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137.エレノア様とノビル味噌


 エレノア様がいるので、去年はできなかった焼いたノビルに味噌をつけて出した。


「「「いただきます」」」


 はあぃぃぃ。これこれこれ、これだよ。俺が求めてたスローライフっぽい生活。

 このネギみたいな風味に味噌がベストマッチして素朴でうまいんだ。


「美味しいですわっ、なんなのこれ。私、食べたことがないんですけど」

「これがノビルに味噌」

「ノビル……味噌」


 もう一個手を伸ばしてパクッと食べる。


「う~~ん。これ、たまりませんわ。でも小さくて。もっと食べたいですの」

「味噌はこっちにしまってある。ノビルはその辺にいっぱい生えているよ」

「えっ、これがその辺に生えているんですか?」

「うん」


 一通り食べ終わった後、エレノア様に引っ張られていく俺。


「ノビル、ノビルをもっと」

「あ、うん」


 しょうがない二人でしゃがんで、領主館ホテルの前の庭でノビルを探す。

 というか探さなくても、あっちにこっちにも生えている。

 みんな緑だから分かりにくいけど、ネギっぽいのはだいたいそうだ。


「ほらこれ」

「はいっ」


 木の棒でせっせと掘って球根を掘り出す。


「採れましたわ」

「うん、それで一個。たくさん食べたかったら」

「何個も採るしか、やりますっ」


 エレノア様がしゃがんでノビルを採って歩く。

 なんだか微笑ましい。綺麗で豪華な服もここでは形無しだ。

 まるでおままごとに必死の子供みたいで、見ているぶんにはほっこりする。

 その背中を見ながらあのときのことを思い出す。


『エレノア・ビーム』


 確かにあれはレア属性。光魔法だった。

 領主の家ではだいだい魔法が使える人が多いという話は聞いたことがある。

 やっぱりそういうことなんだろうな。

 それにしてもなんとなくロボットが手を構えてビビビビッて出すビームみたいで、ちょっと笑ってしまうところだった。

 確かに魔法の発動時に技名を叫ぶ必要は実はないらしいのだが、自分で名前を付けてもいいのだ。

 基本的には危険を知らせるため、周りの人への警告として魔法名を言う習慣があるのだ。

 もちろん詠唱といって祝詞と組み合わせることで高威力の魔法を使ったりすることもできる。

 その辺の詳しい仕組みは知らないんだけど。

 十二歳くらいから高等学校に行く予定なので、そこで習うと思う。


 レア属性か。なんというか天は二物を与えずっていうけど、貴族はそうじゃないよね。

 そんなこというと実は自分も貴族の端くれなんだっけ、うん。

 あまり実感はない。アイテムボックスはレアだけど転生特典だと思っていた。実は王家直系のせいだろうか。

 そうそう、次男三男だけど男系の直系筋なのよな。おー怖。あんまり近づかんとこ。

 エレノア様とも祖先を辿れば遠い親戚なのだ。


「たくさん採れましたわ」

「おっおう、エレノア様、お疲れ様」

「いえいえ、まだまだ元気ですわ」


 というかこのエレノア様、いつもだいたい元気だよな。

 このフルパワーはどこからやってくるのか。

 なんか農家になり立てのお嬢様みたいなキラキラした視線がなんともいえない。

 周りの家のおばあちゃんとかに大切にされそう。


 ノビルを領主館ホテルの厨房に持ち込んで、魔導コンロで炙っていく。

 炎は出ないのだけど、電熱線のコタツみたいな感じといえばわかるだろうか。


「はやく、はやく、いい匂いしてきましたわ」

「だね」


「にゃあ」

「いい匂い、です」

「みゃうみゃう」


 みんなもいつの間にか後ろをくっついてきていた。


「いただきます。あ、みんなは一個だけですからね」

「ありがとう、エレノア様」

「「「ありがとう」」」

「いえいえ」


 みんなでノビルに味噌をつけて食べる。

 くぉぉぉおおおお、これこれこれ、なんか飲んだことないけどビールが欲しくなりそうだ。

 エレノア様の前に山になっていたノビルがどんどん減っていく。


「美味しかったですわっ」

「あ、うん。あそうそう、味噌はないけど、ノビルくらいトライエ領主館にも生えていると思うよ」

「わたくし、知らなかったですわ」


 まあ他に食べるものがあれば、いちいち採って食べないんだよね。

 でも採って食べるのがスローライフなの。


 ニコニコのエレノア様は今日も泊っていくそうだ。

 明日には帰るみたいだけど。


「エド君の晩ご飯、楽しみにしていますわ」

「あっ、うん。どうしよう」


 ちょっといたずらを考えた。

 麦粥にしよう。素朴な食べ物の一つだ。トライエ市民はしばしばパン以外にもこういうものも食べるようだ。

 麦粥に春の七草みたいに、そのへんの雑草もといハーブを入れる。


「はい、エレノア様、雑草の麦粥だよ」

「雑草ですの?」

「うん。まぁ騙されたと思って」

「はいですわ」


 ふぅふぅして麦粥を一口。


「あら、意外。思ったよりずっと美味しいですの」

「でしょ」


 麦粥に草の香りが移っていて、風味がいいのだ。

 お粥なので食べやすいし、お腹にも溜まる。貴族だとこういうものは食べないだろうと思って。

 どうだ。


「ふふふ、エド君はいろいろな料理を食べさせてくれるからうれしいですわ」

「そうだよね! エドは天才だもん」

「はい、エド君は面白いです」

「はいみゃう」


 みんなもそうだそうだと言ってくる。

 みんなでベッドで横になって寝る。

 もう一緒に寝る時期でもなくなった。それぞれのベッドに分かれて広い布団がふかふかだ。

 ミーニャがくっついてこないのは少し寂しいが、まあ成長とはそういうものなのだろう。


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