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130.国王とおじいちゃん


 朝ご飯を食べ終わって今日の予定を決める。


「予定は?」

「今日は国王様が会ってくださるわ」

「え、マジで」

「そうよ」


 トマリアがあっけらかんと教えてくれる。

 そうか、えっとおじいちゃんのお兄さんが国王なんだっけ。


 格好はいつもと同じ一張羅だった。ただし胸鎧はつけていない。


「この格好でいいのかな。ドレスとか着なくても」


 ラニアが心配してくれる。


「大丈夫よ。今日は非公式な謁見だから。正式には謁見には含まれなくて私的なうち合わせね」

「そうなんだ」

「ええ。親戚とはいえ子供と会っている暇があったら自分を王に会わせろという人が多くてね。表では秘密なの」

「なるほど」

「だからラフな格好でも大丈夫」


 しばらくして馬車が到着した。

 王の謁見くらいになると迎えの馬車が来るらしい。

 あれトライエ市でもそういえば馬車に乗った覚えがある。

 私用なので今回は王国の紋章がついていないが、これが正式な謁見だと国の紋章付き馬車に護衛が付くそうな。

 なるほど正式な謁見って結構面倒くさいんですね。


「わぁい」

「みゃうぅ」


 ミーニャとシエルが窓から外を眺めて楽しそうにしている。

 馬車は街中なので現代人の俺からすれば比較的ゆっくり進んでいる。

 でも子供たちにすれば十分楽しいのだろう。

 馬車の中ではラニアが俺とちょっといちゃついて楽しんだ。ぐふふ。

 手を握ったり肩を寄せ合ったりしちゃいました。


 貴族街を抜けたら堀を挟んで王宮のある区画へ入る。

 そのまま門を抜け建物に横付けされた。

 ロビーになっていて屋根があるので雨が降っていたとしても濡れない。

 さすが王宮だけはある。


「にひひ、すごい」

「さすがに豪華です」

「なんとなくすごいみゃう」


 シエルはよく分かっていなそうだ。猫耳がかわいいから許しちゃう。

 玄関ホールにはメイドさんが並んでいて頭を下げてくれる。

 おおぉやはりミニスカメイドさんだ。ニーソックスとの絶対領域。かわいい。

 それが左右に五人ずつ十人はいる。


「「「いらっしゃいませ」」」

「「おはようございます」」

「「「おはようございます」」」


 ミーニャたちが元気に返事をするとメイドさんも朝の挨拶を返してくれる。

 玄関にいる子はずっと立ったままここでお客さんの出入りだけ担当しているのだろうか。

 だとしたら結構な無駄というか豪勢な人員配置だ。

 入口だから変な人とかもくるのかもしれない。そういうときに人が必要になるケースはあるんだろうとは推測できる。


 さて入ってすぐのロビーにはソファーが並んでいた。

 ここが待合室を兼ねているらしい。まるで現代のホテルのようだ。

 少しだけ待たされたあと、奥へ案内される。


 謁見室ではなく応接室というところに入る。

 中にはおじいちゃんが二人。


「やあ、よくきてくれた。エド君、私が王のエミルドル・アクリルシールだ」

「おはようございます」

「おはよう」

「おはよう。ワシは王弟のオーリドル・アクリルシールだ」


 顔が似ている。兄弟なのは間違いない。どちらも白髪でポセイドンみたいな顔をしている。

 分かるかな、あのポセイドン。ギリシャ神話の神々みたいな顔というか。四角くてごつい顔。

 白髪なんだけど「ハクハツ」じゃなくて「しらが」ね。

 元は二人とも金髪のようだった。少しだけ金色が混ざっている。


 ややこしいが俺の名字はアリステアだったはず。

 昨晩泊めてくれた母親のおじいちゃん家がアリステア家なので、つまり俺の名字は母親姓になっているらしい。なんでかは知らん。

 結婚しても父親の名字にならないのか、もしくは実はもう親父が死んでいるという可能性もある。

 どこで何してるか知らないが、困ったもんだ。


「孫じゃ、孫、こっちへおいで」

「あ、はい」


 俺がおじいちゃんらしい方の前へ進む。

 ガバッと抱き着かれる。そして背中をポンポンと叩かれる。


「どうじゃ、一緒に王宮に住まないか?」

「えっでもトライエ市の高校へ行かないと」

「そうじゃな。まだ何年かあるじゃろそれまでの間だけでもいいぞ」

「え、自分だけじゃ決められないので。それにギードさんたちが」

「ギードか。あの御仁も生きているらしいな。よかったよかった」


 そして部屋の中にいる少女三人を順繰りに見る。


「この子たちはお友達かな?」

「あの、お嫁さんです、はい」

「がっははは。お嫁さんときたか。こりゃ愉快だ」


 じいさんたち二人ががはははと笑う。

 むぅ。本気にしていないな。これでも俺は一応本気でお嫁さんにする覚悟を決めてるのに。


「エドのお嫁さんのミーニャです。ギードの娘です」

「げっ、そういう関係か。というか血の濃いエルフ……じゃな」

「エド君のお嫁さんのラニアです。マギ族の娘です」

「マドルド王国の貴族だな、ふむ」

「エド君のお嫁さんのシエルですっ。えっと村長の娘です」

「村長くらいなら安心じゃな、あはは」


 うむ。うちは多種族大歓迎なんでね。


「それで先祖返りの黒髪黒目のエドか。なるほど」

「まあそうですね」


 お茶を一口いただく。高い紅茶だ。なかなかうまい。


「それで俺がスラムにいた間、トマリアが送金してくれていたんですけど、それがちょろまかされていたみたいで届いていないんです」

「ちょろまかしか。そんなもの訴えられて記録を確認すればバレるだろうに」

「それが、よく分からなくて」

「そうだな。冒険者ギルドには?」

「いえまだです。なんだか介入を嫌うから貴族は手出しをしにくいって」

「男爵家くらいだとそうだな。うちは王家じゃから」

「王家じゃぞ」


 つまり王が動いてくれるってことか。願ったりかなったりだけど、そうか。

 王命とかいうので首が飛ぶ人が出るかもしれないのか。

 そう思うと気が重い。

 値段は月に金貨二枚。約一年で金貨二十枚くらいのはずだ。

 首がちょん切れるにしては安い値段だと言える。

 しかし罪くらいはつぐなってほしい。

 こちとらスラム街でイルク豆生活だったんですよ。


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