大晦日と正月という言い方をすると妙に日本っぽい。
異世界だとニューイヤーというべきだろうか。
ホリデーズという言い方もあるが、なんだかしっくりこない。
大晦日の数日前、今日の定期運行馬車が王都から到着した。
エルダニア領主館ホテルのロビーに乗客が入ってきたのだけど、知っている顔がいた。
「あああ、母ちゃん」
「トマリアさん」
顔を知っているミーニャがトマリアを指さしてびっくりしている。
一応話はしてあったけど実感はなかったらしい。
「やあ、エド、それからミーニャちゃん。おっきくなった?」
「にゃあ」
トマリアがミーニャに抱き着いてもみくちゃにしていた。
ミーニャもされるがままになっている。
正月にはトライエ市に帰ってくるならラニエルダを通るのは数日前ということになる。
まあそういうことだ。計算通りなので問題はない。
トマリアはセミロングの茶髪の普通の女性だ。
鑑定を掛けてみようかと思ったが、どうも一部の人間は鑑定されたのを感知できるのと、鑑定を他人に対して使うのはそもそもとしてマナー違反だそうなので親と言えども自重する。
「あのさ母ちゃん」
「なんだい」
「俺ってエドモント・アリステアなんだよね?」
「誰に聞いたんだ、そんなこと」
「実は鑑定で見えて」
「鑑定使えるようになったのか、ほーん」
興味あるだかないだか分からない顔で俺を見つめてくる。
「やっぱり、話さないとダメかな」
「俺と母ちゃんの素性ね。教えてくれ、覚悟はできてる」
「そういうなら教えるけど、あんまいい話じゃないよ」
「うん」
こうして母親が話しだす。
まずトマリアの夫、俺の父親、そして父親の父親つまりおじいちゃんについて。
おじいちゃんはこの国のメルリア王国の国王陛下の弟だという。
弟といっても元は第三王子つまり三男坊だったらしい。
そして父親はおじいちゃんの二番目の男子。
いずれも王家も公爵家も継ぐ立場になかった。
トマリア母ちゃんは王家の身の回りの世話をしている男爵家いわゆる法衣貴族の家の娘で、王宮で出会って結婚したそうだ。
ところが話がややこしくなるのはここからで、王家では新しく男子が何年も生まれていない。
生まれた子もいたのだけど、何人か小さいときに死亡している。
また王子たち親世代も何人かすでに死亡したという。毒殺されたらしい。
そして魔の手は俺の父親にもかかり、殺されかかったのだけど、なんとか生き延びて今は別の場所に隠れ住んでいる。
危険を感じたトマリアはなんとか俺を連れて王都を離れて、トライエ市のスラム街に逃げ込んできた。
そしてスラム街でミーニャ一家を拾った。
俺はギードさんたちが居れば一応安心だということで、トマリアは王都で仕事をしていたと。
何の仕事をしているか教えてくれなかったけど、もしかしたら王家のお世話とか暗部の話かもしれない。
「だいたいわかった」
「そう、思ったより驚かないのね」
「まあね、なんとなく察した」
「ふふ、エドも大人っぽくなって、大きくなったね」
「まだ六歳なんだけど」
「それでも、昔よりずっとたくましくなったわ」
「ありがと」
とにかくトマリアと合流した。
正月一杯は最低でも一緒にいるそうだ。
王宮でもギードさんたちが領主館ホテルを作って経営している話はすでに耳に入っていて、現状は黙認という状態になっているそうだ。
できれば王家は自分の陣営に取り入れたいらしい。
そういえばエルフ国のティターニア聖国の王家とメルリア王家って血のつながりがある。
そんでもってトライエ市のゼッケンバウアー伯爵もメルリア王家とは遠い親戚だ。
つまり俺んちとミーニャさんちって遠い親戚なんですね。それからエレノア様も。
まぁ親戚の親戚が親戚なのかというとよく分かんないけど。
つまり何が言いたいかというと、俺ってミーニャやエレノア様と結婚するとなると、家柄のバランスとか気になっていたけど、十分釣り合う程度のお家なんですな。
その辺の平民とかではないと。
「王家では隔世遺伝というらしいが、たまに黒髪黒眼の子が生まれるわ」
「へぇ、それが俺ってこと?」
「そうだね」
そうなんだ。
なんだか逆で笑ってしまう。
もしかしたら王家の人間が外に作った認知されない子供だから嫌われているという理由かもしれない。世の中はなかなか世知辛い。
年末年始は神社にお参りとかもないので、年末は領主館ホテルを掃除したりして過ごした。
なんだか母親がいるということが変な感じすらする。
前は母親がいて当たり前だったはずなのに、もうずっと前のようなそんな感じ。
ああ、正月はパスタを食べる習慣があるようだ。
三食パスタ。
パスタの麺は王都産の乾麺で、手早くペペロンチーノなどにして食べる。
この世界でいうところの手抜き料理扱いらしい。
挨拶とか忙しいので、食事はパスタで済ますという風習なのだそうだ。
豆生活のスラムではそんなことなかったけど、王都の一般家庭から王室ではパスタなんだって。
ところ変わればなんとやら、なるほど面白い。