「わっわ、何これ綺麗!!」
ミーニャが見ているのは貿易品として入ってきた万華鏡だった。
ガラス板や鉄板、色ガラスがあれば作れるのでこの世界にもあるらしい。
「ほーん、これはすごいですね」
ラニアも順番で万華鏡を覗いた。
「すごいみゃう!!」
シエルも似たような感想をこぼした。
スラム街にいたらきっとこんなお土産品は見る機会もまずないだろうな。
そう思うと、トライエ市で喫茶店をやってお金を稼ぎ、さらにエルダニアに越してこれたのは、僥倖だった。
元はといえばスラム街に隠れなきゃいけないような、王族関係の暗殺事件のせいだといえばそうだ。
スラム街の家だって本来は仕送りで食べる分には困らない程度のお金が送られてきてたはずなのに、それも同じ犯人が横領して着服させていたせいなのだから。
なんというか不運というか俺ってツイていない。
ただしスラム街の家にいなければミーニャもラニアもシエルとも縁がなかったので、俺はつまらない人生だっただろう。
そんなことを考えながら、こちらの世界の月を見上げた。
ちょうど秋の満月でとても大きい。
よく見ると俺の知ってるお月様とは模様が違う。
こちらの月はウサギが餅つきをしていない。
何に見えるか、と言われるとちょっと想像力が足りない俺にはわからないけども。
それを女の子たちは順番に万華鏡をかざして見上げている。
万華鏡を通すとどんなふうに見えるのだろうか。
「あとで俺にも貸して」
「いーよー、エドぉ」
ミーニャがニコニコして応えてくれる。
三人とも仲良しでよかったよ。
エレノア様もこの三人とは仲良くなって一緒に遊んでくれたりする。
いつもいるわけじゃないけど、五人目のメンバーなのだった。
またそのうち視察とか言って遊びにくるに違いない。
トライエ高校に入ったら同じ学年なので、たぶんクラスメートになる。
今からエレノア様と机を並べるのが楽しみだ。
はやく大きくなりたい。
それまで何をして過ごすかが重要だ。
とりあえず今年は、秋の果物を何種類も収穫したので、これでエレノア様の大好きなジャムを作ろうと思う。
これは領主館の果樹園のものだ。
去年もわいのわいのと収穫したのを覚えている。
毎日があっという間だ。
季節が過ぎていくのも早い。
毎日忙してくあれこれとやっていると、気がついたら一年、二年と経過してしまいそうだ。
エルダニアは計画の通り街を作っていかないといけない。
まだまだ家は増えていく予定なので、油断は禁物だ。
美味しいもの食べて、綺麗なもの見て、女の子たちと遊んで、勉強も合間にやって、ホテルの手伝いをしてと無限にすることがある。
「えへへ、エドちゃーん」
「どうしたミーニャ」
「妖精さん、最近は近くで飛んでるね」
「そうなのか?」
「うん!」
ミーニャと妖精の関係もよくわからない。
見えるのだそうだが、俺はあまりそういうのの感度が高くないのだろう。
「また出たら教えて」
「はーい」
なんだかオバケみたいだな。
妖精とオバケ、似ているような全然違うような。
ミーニャに言ったら「違うよぉ」って言われそうだ。
そんなこんなで日常は進んでいく。