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144.今年も桃の季節


 トマトの栽培を見に行ってすぐ。

 今、エルダニアの領主館ホテルの庭では、桃がたくさんなっていた。


 去年はギリギリで最低限の手入れをして、なんとか実がなる程度だった。

 今年は剪定もして、新芽から伸びた枝ぶりもよく、いい感じに環境を整えてきた。


 ラニエルダのあるトライエ市はこちらより何度か気温が高く、その小さな違いからか、あまり桃の木が生えているという記憶はなかった。

 去年食べた桃でも十分美味しかったけど、今年は準備もしっかりしたからそれ以上が期待できそうた。


「桃もモモモもモモのうち〜」

「あははミーニャ、機嫌いいね」

「うんっ、やっと桃が食べられるんだもん」

「そうだね、収穫しようか?」

「やった!!」


 ミーニャがぴょんぴょん飛び跳ねる。

 まるで猫みたいに俊敏で、今度はへにゃりとゆるゆるダレる。


「えへへ」


 もう桃を食べた気分になってへにょへにょしているらしい。かわいい。

 猫は液体とかいわれるのに似てて、こちらも思わず笑みを浮かべた。


「桃〜モモモ〜」


 ちなみにモモモという小柄な桃に似た植物があるそうで、エルフ国にはたくさん木が生えていたらしい。

 ミーニャは桃にはうるさいのだ。


「桃とりまーす」

「いいですよ」

「にゃう、私もっ!」


 うちの猫ちゃんたちが文字通り木に飛びついて桃を収穫していく。

 あっという間に両手いっぱいになった。


 大きさも十分でさらに色がいい。程よい桃色でとても美味しそうだ。

 今年は桃の実が大きくなる頃に下に白い布、中古のシーツを敷いておいたのだ。

 下からも光を当てることにより、発色がよくなり糖度も上がるらしい。


「「「いただきます」」」


 女の子たちが我先にと桃を頬張る。


「美味しい、にゃ!」

「美味しい、です」

「美味しいみゃう」


 みんなニコニコだ。

 俺もそれを見て満足そうに頷いた後、自分も食べる。

 うん、うまい。

 瑞々しくてかなり甘い。最近は砂糖も使えるようになったとはいえ、甘みは贅沢品という考え方は依然としてある。

 桃水をたっぷり吸い出す。

 まだ少しだけ青い若い桃で、程よい硬さがある。シャッキリしていて、食べごたえもあった。


 そうだ。トライエ市では桃が珍しい。

 最近、忙しいのか監察役のエレノア様もやってこない。

 桃を持って夏の挨拶に行こう。


 ということでみんなで馬車に乗る。

 基本的に歩きで行く人はほとんどいない。

 護衛として、今回もビーエストさんによろしく頼むことになった。

 この前、ストゥルミル村に行った時はトライエ市内はほぼスルーしたので、ちょっとエレノア様にも悪いと思っていたんだ。


 桃は様子を見てアイテムボックスに放り込んである。

 時間停止があるので腐ったりしない。

 地球でも日本以外の国では宅配便の腐敗率が問題になっているとネットで見たことがある。

 荷物が届く前に腐ってしまう問題らしい。

 ということで俺たちは余裕があるので、イージーモードだった。


 ぱっかぱっかとお馬さんに引かれて馬車が進む。

 天気は夏晴れ。外はカンカン照りだけど、馬車には屋根がある。

 日本よりも湿度が低くて日陰だと過ごしやすい。


 ミンミンミンミン。

 シャンシャンシャンシャン。


 エルトリア街道の周りには森が広がっているので蝉の声がひっきりなしに聞こえてくる。

 ただし近すぎずうるさいわけではない。

 なんというか「ザ・夏」という感じで非常にのどかだった。


「トライエ到着!!」


 ミーニャが馬車から顔を出して叫んだ。

 トライエ市の新東門から中に入ると、懐かしのラニエルダを右手に見ながら進んでいく。

 ドリドン雑貨店も道沿いなので手を振ったら振り返してくれた。

 元気なようでなによりだ。


 内門のところで早馬を出してもらい領主館に先触れをお願いした。


 自分たちはそのままゆっくりトライエ市内を進んでいく。

 家々の町並みは以前と変わらなくてとても懐かしい。


 トライエ領主館に到着した。


「エドくうぅぅんん」


 サマードレスを着たエレノア様が走ってくる。

 馬車から降りるや否や俺にくっついてきた。


「エド君、元気してた?」

「あ、うん」

「暑かったでしょ、中のほうが涼しいわよ。みんなも」

「ふにゃあ」

「はーい」

「にゃうぅ」


 とまぁみんなで応接間で休憩をした。

 その間に桃やキノコなどを出して料理長に渡してもらう。


 俺たちはしばしばエレノア様と話をしてくつろいだ。

 エルダニアの発展とかトマトの話とか色々だ。

 シエルがトマトが凶作で奴隷に売られてしまう話ではエレノア様も涙を浮かべていたっけ。


「美味しいですわ」

「にゃあ」

「みゃう」


 トマトを冷やして薄切りにしてドレッシングを掛けたサラダが出てきた。

 さらにキノコの旨味スープも用意してもらった。


「うっま、お美味しいですわ、これですわ。なかなかキノコが売ってないんですの」

「まぁ俺くらいしか採ってくる人いないからね」

「ギルドにも話したのに梨の礫で悔しかったですわ」

「そっか」


 そして桃のタルトが出てきた。

 サクサクの生地に生クリームたっぷりの上に切った甘い桃がふんだんに盛られている。


「甘くて美味しいわ」

「にゃうぅぅ」

「美味しいです」


 エレノア様だけでなく食いしん坊妖精のみなさんも満足そうにしていた。


 こうして桃を持参したエレノア様への夏の挨拶は大成功だった。


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