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129.ベッド事情と貧困だった訳


 男爵家の客室で寝ることになった。


「私、エドちゃんと一緒のベッドで寝るから、部屋はいらないです」

「え、そうなの? ミーニャちゃん?」

「はいっ」

「えっと、ラニアちゃんとシエルちゃんは?」

「私も一緒に寝ます」

「じゃあじゃあ私も一緒に寝るみゃう」

「四人でひとつのベッドで? じゃあダブルベッドの部屋にしようか」

「「「ありがとうございます」」」


 メイドさんに部屋割りを確認された。

 ミーニャたちは一緒に寝ると主張したので、メイドさんはほっぺに手をやってまぁまぁと顔を赤くしていたけど、別にエロいことはしないっての。何歳だと思ってんだ。

 メイドさんは年頃だから、そういう妄想しちゃうのもしかたがないか。


「「「おやすみなさい」」」

「みんな、おやすみ」


 とにもかくにも俺が寝ないとはじまらない。

 俺がベッドの真ん中にちんまりと入ると、左右をミーニャとシエルが占領してくっついてくる。

 領主館のベッドもまあまあ寝やすかったけど、こちらも負けていない。

 男爵家の客間なので、それなりにいい物を使っているのだろう。

 そして「私は平気」みたいにすました顔で最後にラニアがベッドにもぐりこんでくる。

 こうして俺たちは寝る態勢になり、やっと長かった一日から解放されて寝ることができた。


 それにしてもダブルベッドだとちょうどいいのか、みんなぐっすり寝たようだった。

 まだ体が小さいから四人で寝ても大丈夫なのだろう。

 あ、うん。将来どんなベッドで寝たらいいんだろう。

 キングサイズかな。俺、王様じゃないんだけど。そういう特注ベッドってめちゃくちゃ高そうなんだよな。

 搬入したり専用のシーツや掛布団用意したり大変そうなんだけど。

 今から考えてもしょうがないか。

 それに大きくなれば交代制のほうが現実的かもしれない。

 そりゃ大人になれば夜にはやることがあるし、毎晩四人の相手なんてしていたら俺でも枯れ果てて骨皮のゾンビみたいになってしまうかもしれないし。

 おぉ怖っ。


「おはよう……」


 俺が起きるとみんなも起きだす。

 特にミーニャは朝弱いみたいだし、シエルは朝とか関係なくずっと寝てそうだ。

 ラニアはしっかりしているからきっと目は覚めてても俺が起きるまで待っててくれたんだろう。よくできたお嫁さんだこと。


 みんなで朝の準備をばらばらにして食堂で再会する。


「「「いただきます」」」


 パンにハチミツ、それから焼いたベーコン。あとミルク。

 うんどれも美味しい。

 みんなもぱくぱく食べる、食べる。

 パンとかお代わりしたりして、結構食べる。

 貧乏性の俺は怒られないか少し心配したくらいだけど、男爵様は子煩悩なのか終始ニコニコしているだけだった。


「どうしたエド、もっと食べてもいいんだよ」

「いや結構食べてるけどいいのかなって」

「子供が遠慮なんかするものじゃない。どんどんお食べ。なんならもっと用意してもいい」

「いえ、これだけでも十分です。ありがとうございます」

「「「ありがとうございます」」」


 みんなちゃんとお礼は言う。頭もしっかり下げていた。

 礼儀正しくてかわいいからおじいちゃんはメロメロだ。

 あれだな老人タラシだな、うちの子たちは。

 俺もそれを見て癒されているから一緒だけども。

 こんなかわいい子にお腹いっぱい食べさせないとか正義が揺らぐもんなぁ。

 絶対にそんなことがあってはいけないよ。


 そうそう一応スラム街で貧困にあえいでいた事実があるけれど、あれには後日談がある。

 まず父さんの弁明からすると、彼は俺を連れて行ったほうが危険だったのだ。狙われており定住が無理そうで逃亡の旅なんてすれば危ないに決まっている。

 母ちゃんのほうは危険を察知してから猶予がまったくなく、そして伝手はみんな貴族であった。

 彼女の知り合いの貴族は上位貴族がほとんどで、そして恐ろしいことにその中に敵に通じている人も多いだろうし敵その張本人も混ざっている可能性があった。

 頼りにできる人が皆無だったのだ。おじいちゃんちは男爵家で問題ないのだけど王都なので安全ではないという立地の問題がある。

 しかたがなく貴族から地理的にも遠いトライエ市に行き、慎重に慎重を重ねたうえで貴族の魔の手から一番遠いラニエルダのスラム街に落ち着いた。

 たまたま老夫婦に助けてもらえたというのも大きい。

 問題はその後でスラム街で数年暮らしてみたものの、情報も入らず状況が分からないため改善策を模索するべく俺を残して王都へトマリアは戻ってきた。

 それで想定外だったのはトマリアは俺に資金を送っていたらしいのだ。しかしスラム街に届く前に、どこかの誰かに着服されて俺の所へ回ってこなかった。

 もちろん事実を知ったトマリア母ちゃんは鬼のように怒りそうだったんだけど、間に入っている人たちが多すぎて特定は無理なので、泣き寝入りとなった。

 お金の送金にはラファリエ教のセブンセブン商会と冒険者ギルドのどちらかだけど、トマリアは冒険者ギルドのほうを使ったそうだ。

 どうも王都の冒険者ギルドには、相手が遠くてスラム街みたいな信頼のおけないところへ送金する場合にちょろまかしている小悪党がいるらしい。

 国へ訴え出ることはできるが、利権が強い冒険者ギルドは外部からの干渉を極端に嫌うので王国から文句は言いにくい状況にある。

 つまりセブンセブン教会など複数ルートを使わなかったトマリアの責任でもある。その辺はしょんぼりしてしまい可哀想なのであまり責める気にはならない。


 まあなんとか生きていたし贅沢さえしなければイルク豆だけでも死んだりはしない。

 その辺は領主が配給をたまにしたり、炊き出ししたり、弱者救済というのは悪党や災害が少ないときには名誉を立てるのに有効なので、そこそこの割合であった。

 失敗といえば失敗だが、終わってしまったことをくだくだ言ってもしょうがない。


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