さて最近といえば食事のことばかりな気がするので、ちょっと違うことを。
一年前の焼き直しではあるんだけど、籠作りを再開しようと思う。
トライエ市の喫茶店に引っ越したり、ここエルダニアの領主館ホテルに再び引っ越したりと色々あってあまり籠作りをする時間も取れていなかった。
「ということで籠作りを再開しよう」
「うんっ」
「そうですね」
「にゃう」
ここエルダニア城内にはまだまだ空き地が広がっている。
そういう日当たりがある広い場所には蔦がよく生えまくっている。
以前のメルリア河川敷と同じだ。
「ということで春になったし繁殖してる蔦を集めようか」
「「「はーい」」」
みんな手を上げたりして賛成してくれる。
蔦を集めまくる。葉っぱは取り除いて、茎だけにする。
「実はこれだけでも売れるんだよね」
「これが?」
「うん」
蔦の茎はそのまま簡易ロープとして需要が高い。
強度は本来のロープには劣るものの、ビニールテープがない世界では非常に重宝するんだ。
背負子や馬車に荷物をしばったりするときにも大活躍する。
ロープは冒険者七つ道具の一つに数えられるほどだ。
それでもそのままでは安いといえば安い。
買う立場でいえばうれしいけれど今回は売る立場で見れたらもう少し稼ぎたい。
「そこで籠にするんだよ」
「前作ったのだよね?」
「そうだよ、ミーニャ」
去年作った籠を持ち出してくる。
ほとんどを売ってしまったのだけど、いくつかは自家用に取ってあった。
「ほら、こうやって形とサイズを揃えておくと、重なるんだ」
「だよねぇ」
「なるほどです」
「みゃあ、すごい」
休憩で集まってきたメイドさんたちにも籠を見せる。
みんな興味があるみたいだったので、みんなでやろう。
籠をクモの糸のように、縦糸と横糸にしてぐるぐると編んでいく。
そうすると一般的な籠になるのだった。
「さすがエド様ですね」
「えっへへ」
メイドさんに褒められた。うれしい。
みんなで見本と見比べて同じ形になるように調整しながら作った。
メイドさんと言っても一日中働き詰めというわけではない。
けっこう昼間は暇だったりする。
人数も宿泊客が最大のときを想定してあるので、お客さんが少なければそのぶん仕事が減っていた。
庭仕事をしたり、休憩にしたりとやりくりしている。
それでも雨が降ると外へ出かけることはできなくなる。
そこで今回、暇な時間には籠作りを推奨した。
それから一週間。
いつの間にか城内みんな、雨の日を中心に暇なときは籠作りをするようになっていた。
みんな暇だったのだ。大工仕事も雨の日は休みだ。
料理店のおばちゃんも昼と夜は忙しいけど三時ごろは暇なのだそうだ。
そんなこんなで籠作りが一大ブームになった。
「ほらこれがエド籠」
「エド籠!?」
「うん。エド様が広めたんだろ?」
「いや、まぁ、そうかもしれない」
なんとこの規格品の籠の名前が『エド籠』になっていた。
みんな見本を見て同じ大きさに作る。
集められた籠は二十個以上も積んで並べてもまだ余る。
「ほら王都へ売りに出せばいいし」
「そうよそうよ、王都から荷物を満載にしてきても帰りは余裕あるでしょ」
「だよねぇ」
メイドさんが口々に言った。
なるほど。たしかに王都から荷物を満載してトライエに売りに行き、帰りはお金を持ち帰る商人が多い。
それでも儲かるけど、エド籠を仕入れてまた王都で売ればさらに儲けが出るのか。
自分の知らないところでエルダニアの名産品になっていたのだった。
「ついでにこれも」
「なにこれ?」
「名前は縄。ロープだよロープ」
「にゃあ?」
ミーニャは頭にクエッションを浮かべているので、実際に作って見せる。
これは簡易ロープじゃなくて本当のロープだ。
領主館ホテルの前の道には街路樹としてシュロの木が植わっている。
両側合わせて二十本以上。
シュロは知らないかもしれない。ヤシの木の少し小さい木といえばわかるだろうか。
木にまとわりついている部分に繊維状のものがある。
これを取ってきて手で編み込んでいくと、ロープになるのだ。
「これがロープ」
「へぇ」
蔦も悪くはないのだけど、シュロのロープはもっと頑丈だ。
そこそこのお値段で売れる。
蔦の簡易ロープ、エド籠、シュロのロープ、以上三品目がエルダニアの商店から出荷されていく。
こうしてまた儲かった。
儲かればもっとお肉とか香辛料とか買える。
産業が増えることはいいことに違いない。
まだエレノア様に借りた借金もあるので、どんどん返済していこう。