春は春野菜や野花の宝庫だ。
「カラスノインゲン!!」
「そうだ、ミーニャ」
こちらの庭にも去年最初期に取ったカラスノインゲンが実をつける時期になっていた。
まだ紫の花も多い。
「ホレン草」
「うむ」
ホレン草。様々な料理に入れられて、俺たちの食事を支えてくれた。
「ノビル!」
「ああ」
先日エレノア様が大興奮していたので、これは記憶にも新しい。
「イタドリ!」
「おう、これも食べられるんだよね」
イタドリをむしって、アイテムボックスから塩を出して少量つけて食べると酸っぱい。
生で食べるのは通常、春の新芽が伸びた頃なので、この時期を過ぎた場合は薬草として使うことが多くなる。
「イチゴ! は花だね」
「もうちょっとだね」
真ん中にぽんぽんがあって周りを白い花弁が囲っている。
実がなるのはもう少し先だ。今から食べるのもジャムにするのも楽しみにしている。
そして……満開のサクラ。
「サクラ!」
ミーニャが両手を広げてアピールしてくれる。
「すごいです!」
「みゃあ、きれいみゃあ」
ラニアとシエルも感激していた。
領主館ホテルと中央の広場をつなぐ通路にサクランボの木があるのは覚えているだろうか。
あのサクラが今、満開を迎えていた。
薄ピンク色はとても美しくて、幻想的だった。
「うっし、お花見じゃあ」
「「「わーーーい」」」
麦わらを編んだものを地面に敷いてその上にみんなで座る。
そして思い思いのジュースを飲んで野草の天ぷら、唐揚げやドーナツ、薄焼きパンなどを食べる。
「にゃはは、うれしい」
「綺麗、ですぅ」
「みゃうみゃう、みゃあ」
みんなご機嫌だ。
普段顔を見せない領主のギードさんたちもちょろっと影ながら参加しにきた。
手が空いているメイドさんなども参加して、さらに都市の住民も集まってきた。
大宴会へと発展して、どんちゃん騒ぎとなった。
アイテムボックスの秘蔵のお肉などを出して、みんなに振舞って好評だった。
「お肉です」
「エド、どっから出してきた、そんなものっ」
「いひっひ、秘密でーす。前、エレノア様と猟に行ったときのですよ」
「あーあったな。ウルフ肉か」
「そうです!」
ちょっと筋張っているが食べられないわけではない。
肉は貴重だ。
タレをつけたり塩を振って味をつけて、みんなで食べる。
春か。新年度の季節だ。
ランドセルとか懐かしい。中学生の制服やセーラー服なども思い出す。
こちらの世界にも高等学校と呼ばれる中等教育機関があって、制服がある。
後何年かしたらエレノア様との約束で一緒に通って机を並べることになる。
どんなことを学ぶか実は今から楽しみにしている。
特に魔導具や錬金術、調薬といった文化、技術に関することは興味深い。
領主館ホテルにも魔道ランプや魔導コンロといった魔道具がいくつかある。
ポーションの類はメルンさんが詳しそうだけど、なかなか事務作業などに忙しいようで最近は一緒に勉強会とかもできていない。
「みなーみのー、ふねー。お空をー飛ぶー♪」
ミーニャが歌っていた。
あれ船って空を飛ぶのか? え、もしかしてそれ飛空艇のことか。
ロマンだよな飛空艇。
この国にも飛空艇はあるらしく、年に一回くらい上空を通過していくのが見れる。
どこへ行くのか知らないが、是非、乗ってみたい。
おじいちゃんに頼んだら乗せてくれないだろうか。
そっか、俺、王子様なんだっけ。本当に頼んじゃおうかな。
それではるか南の大陸の砂漠を横断した向こう側まで行くんだ。
さすがにそんな遠くまで連れてってはくれないか。
トライエ高等学校へ行くのと全世界旅行をするというのが二大願望だろうか。
暗黒大陸ラトアニア。魔族が治める地。
暗黒大陸は東の海の向こうにあるんだったかな、たぶん。
そういえばワイバーンの唐揚げ。あと牛丼。なぜか『ワイバーンの牛丼』という。
牛ではないがそういう慣用句があるらしい。意味は知らない。
世界は広い。
あとそうだ。ダンジョン。どこかにあるというダンジョン。
この国周辺にはないみたいだけど。存在自体は知られている。
エルフのティターニア聖国とアジベルリア帝国にあると聞いたような気がする。
「ダンジョンとか行ってみたい」
「にゃは。いくいく」
「いいですね。血が騒ぎます」
「え、ちょっと怖いみゃう」
ふむ。意見は割れているものの、シエルも怖いから行きたくないという意味ではないようだ。
どんなところかわからないもんね。
うちのパーティーは支援二人で攻撃二人なのでやや攻撃力に劣る。
ここにエレノア・ビームのエレノア様が入るとバランスはいい。
みんなでダンジョン探検。
これもやってはみたいことの一つだ。
さて今年度一年、もしくは十二歳で高等学校へ入るまでの間、どこで何をしようか。
今から楽しみだ。