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SS3/98.5 七月七日七夕の日


 今日は七月の七番目の日のはずだ。

 つまり日本でいうところの『七夕の日』になる。

 地域によっては旧暦換算の月遅れで八月だったりもする。


 地元では七夕祭りが開かれて、幼稚園や商店街で笹が飾られる。

 笹には短冊飾りがあり、願い事を書いてお願いをする。


「ということで昔住んでたところの記憶によれば『七夕の日』でね。ミーニャ、ラニア、シエル。紙に願い事を書いてみよう」

「「「はーい」」」


 ラニア以外は最近字を覚えたばかりだ。

 読むことはできるが、書く方はあまり練習していないのもあって、字は下手くそだ。


 パピルスみたいな雑記用の紙束があるので、それに願い事を書く。


 笹や竹はこの辺には生えていない。

 若木の枝を取ってきたので、それに飾りつけをする。


 いいかな?


「うんっ」

「じゃあ、最初ミーニャから」

「はいはいっ、私はね、『大きくなってエドのお嫁さんになってお肉がいっぱい食べたい』です」


 さすがミーニャ。


「えへへ」


 照れ笑いを浮かべて、頬を赤くする。

 うぉっほい、てれてれしてるミーニャはすごくかわいい。


「次、ラニア」

「はーい。私は『エドのお嫁さんになって、世界一の魔法使いになる』ですわ」

「お、おう」


 確かに魔法使いとして重宝しているのでうれしいけど、そうか世界一目指していたか。

 でも俺のお嫁さんになるのは確定なんだ。

 ラニアが微笑んで、俺を見つめてくる。ちょっとドキドキした。


「次はシエル」

「はいみゃう。私はね『エド君のお嫁さんになって、美味しいトマトスープがいつも飲めるように豊かになって欲しい』」


 シエルの実家は苦しい家計だった。

 みんながトマトスープを飲めるって幸せなことだもんな。

 ぜひ実現できるように頑張りたいところだ。

 シエルは俺のほうに顔を向けると「にゃは」っと笑う。犬歯が見えてかわいい。


「では、それぞれ木の枝に結ぶんだよ」

「「「はーい」」」


 よいしょ、よいしょと高いところに結ぶ。


「できた!」

「えらいぞミーニャ」

「できました」

「うんうん、さすがラニア」

「えへへみゃう」

「おう、よかったなシエル」


 みんなにも声を掛ける。


 そうしてうちの七夕の飾りが完成したのだった。


 夕ご飯はひさしぶりにトマトスープにした。

 みんな美味しいと言って食べてくれた。


「さて、ご飯も食べたし、外で星を見よっか」

「星を見るの?」

「うん」


 夜は寝てしまうことが多いので、あまり夜空を見上げたりはしない。

 こちらの世界の夜空は地球とは少し違う。


 まず北斗七星やカシオペアがない。

 天の川銀河つまりミルキーウェイもなくて、代わりに中央には赤っぽい銀河の川が流れている。


「あのな、俺のいたところでは真ん中の川のこちら側に青年の『彦星、アルタイル』という星と女の子の『織姫、ベガ』っていう星が向こう側にあったんだ」

「え、夜空って場所によって違うの?」

「いや、なんというか、とにかくそうだったんだ」

「ふぅん」


「それで二人は恋人同士だったんだけど、川の両岸に引き裂かれてしまったんだ」

「え、そんなっ、可哀想にゃ」

「うん。それでね、年に一回七月七日にお月様の船に乗って彦星は川を渡って会うことが許されていたんだよ」

「うん、よかったっ!」

「そうだね。だからこの日は恋人の日なんだ」

「わかった、私たちもみんな、恋人だもん、きゃっきゃ」


「うふふ、ミーニャったら」

「わわわ、私だって恋人だみゃう、そうみゃう」


 みんなが俺をもみくちゃにしてくる。

 愛情表現が過激だ。


「私、毎日エドちゃんと一緒じゃなきゃいや、にゃ」

「私だってそうですよ」

「わわ、私だってそうみゃう」


 ちゅ。ちゅ。ちゅ。


 三人にほっぺにキスされる。

 おっほい、俺はモテモテだな。


 なんだか他人事みたいだけど、みんなかわいくて好きだ。


「俺も三人とも好きだよ」

「やったにゃああ」

「ありがとうです」

「みゃうみゃう」


 みんなで夜空を見上げ、彦星と織姫に願い事をする。


『どうか、みんなといつまでも一緒に、いられますように』


 異世界の夜は明かりも少なく、満天の星が輝いていた。

 俺たちを歓迎するかのようだった。


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