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132.クメールバルミサン侯爵の処刑


 えっと貴族の階級ってどうなってたっけ。

 公侯伯子男の五爵か。

 それで公爵はおじいさんちなど王家関係者か、または古い諸侯。

 クメールバルミサン侯爵家は宰相派では実質的にトップクラスの家柄ということだろう。


 すでにクメールバルミサン侯爵その人は王命により逮捕され王宮の牢獄ホテルでご宿泊となっている。

 三食昼寝付きで不自由しない生活とか羨ましい限りだ。


 俺たちは港より少し南側へ行き海で遊んだ。


「みてみてエドちゃん。波がざぶーんて」

「おう、ミーニャ。これが海岸に打ちあがる波だよ」

「面白いね」

「うん」


 ラニアとシエルも目を丸くしてその様子を眺めていた。

 俺たちの住んでいたところは少し内陸だったから海なんて見たことないもんな。


「カニいるっ」

「おう」

「すごいすごい」

「あとヒトデっ」


 カニとかヒトデ、それから岩場にはウミウシ、カメノテ、ムール貝、カキなどさまざまな生物がひしめき合っている。

 その度にミーニャが指を差して俺に質問してくる。


「エド、これ何?」

「それは……アメフラシだね」

「アメフラシっ」

「ミーニャちゃんは元気ですね」

「あはは、ミーニャちゃんはしゃいでるにゃぁ」


 そういうシエルもはしゃいでるように見える。

 ラニアもお姉さんぶっている割には目が右を見たり左を見たり忙しい。


 採って採ってとうるさくなるに決まっているのでミーニャたちには秘密だがカメノテなどはかなり美味しいという話だ。

 砂浜の部分は掘ればアサリなどが採れるはずだし。

 何人かそういう海産物目当ての人が見受けられる。

 打ち上がったワカメを拾っている人もいた。

 船の往来を見つつ、ミーニャたちの磯遊びに付き合った。


 それでクメールバルミサン侯爵の顛末を聞いた。

 どうも逮捕されてから当初は潔白を主張し白を切ると思われていた。

 しかしどこかおかしくなってしまったのがヤケになったのか突然、憑き物が落ちたかのように変貌して、ペラペラ自供をし出した。

 単に今まで秘密をしゃべらずにいた反動かもしれない。誰かに話したかったのだろう自分たちの野望を。

 まずギルドにちょっかいを掛けて王家に関する人の送金のうち誤魔化しが利き足が付きそうにないものを妨害するように依頼していたらしい。

 着服した金は担当者が好きに使っていいとたぶらかしたのだそうだ。

 これは単なる嫌がらせの一種で本命の仕事ではなかった。

 驚くのはここからで、あの俺たちの命を狙っていた連続王家関係者暗殺事件の依頼人がこのクメールバルミサン侯爵であり実行犯はその都度、使い捨てで適当に用意していたらしい。

 つまり彼こそが今までの事件のすべての張本人だったのだ。


 もちろん俺が結果的にスラムに逃げなきゃならなくなったのも、それから送金が来なくて豆しか食えなくなっていたのも、あれもこれも全部、こいつのせいだという。


 俺は本来ならハラワタが煮えくり返るくらい怒り狂うのが正しい感情なのかもしれない。

 しかし転生したせいか、なんかもうどうでもいい気がしてくる。

 スラム街にいったおかげでミーニャを拾ってラニアと友達になって、シエルも拾ってきた。

 そうして今の交友関係があるのもスラムにいたからなので、たらればを今更どうこう考えるのは難しい。


 もし王都のおじいちゃんの家で何不自由ない暮らしをしていたら俺はどんな子供だっただろうか。

 きっとつまんないガキをやっていると思う。

 貴族の子たちと元高校生の馬が合うとはとても思えない。

 いけ好かない子供として煙たがれ、黒髪黒眼だとしていじめられ、独りぼっちになって、本当にしょうもない人生を送っていそうだ。


 クメールバルミサン侯爵に対する恨みは思わなくはないが、彼がいたから結果的に今がある。

 そう思うと複雑な感情はある。

 決して許すことはできない。しかし、もうお嫁さんがいる身としてはどうでもいいのだ。


「エド、また王宮?」

「うん。ごめんな、遊びに行けなくて」

「ううん。なんか王様が悪い人の処罰を決定するんでしょ」

「うん」


 ということで俺たちは当事者としてクメールバルミサン侯爵の判決を聞き届ける必要があった。


「エド君、それからかわいらしいお嬢さんたち、よく来たね」

「「「王様、ごきげんよう」」」


 みんなで練習してきた挨拶を披露する。


「よいよい、かわいくていいね」

「「「ありがとうございます」」」

「しかし今日は悪い奴の処分を言い渡すんだ。しっかり聞いててくれ」


 こうして少し雑談で騒がしい正式な謁見室で王様が立ち上がる。


「クメールバルミサン侯爵、入ります」


 近衛兵が声を上げると扉が開き、クメールバルミサン侯爵が縄につながれたまま入ってくる。


「王様。すべては私が企んだことです。すべて自白しました。どうか、寛大なご処置を」


 そう言って頭を地面に擦りつける。

 茶髪に白髪交じりの壮年の侯爵はそれはもう滑稽に見えた。

 こんなの猿芝居にしか見えない。

 頭を地面につけているが、もうプライドも何もないのだろう。


「わたくしも長く王国に貢献してきたつもりです。どうか。命だけは」


 なるほど、当たり前だが命乞いはするか。


「王家の命を狙った。はっきりしているものでも三人は殺しているだろう」

「うっ、それはっ、しかたがなかったのです。私たち宰相派を目の敵にするからっ」

「理由などは聞いていない」

「しかし……王様。どうか、どうか」


 なるほど自白して自分は反省しているというアピールだったのか。

 目的は刑を軽くしてもらうことか。生きのびれさえすれば、なんとでもなると思っていると。


「クメールバルミサン侯爵、残念だよ。死刑とする」

「そんな、王様!!」

「もういい、連れていけ」


 命乞いをしている侯爵を近衛兵が引きづっていく。


「はあ、すまない、エド君たち。見苦しいところを見せた」

「いえ……」


 こうして謁見は終わり俺たちは男爵家に戻った。


 その日の夕方。陽が落ちる前。

 王宮の裏広場でクメールバルミサン侯爵が処刑されたそうだ。

 侯爵家の関係者のうち、事情を知っている者は少なかったが彼らも処刑された。

 事情を知らないただのメイドさんたちは解雇される。

 侯爵家はお取り潰しになり、侯爵の血を引く親族は地位を剥奪され奴隷落ちとなった。

 以上が、今回の事件の成り行きだ。


 あと数日、今度は大手を振って観光したらエルダニアに戻ろう。

 もうびくびくしなくていいのだ。


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