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123.鶏小屋とクリスマスツリー


 十二月に入った。

 朝晩とだいぶ冷えるようになってきた。


 俺はミーニャとシエルがいるからベッドの中は温かい。

 朝起きるとミーニャたちは冬でも元気で外へ出ていく。


「えへへ、えい! えい!」


 シャリッ、シャリッ。


 氷だけでなくこの地域では霜柱ができる。

 ミーニャとシエルが庭にある霜柱を踏んで遊んでいた。

 俺とラニアはそれを見てニコニコしているだけだ。


 この辺はトライエ市よりだいぶ標高が高いのかもしれない。

 ヘルホルン山の中腹にあるので、そうだと思う。



 さて大工衆が帰ってしまう少し前のこと。

 俺が考案した長屋の同じ家を作る工法により作業が予定よりはかどっていた。

 俺たちは作業が終わった大工衆を集めて、ある施設を建設してもらった。


 それが鶏小屋と牛舎だ。

 前から考えてはいた。


 牛舎は仮設小屋があったのだけど、冬を越す前に壁があるちゃんとしたものを用意したかった。

 そして鶏小屋だ。

 この世界基準の最新の横長で使い勝手のいい鶏小屋を作ってもらった。


 小屋の完成時期に合わせてトライエ市からオスメス両方のニワトリを輸送してきた。

 トライエ市のニワトリ産業は領主の事業だったので、エレノア様に采配をお願いしてきた。


 俺のアイテムボックスにはニワトリなど生物を入れることができるが、普通のマジックバッグには入れられないらしい。

 ということで専用に手配された馬車にニワトリを満載して運んできてくれた。


「エドく~ん」

「エレノア様」

「えへへ、来ちゃった」

「お久しぶりです」

「もう、全然手紙くれないし、手紙が来ても事業の話ばっかり」

「まあ意味もなく高い手紙をほいほい出せないですよ」

「そっか」


 今回はなんと直々にエレノア様がやってきたので俺はちょっとビビった。

 青い紺のヒラヒラドレスを着てなかなかお洒落をしている。

 今回も護衛の女性近衛騎士さんたちが一緒だった。


 みんなでニワトリを捕まえて鶏小屋へと入れていく。

 半分放し飼いにできるように後ろ側に出入口があり、そこから広い城内の草原へそのままつながっていた。


 そして隅っこ。忘れていたわけではないけど、エッグバードちゃんがうちにはいる。

 領主館の中でペット同然で飼われていたが、このほどニワトリさんと一緒にすることにした。

 種類は違うが仲間がいたほうがいいだろう。


「じゃあ、達者でやれよ」


 コケコケ、コケケケ。


 エッグバードも俺たちにずいぶん懐いたものだ。

 本当は仲間を増やしてあげたいのだけどレアモンスターだけあってまだ遭遇していない。

 冬の間に森に入って仲間を見つけてやりたいというのはある。


 ということで鶏小屋ができた。



 そして領主館の目立つ位置に一本の三角形のモミの木がある。

 三メートルくらいだろうか。結構でかい。

 これ、クリスマスツリーにするためにこの場所に植えられているらしい。


「ということで、これをクリスマスツリーにします」

「「わーい」」

「ふふっ」


 みんなで今までせこせこ作ってきた小さな飾りを木につけていく。

 丸形、星形とかお魚形とか靴下形とかがあった。

 お魚形はこの世界特有かもしれない。日本では見たことがない。

 あと地球で言うジンジャーマンブレッドっていう人形のクッキーの形のもある。


 クリスマスツリーの文化はみんなにあるわけではなくて上流階級を中心にした人たちのものらしい。

 庶民は家の玄関に木の葉っぱがついた枝を輪にしたクリスマスリースを飾る文化がある。

 こちらのほうが一般的だ。


 まぁラニエルダのスラム街ではあまりやっていなかった。リースはたまに見たけど。

 唯一クリスマスらしいのはドリドン雑貨店の前に置かれた巨大なモミの木の植木鉢が飾りつけされたものだろうか。


『あはは、うちくらいはクリスマスらしくしないとな』


 とドリドンのおっちゃんが笑って言っていたっけ。

 きっと元のエルダニアのドリドン商会では立派なクリスマスツリーがあったのだろう。

 そういう伝統を受け継いでいきたいという気概を感じた。

 今、エルダニア領主館の前のツリーを見て、懐かしく思った。


 ドリドンさん。伝統は受け継いでます。

 見てないでしょうけど、エルダニア領主館のツリーはこうして復活しましたよ。


 さて子供たちだけでは下のほうしか届かないので、みんなに手伝ってもらった。

 今日は珍しくギードさんも参加していた。

 ギードさんとメルンさんは一応、命を狙われているので普段は人の少ない裏方の仕事と事務作業をしている。

 表に出てくるのはお祭りのときくらいなのだ。



 もうすぐクリスマスになる一週間くらい前。


「エド君、手紙きてるよ」


 メイドさんの人に手紙を渡される。ふむ。あて先は確かに『エド』とある。

 ひっくり返して差出人を確認する。そこには『トマリア』と書かれていた。

 この郵便事業はセブンセブン商会のものだ。

 一応として冒険者ギルドでも手紙の配達はあるが、こちらの場合は取りに行かなければならない。


 ――母ちゃん、やっぱり生きてたんだな。


 内容は今、王都メルリシアの王宮にいるそうだ。

 正月前には帰ってくるので、よろしく、とだけ書かれていた。


 なんなんだ母ちゃん。

 というか王都にいたのか。それも王宮に。

 なんか俺にも名字があることを含め、王宮と言われると王家と関係があるってことかな。


 この手紙はラニエルダのスラムの家に一度届けられたのが転送されてきたものだった。

 えっと診療所のミミレーヌさんだったか。彼女からの二重封筒になっていたので。


 王宮にいるとは書いてあるが、住所などはなく、どう返事を書いたらいいか分からない。

 でもラニエルダに帰る気でいるなら、ほぼ必ずエルダニアを通るはずなので、そのときに捕まえればいいか。


 こうして一週間早い吉報のプレゼントとなった。

 あ、そうそう手紙と一緒に冒険者ギルドで両替してもらえる金貨十枚の交換券が入っていた。

 この交換券は小切手に似ているけど不渡りがない。

 クリスマスプレゼントなのだろう。

 ありがとう母ちゃん。


 こうしてあとはクリスマス当日を待つだけとなりました。


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