「はぁ、エドくぅーん。最近、こないのよね」
エレノア様が会員制ピザカレー店であるエルフィールにきている。
エドがエルダニアに旅立ってから何度も通ったお店だ。
「はぁ、カレー美味し、もぐもぐ」
カレーは美味しい。スパイスの風味と辛い香辛料がきいていて癖になる味だ。
こんな料理はいままでなかったので、とても新鮮でお気に入りだった。
カレーを食べるとエド君を思い出す。
まだ喫茶店エルフィールだったときにエド君が出してくれたカレーと同じ味だ。
使用されるトマトは当初は採取品だったが市販品に変更されている。違うところはそれくらいだろうか。
トウガラシは採取品しかなく、この辺りでは流通や栽培がされていない。
そのためエド君がエルダニアの周辺のエクシス森で採取して乾燥処理したものを定期的に送ってくれている。
最近、それもトライエ市の冒険者に採取を依頼しようかという話になっているようだ。
どんどんカレーからエド君の「匂い」が減っていく。
「はぁ、もうエドくぅーん」
向かいの席で一緒にカレーを食べている女騎士シルリエット。
彼女も美味しそうにカレーを頬張っている。護衛たちは順番に食べるため、バクバクと勢いよく食べる姿はなんとも豪快だ。
あと二人の護衛はそれを生唾を飲み込んで見ていた。
シルリエットの顔には汗が流れている。辛いのだろう。
しかしとても美味しそうに見える。
店員の子たちはそれを眺めていた。
この店の利用客数はそれほどいない。司祭様も顧客の一人だが今日は来ていなかった。
元々のお客様は三号店に移動したためだった。
「はい、交代ね」
「「はい」」
「えっと、カレー二つ」
「ご注文ありがとうございます」
シルリエットさんと交代で護衛の二人がカレーを食べる。
カレーは作り置きなのですぐよそってもらえる。
エレノア様はゆっくりとカレーを口に運び満喫していた。
「エレノア様、ビザ四枚。お待ちどおさまですっ、はい」
店員の子がバスケットに入れて持ってきてくれる。
これは持ち帰りで、あの領主様がエルフィールに行ったら買って来るようにと注文されていたものだった。
だから定期的に通っているエレノア様はカレーを食べてピザの方は持ち帰りにしている。
トマトとチーズ、それから香草の効いたピザも文句なく美味しい。
生地はパリッとしていてチーズはトロトロだ。
「はい、ごちそうさまでした。では行きましょうか」
「「「ごちそうさまでした」」」
外の男性の護衛の昼食は領主館に帰った後だ。
「カレー美味しかったわ。にひひ」
ニヤっと笑みを浮かべてカレーを褒める。
またなにかを企んでいる顔だった。
どうせエド君でも領主館に呼びつけようと思っているか、こちらから訪問しようと思っているのだろう。
持ち帰りのカレーを女騎士に持たせて、エレノア様がエルフィールから出ていった。
さて、次のエレノア様は何をするつもりなのか。