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128.男爵家


 王都も夕方になり、茜色に染まっている。

 家々は黒い木の枠に白い石壁なので、映えること映えること。


「それじゃあ、男爵家に行こうか」


 歩く。歩く。商店通りから少し離れているようだ。

 東側の海以外全部城壁に囲まれているというのに、その内側はかなりの広さがあるらしい。


 住宅街を抜けると、高級住宅街になった。


「すごい、豪華な家ばっかり」

「だよねぇ」


 ミーニャが目を丸くする。

 ここが男爵家が並んでいるエリアだそうで、なるほどちょっと貴族の館っぽい。

 家々の間には空間があり、木々が生えていて庭も少しある。

 さすがにパターゴルフなどができるほど広くはないが、住宅街のほうが家がぎりぎりまで並んで建っていたので、その景色は全然違う。


「ここよ」

「おぉおぉおお」

「ここがエドちゃんのおじいちゃん家なの?」

「そういうことね」


 なるほど母親の実家だからおじいちゃん家なのか。

 なんか物心ついたときにはスラム街に住んでいたんで、あんまりにも実感がない。


 門の扉を開けて中に入る。前庭が少しあり短い通路の先に正面玄関があった。

 現代みたいに門にブザーとかはないので、中に入ってから確認する必要があるのだ。


 大きくてお洒落な木製のドアのノッカーを叩いた。

 コンコン。


「はーい。どちらさまですか?」

「トマリアです。エドとお嫁さんを連れてきました」

「はいはいお嬢様でしたか。今開けますね」


 お嬢様、つまり母ちゃんのことか。

 なんだか変な感じがするな、そう呼ばれているのを想像すると。

 ドアが開けられた。


「どうぞ」


 メイドさんだった。男爵家も一応貴族だけあってメイドさんとかいるんだな。

 下級貴族だから家主しかいないのかと思っていたわ。

 茶色のショート髪のメイドさんはまだ若いお姉さんで、なんだか愛嬌がある。

 なかなかかわいいけれど、やはりミニスカメイドだから余計そう思ってしまうのかもしれない。

 この世界のメイドさんは布の節約という文化のため、みんなミニ丈なのだ。

 そのかわりほぼガータベルトとニーソックスなので、俺はこれがかなり好きだった。


「「「お邪魔します」」」


 みんなで挨拶をして中に入る。

 メイドさんが最後に押さえていたドアを閉めると、先頭に回って案内してくれる。

 その後ろ姿もミニ丈なので、太ももが見えていて、なかなか。

 別にエロおやじじゃないけど、気になるものは気になる。

 いつも領主館ホテルでも見てはいるけれど、若いお姉さんだと思うと余計、なんだかうれしくなる。


「お疲れでしょう。今お茶を淹れますね」

「ああ、よろしくね、エランダちゃん」

「はい、お嬢様」


 メイドさんはエランダちゃんか。頭を一度深く下げると、応接室を出ていく。

 この応接室は客間を兼ねていて、長テーブルに椅子が並んでいるので、食事のときのようにみんなでそれぞれの椅子に座る。


「ふぅ、今日はいっぱい歩いたから疲れちゃったね」

「そうですね」

「私は平気、みゃう」


 なるほど、シエルはまだ元気いっぱいか。

 ミーニャは俺と同じような運動量しか普段ないからな。俺たちはわりあい大人しいほうなので、家の中を一日中走り回っているわんぱく小僧のような運動をしていないのだ。

 だから長距離を歩いたりすると、ちょっとへばってしまうよな、ミーニャ。


 ミーニャは椅子に座って足をぶらぶらさせていた。なんだか子供っぽくてかわいい。

 ラニアは足を八の字に女の子座りみたいに開いて、足の裏を浮かせていた。なるほど、このほうが少しおとなしいな。

 シエルは部屋中をじろじろ見まわして、興味深そうに観察している。


 調度品は絵が一点。草原でたたずむ赤いワンピースを着た少女の絵だ。たぶんこれ母さんの小さいときの絵だわ。髪の色とかが同じだし。

 どこかの絵皿のセットも置かれていた。陶磁器みたいな白い土に青い絵の具で線が描かれている。

 それから小さな祭壇。ラファリエール様へ干し肉とかを捧げるために使うのだろう。


「ふふぅうん、豪華だみゃう」


 うん、男爵家、思ったよりは裕福そうだ。


 そういえば父さん、生きてるらしいね。

 トマリアによれば数年以上前、俺が生まれてすぐくらい。命の危険を感じた父さんはこの際だからと諸国の放浪の旅に出ていってしまったらしい。

 俺たちを連れてくことも考えたそうだが、急ぎだったのと俺がまだ小さかったため、置いていったとのこと。

 別に薄情なわけではなく、連れて行った方が危険そうだったからだろう。


 王家の血筋の父さん。どんな人なんだろうな。

 快活な感じの母さんを射止めたくらいだから、さっぱりしたイケメンなんだろうけど。

 黒髪なのかな。でも隔世遺伝だっていってたから、たぶん金髪系だろうな。王家や貴族は金髪がほとんどなので。


 お茶を飲んで適当にだべる。

 そうしているうちに夕ご飯の時間になり、おじいちゃんたちが顔を出した。


「トマリア、それにエド。あとその歳でお嫁さんなんだって?」

「ええ、そうらしいわよ、ね、エド?」

「はい、みんな僕の女の子です」


 おじいちゃんがドアを開けて開口一番これだった。

 なんか俺はどこかのデジャビュのような台詞を吐いているが、しょうがない事実は曲げられないし、たまにはかっこよく決めたいからね。


「ははは、さすがトマリアの子だなぁ、よいよい。さぁおじいちゃんたちと一緒にご飯を食べよう」

「ささ、座って」


 おじいちゃんが現れてみんな立ち上がっていたので座り直す。


「ラファリエール様に感謝して、いただきます」

「「「いただきます」」」


 ステーキとフライドポテト、サラダ、コンソメスープ、そして白パンが並んでいる。

 あと共有のお皿にイチゴ系のフルーツ。

 ナイフとフォークだ。領主館ホテルでもこれだったので、まあ大丈夫。

 いつもはわりあい煮込みとかのスープなので、スプーンだけで済ませることも多い。


「美味しいですっ」

「はい。美味しいと思います」

「みゃうみゃうぅうっ、美味しいです」


 三人とも笑顔でちゃんと感想をさらっという。

 よくできたお嫁さんたちでよかった。


「そうかいそうかい、あはは。いっぱいお食べ」


 おじいちゃんも上機嫌で夕ご飯をいただいた。

 男爵様とかいうから堅苦しいかと思ったけど、思ったより気さくな人みたいでよかった。


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