビルの一つ、その屋上でで煙草を吹かしていた。
ここからはたまにものすごい夕焼けが見られるのだ。
男はそのたまに見られる夕焼けを見ていた。
ふと、下を見ると、ピリリと見なれない猿が坂を歩いていた。
男は何か予感がした。
「ピリリ!」
男は廃ビルから下まで走って降り、ピリリを追った。
ピリリに追いついたのは、初めて出会ったその坂だった。
「ピリリ!」
男はまた呼んだ。
猿は大好きだった小さなぽっくりを持ち、一回り大きな猿と坂を歩いていた。
ふと、猿が振り向いた。
一瞬が過ぎる。
男はその間にピリリとの楽しい時間を思い出していた。
そうして猿は丁寧にお辞儀をする。
男はそれをぼんやりと見ていた。
子猿のピリリは、大きな猿とともに去っていった。
これはある男の物語。
男はいまでも斜陽街のどこかで玩具を作っているそうだ。