メルリア王国、王都メルリシア。
王都の中を馬車で進んでいく。
家々はほとんどが三階建てで木の柱に石の壁なのは共通だった。
広場では楽器の演奏をしている人と歌っている人がいて、その周りで人々が踊っていた。
王都のお祭り『春の花と歌と踊りの王都祭り』だった。
あちこちには花が飾られている。
この王都祭りに合わせて周辺の村々で栽培しているらしい。
馬車はそのまま商業ギルドの馬車専門店へと向かった。
おっと到着前に荷物を出しておかないと。
アイテムボックスから取り出して積んでいく。
馬車からの荷物の積み下ろしは自分たちの仕事ではない。
お店の前に着くと馬車が停まる。
「よし、降りよっか」
「うん」
トマリアに言われてみんなで馬車の荷台から降りる。
数日間の旅を共にした馬と御者さんとお別れして、街へと繰り出した。
まずは今日のお昼ご飯を食べよう。
今は昼を少し過ぎたころだった。時間が中途半端だったため昼休憩をしなかったのだ。
「エド、エド、お肉!」
すかさずミーニャが出店を見つけてぴょこぴょこ跳ねる。
非常にかわいらしいけど、お腹が空いているようなので、ずっと見ているわけにはいかない。
「分かった、分かった。おじさん、肉パン、五個ください」
「あいよっ」
頭に鉢巻をしているおじさんから焼きたてを受け取った。
お値段はトライエ市のウルフ肉よりパンを考慮してもちょっと高い。
しかし、なんの肉なのかは分からない。
王都のほうが都会だからそもそも物価は高いかもしれない。
「ねぇおじさん、これなんの肉なの」
「さぁな、ヒツジかヤギだと思うんだがな、アジベルリア帝国は放牧が盛んだから、あっちから輸入してるんだよ」
「あぁなるほどね」
「それでこちらからは、船で運んできた砂糖や絹、あとメルリシアから塩と魚を輸出してんだ」
「ほーん」
そうか。アジベルリア帝国は広大な平原が広がっていて遊牧民も多いらしい。
そのお肉をここまで輸送してくるんだ。
生きたまま運んでくるのと、塩漬けや干し肉にするものもの多い。
俺んちがトライエ市で食べる干し肉もたぶん元はコレなのだろう。
逆にメルリシア特産品と渡来品を売ると。
それで貿易額が釣り合う感じでうまく回ってるということだ。
なるほど、よくできている。
「おいちぃ」
「んっ、美味しいわ」
「美味しいみゃう」
まあ、みんな普段通り。
これは塩漬け肉なのだろう。思ったより塩が効いている。
塩味というのも結構美味いんだよな。
パンのほんのりとした甘味もいい感じだ。
塩だけでなくコショウも効いてるやつが抜群にうまいけど、コショウは高いからな。
それは他の都市より直輸入だから安いのだろうけど、それでも高い。
お腹を満たしたところで広場へ向かう。
「にゃらら~ぱぱぱ~ほりゃらら~」
ミーニャたちも聞こえてくる音楽に聞き覚えがあるらしく、一緒に鼻歌を歌い出した。
なんというか、すごくかわいい。
周りの人たちはニコニコしてそれを聞いていた。
なんというかすごく平和だな。
犯人はどこの誰だか知らないが王家暗殺騒動とか噓みたいだった。
もしかしたら一般には知られていないのかもしれない。
何年にも渡って前回の死亡事件が忘れられたころに「王家の人が死ぬ」。
対外的には病死とかにしているのだろう。
さすがに暗殺されましたとか公表されている雰囲気には見えない。
「次、これ食べたい」
「お、いいね。ペンゲッタだっけ」
「うん!」
馬車旅の途中で話題になったので、みんな名前は知っている。
ペンゲッタは小麦粉と水と砂糖を混ぜたものを薄く広げて焼いたお菓子だ。
王都の有名お菓子であちこちの露店で売っている。
砂糖を直接輸入しているから他の都市より安くできるんだそうだ。
鉄板の上には五センチくらいのサイズの薄焼きが何個も並んでいる。
ほいっとひっくり返すとキツネ色に焼けて美味しそうだった。
クレープと違って硬いので薄焼きせんべいみたいな感じだろうか。
もしくは甘くしたガレットみたいというか。
まぁそんな感じのものを想像してほしい。
ああもっといい例を思い出した。あれだよ、たい焼きのはみ出た部分。好きだったな。
「甘いっ、おいしっ」
「これも美味しいわ」
「美味しいみゃうみゃう」
お、みゃうみゃうも元気いっぱいだ。かなり美味しかったみたいですね。
しょっぱいのの次は甘いもの。女の子は砂糖でできているっていうし。
一枚サービスで食べさせてもらい、十枚セットだった。
それを四セット買ってみんなで分けた。
パリパリしていて食感もいい。
なるほど、さすが王都名物だけあって、かなりの高評価だ。
まだ夕方までは時間がある、次はどこで何をしよう。
大型帆船があるという港を見たい。
漁港へも行きたい。そして魚を食べたい。
そうだ、生の魚。生では食べないかもしれないけど、焼き魚でもいい。
それから貝とかイカ、タコ、カニ、エビとかも。
あとアイテムボックスの有効活用として塩と砂糖とコショウを仕入れたい。
調味料はいくらあっても使うし、余ったら余ったで売ればいい。
王都のほうが安いんだから買ったほうがいい。
王宮見学もしたいし、母ちゃんの実家の男爵家も行くそうだ。
お泊りはその男爵家の予定となっている。
やりたいことはいくつもあるので、楽しみだ。