「エドのやつ、うまくやってるかな」
ハリスがミントを採取しながら呟く。
「いいか、今日はミントだからな、他の葉を混ぜないように頼んだぜ」
「「「おお!!」」」
スラム街の子供たちがハリスの声に応える。
みんな笑顔だ。
以前は誰も彼もひもじい思いをしていたが、ハーブティーと健康茶の販売で利益が出るようになり、みんなご飯も並程度に食べられるようになったのだ。
それもこれも独占していたハーブの発案者のエドがハリスに仕事を振ってきたことが最初だった。
本人はアウトソーシング、つまり外注だと言っていたが、そんなことはどうでもよかった。とにかく仕事があるだけでうれしい。
以前は子供たちの街での仕事は少なく抽選だった。抽選にあぶれた子は仕事が貰えなかった。今では仕事が貰えなかった子たちみんなで草採りをしている。
だからみんな、エドとハリスには感謝していた。
ハリスも最初は威張りん坊のガキ大将だったのだが、まともな仕事をするうちにだいぶリーダーらしくなってきた。
これにはドリドンさんとビエルシーラさんの助力もあった。
みんな助け合ってうまく回っている。
「ミント、ミントな」
今日はミントだ。
触ると独特の臭いがする草なので、さすがにスラム街の子でもミントは判別できた。
ミントからハリスの家にエドが設置していった蒸留器でミントオイルを精製している。
スーッとする油で、貴族や上流階級のご婦人に最近人気だという。
徐々に顧客を増やしており、王都や大都市を中心に売れていた。
「俺らからしたらただの草にしか見えないんだがな」
「あぁ、あんな変なオイルが高く売れるってんだから、世の中変わってる」
「まったくだ、あははは」
スラム街の子にはその価値がよく分からない。
しかし実際に売れてこうして小遣いが貰えるのだから、文句もなかった。
「エドがいないと釈然としないんだよな」
「エドかぁ、何してるんだか」
「エルダニアのほうはずいぶん街になってきたって聞いたぞ」
「そうなのか、へぇ」
ハリスたちには関係のないことだが、トライエ高等学校の年齢になるとエドたちは戻ってくるとは聞いている。
それまで、ラニエルダの子供たちを統率して、みんなに仕事を与えるんだ。
それから読み書きの勉強も続けている。
ハリスも仕事の関係で計算が必要だということは理解したので、最近まじめに算数の授業を受けるようになった。
前は計算どころか大きな数すら数えられなかったのだから、勉強は確実に身についていた。
また今度、ハーブティーと犬麦茶、それから健康茶の収穫がある。
切り株の草原はラニエルダの外側に広がっていて、その範囲を万遍なく採って歩く。
めちゃくちゃ広いわけではないが、十分な広さはあるので、採り尽くしたりは今のところしないようだった。
それから学校の野菜畑の管理もある。
適当に種を蒔いただけの、放置農法なのだがこれが思ったよりは収穫がある。
出来たものから収穫して学校の給食に使っている。
これも言い出しっぺはエドなのでみんな感謝していた。
草を採る。たったそれだけ。
それなのにお金になり、みんなが笑顔になる。
エドのハリスたちへの置き土産はとても大きなものだったのだ。