エルダニアに戻ってきた。ははは、ついにこの日を迎えた。
王都メルリシアにいたので少々心配していたけど、そろそろ転生してきて一年になる。
俺は転生してきて、真っ先に味噌、醤油を思いついた。
旨味成分というのは、食生活を豊かにしてくれる。
別にコンソメでも、昆布とシイタケでももちろんいい。
そして複数種類の旨味成分は相乗効果でとても美味しくなるので特定の旨味があれば他はいらないとはならない。
幸いにして主食はイルク豆だった。
一年前の俺はこう思ったのだ。
「この豆、ひょっとしなくても味噌、醤油になるんじゃね」
げへへ。思い立った俺はそそくさと製造に取り掛かった。
必要なのは
本来の用途はよく知らない。スラムでは作っていなかったし。
ということで壺を用意して、蒸した豆を潰し、塩と麹を入れて密封した。
それから一年。たまに中を覗いてカビの繁殖がないかとかを確認しつつ様子を見てきた。
「それがですよ」
「にゃあ」
ミーニャが俺が突然、何か言い出したのでびっくりしている。
子供用メイド服がかわいらしい。
「じゃじゃーん」
「おぉおお」
「なんでしょうね」
「みゃうみゃうっ」
もったいぶって壺を見せる。
「味噌ですぅ」
「「「わああああ」」」
まったく分かっていなかったが俺に合わせてくれる。
優しい子たちだ。ノリがいいともいう。
「それでこっちが醤油」
「「「美味しそう」」」
なんとなくいい匂いがする。しょっぱい匂いもする。
すでに王都から魚醤が入手出来ているので、なんとなく想像はできると思う。
ただし魚醤のほうは少し生臭いのだ。慣れれば平気なのだろうけど、山の麓で生活してきた俺たちには少し気になる匂いだ。
そこで本場の醤油のようなものが是非、欲しかったということ。
「じゃあ小麦団子にこう塗ってだね」
今日のために小麦団子を作っておいた。
これはパスタの大きいのだと思ってもいい。発酵してない薄いパンというか
「おおぉ、いい匂い!!」
「すごいです」
「みゃうみゃうみゃうぅううう」
醤油が焼ける匂いは暴力的だ。
三人とも目を大きく開いて、鼻をヒクヒクさせて、その様子と匂いを観察している。
「こちらではダイコンと春菜とニンジンかな、あと干し肉を入れてっと」
お湯に野菜を投入して、それから王都で買った昆布を入れておく。
「こっちのスープは何になるの?」
「おお、ミーニャ。これは味噌汁だよ」
「味噌汁? ふーうん」
まあ飲んでみればわかるだろう。
コンソメやトマト、それからキノコのスープも抜群にうまいが、和風も捨てがたいぞ。
「はいできた」
「「「ラファリエール様、いただきます」」」
まずは味噌汁をごくごく。
「あちっ、美味しいぃ」
「美味しい、です」
「美味しいみゃうぅ」
そりゃよかった。まあ反応はいつもこんな感じだけど、今日はいつもよりオーバーアクションだった。
そして焼き小麦団子の醤油味。
「おいちぃ」
「これもとっても美味しい、です」
「芳ばしい、みゃうみゃう」
おう、まあそうだな、この独特の香ばしさ、しょっぱさ、美味さのバランスがいいんだよな。
あぁ俺は甘味噌の焼きおにぎりと、醤油味の焼きおにぎりを思い出して、ごくりと喉を鳴らす。
「こめ、米が食いたい」
「おこめ?」
「うん」
「おこめって鳥の餌のこと?」
「え、そうなの?」
「うん」
ミーニャが俺にそんなことも知らないの、という顔で見つめてくる。
初耳なんだが。確かに鶏小屋の飼料に薄茶の米みたいな種のようなものが混ざっているけれども。
あれ、もしかして、米なの?
「あぅ、ちょっと確認したい」
「ダメだよぉ、ニワトリさんと牛さんと馬さんのご飯横取りしちゃ」
「え、あ、うん」
厳密には自分ちの資金なので横取りといっても窃盗にはならない。
あぁ別に、イルク豆も黒パンも、それからふわっふわの白パンも悪くはない。
でも、米は米で欲しいじゃん。
たとえそれが飼料だったとしても。
そっか、でも、飼料か。味はそうだな、改良されていないのであれば、あまり美味しくはないかもしれない。
期待はしていない。でも、気になるよ。
「なんだ、エド。帰ってきてそんなソワソワして、情けない顔しちゃって」
「マークさんか、あのな、米が食いたい」
「米かぁ、あれも食えるけどな、あんまり期待しないほうがいいぞ、飼料だぞ飼料」
「うん、知ってる」
「あはははっ、なんだその顔」
「俺は悲しい。米が不味いらしい」
「そうだな、うん。でも馬を連れてるときとか飯一緒にできて便利だぞ、なあ」
「ふーん……」
マークさんは食ったことあるんだな。
味は微妙と。俺はここまでの苦労が一気に無駄になった気がして、変な顔しちゃうよ。
美味しい品種の米を探しに行きたい……。
この広い世界、米を人間が食べている地域もあると思う。
なんたって地球にはキャッサバやトウモロコシ、バナナが主食の地域だってあるのだ。
俺は遠く彼方、米を食べる民族のことを思いながら、この日もみんなで並んだベッドで眠りについた。