また風が吹いたな、と、
風が吹くときは斜陽街に新たな客が来るものだ。
そう思った。
ここは斜陽街の一番街、バーの中だ。
夜羽は妄想屋。
ここで妄想を聞いたり、再生したりしている。
今日は風が強い。
三番街のがらくた横丁や、番外地のスカ爺等は大変だろうなと思った。
ドアに付いたベルが鳴り、来客を知らせる。
客は客でも夜羽の客ではないらしい。
バーのカウンター席に座り、ソルティードッグを注文した。
生体系のようだ。
そういえば電網系・電脳系にはここの所会っていない。
ネギがホームページを閉めたから…理由はそんなところだろう。
また開く気もある。
最近そんな事を聞いた。
ならばまた、電網系が来ることもあるだろう。
夜羽は気の抜けたスプリッツァを口にした。
斜陽街。
ここは斜陽街。
記憶の底にたまったものの集う街。
繁華街の裏側のような…どこか寂れた街並み。
しかし、「ここにある」という事を精一杯主張している…
繁華街に店を出しているであろう店の裏口と思われる建物…
その隣りで、斜陽街に面して商いをしている店がある。
乱立する建物は家も店もいっしょくたになっている。節操がないようでもある…秩序もないようでもある…
しかし、街は静かに「ある」。時折人影が歩いていく…何が変わっているとは説明できない。
でも、何となく普通の感覚とは違う…それが斜陽街だ。
夜羽はこの街が大好きだ。
これからやってくるかもしれない客人達も、好きになってくれればいいなと思った。
またベルが鳴り、新しい来客を知らせる。
今度の客はきょときょととあたりを見回し、
夜羽を見付けるとそちらに歩いてきた。
「お客さんだね…」
夜羽は新しいスプリッツァを注文した。