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SS4/100.5 領主館ホテル前日譚


 だいぶ暑くなってきた。

 しかしミーニャは相変わらずで朝になると俺にくっついている。

 朝方はまだ少し涼しいのがさいわいなところだ。


 エルダニア領主館をホテルにすることも決まって、話はとんとん拍子だ。

 あまりにも順調でちょっと怖いくらいだった。


 エレノア様は資金だけでなく、人員も貸してくれる。

 まずエルダニア領主館を見に人をやった。

 内部はほとんどの物が残されたままだったそうだ。

 領主が真っ先に逃亡したため、残された使用人たちは財産を持ち出す許可を貰う当事者を失い、必要最低限自分たちの物だけを持って王都へ避難したそうだ。

 だからベッドから魔導コンロまで何でもそのままになっていたと。


 エレノア様もやる気出まくりだ。

 ただし俺達がトライエ市からエルダニアに引っ越すのは寂しいみたい。


「エド君、本当にエルダニアに行っちゃうんですの?」

「うん」

「そんなこと、雇った人を送れば済むことですわ。エド君は一緒にトライエ領主館に住みませんか? 女の子たちも一緒でいいですわ」

「うーん、確かに自分の手でやらなくてもいいのか。でもギードさんたちだけじゃ心配だし」

「それはそうですけど」


 トライエ市とエルダニアの間は片道四日。

 往復となると一週間以上はかかる。

 もちろんランバード走鳥に乗って強行軍をすれば片道二日といったところだけど、子供の体力では厳しい。


「そうだわ、出資者として私が監視にいけばいいのよ。私も別に学校に行っているわけでもないし、エルダニアについていけば」

「どうだろうね」

「いひひ。お父様たちに邪魔されずにエド君と愛の巣を育めるわ。女の子たち三人はいるとしても、みんなで楽しく過ごせば幸せですわね」

「悪い顔してる」

「だってこんなに楽しいこと他にないわ」


 領主館まで下見に行った人に間取りを説明してもらい、部屋割りをしていく。

 ベッドは使用人たちが使っていた使用人部屋ごとホテルに転用できる。

 ちょうど一人部屋、相部屋など客室にぴったりだった。

 俺達も領主一家が生活していた個室や応接間、小食堂などをそのまま使える。

 大食堂もあり、お客さんたちの食堂にすることにした。

 それから地下室。

 地下一階には倉庫、食料庫があった。

 地下二階には大きなワイン保管庫とそれから牢屋。

 牢屋はこういう行政機関にはどうしても必要なのだそうなので、そのまま残す。


 俺達が学校へ行って、新しく決まったハーフエルフの先生の授業を受けている間にも、準備は進んだ。


 そしてついにエルダニアに行く日になった。

 もう準備はほとんどは終わっていて、あとは俺達経営陣と実働部隊が行けば、ホテルを開くだけだった。


 ミーニャとその両親、ラニア、シエル、あとエレノア様と女騎士さん一人、それからエッグバードを乗せて俺達の馬車はエルトリア街道を進む。

 もう一台、人間とエルフのお手伝いさんたちを乗せた馬車も一緒についてくる。

 さらにエレノア様の本来の馬車に女騎士ニ名、男の騎士三人、武装メイドさん三人を乗せている。


 一緒に乗せている女騎士さんは、シルリエットさんだ。

 胸の形のブレストプレート、籠手、グリーブは金属製だが限界まで軽量化されている。

 ペットボトルのように凹凸模様があって形状によって硬さを補っている。

 ひらひらのミニスカート、ガーター、ニーソックスは赤だ。

 この世界では赤の染料は比較的高価で高貴な色とされる。

 上腕、お腹、太ももは素肌が見えていてちょっと色気がある。

 絶対領域はなかなかどうして。


 元男子高生と言っても女子はミニスカに普通の紺のソックスだったので、絶対領域は絶滅危惧種だ。

 この絶妙な太ももだけ見えていて、スカートがチラッと揺れるところがなんともいえないのだ。

 この女騎士の制服決めたの絶対、おっさんだよな。よく分かっている。


「やっぱりエド君のスープは美味しいですわ」

「そりゃどうも」


 エレノア様もご満足。

 道中は俺の料理だったので、スープを作った。

 エルダタケはまだ生えるようで、なんとか在庫があったので、節約しつつ入れた。

 トマト、ナスなどの夏野菜スープだ。


 馬車ではミーニャはすっかりハーフエルフのシルリエットさんがお気に入りで、彼女の膝に乗せてもらってくつろいでいた。

 冒険者ギルドのミクラシアさんは崇拝するがごとく接してくるので苦手そうだった。

 同じハーフエルフでもシルリエットさんはもっとミーニャと波長が合うのほほんとしたところがあるみたい。


「ふんふ~ん。にゃらららん、はにゃる~ん♪」


 終始こんな感じに鼻歌とか歌っちゃって、お膝の上でゆっくり左右に揺れている。

 俺たちはそんな疑似エルフ姉妹をニヤニヤしてみつつ、馬車に揺れた。

 あっち向いてホイとか、親指を立ててその数を当てるゲームとかをしつつ過ごした。


 そうして、領主館に到着した。


「やっと着いたにゃ」

「おう、ミーニャ、走り回るなよ」

「そんなことしないよぉエドぉ」


 そういって俺の周りをくるくる回る。

 こうしてるとまるで気まぐれな妖精みたいだな。


 エレノア様を先頭にして、先行して来てエレノア様に雇われてる雑用係に玄関を開けてもらい中に入る。広い。

 大きさはトライエ領主館より少しだけ小さいくらいか。


「ここが私たちの新しいハウスね!」

「おう、ってかそれいいたいだけやろ」

「にゃーん」


 ミーニャが走って行ってしまった。後をシエルが追う。

 俺とラニアはそっと手を取る。すかさず反対側にエレノア様がずずずっと近づいてきて、そっと手をつんつんしてくる。


「私とも、手をつないでよ」

「あ、ああ」


 エレノア様とも手をつなぐ。


 ゆっくりしかし確実に領主館ホテルへ入る。

 ここが俺たちの新しい家。エルダニア領主館ホテル。


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