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124.クリスマス


 十二月二十四日。冬至が過ぎて二日経過。


「今日は降りそうだね」


 朝から空を見ているミーニャが曇り空を見上げている。

 空には厚い雲がヘルホルン山を超えて、こちら側まで到達していた。


「ああ、雪になりそうだ。ホワイトクリスマスだぞ」

「ホワイトクリスマス?」

「うん」


 そういう概念がないのか、不思議そうに反復する。

 日本にはクリスマスにだいたい首都で雪が降るとカッコイイという話がある。


「あのな、恋人たちが真っ白に染まった街を見て、ときめくんだ」

「ふ~ん。よくわかんにゃい」

「まあそうだな」


 この子たちに言ったところで分からないか。


「約束通り唐揚げ食べような」

「うんっ、唐揚げ大好き!」

「だよな」

「えへへ」

「私も唐揚げ好きです」

「みゃうぅ、あのギルドの定食」


 ミーニャがにこっと笑う。ラニアが微笑んで、ちょっと得意そうに口角を上げた。

 シエルはヨダレが垂れそうな顔をしている。

 思えば冒険者ギルドで鳥の唐揚げ定食を食ったのもだいぶ前だった。

 それから何回か唐揚げモドキはしたものの、ニワトリじゃなくてウサギだったから少しパサパサしていた。

 ウサギでも十分に美味しいけれど、ニワトリはやっぱり美味しい。


 鶏小屋を作ったのもこのためと言っても過言ではない。

 オスもそこそこの数連れてきたのは肉にするためなのだ。

 メスは卵を産んで残りのオスがいることで数を増やしていく予定だ。

 卵はすでに領主館に供給されていた。


 今日はこれからメイドさんたちによってニワトリが解体されて唐揚げの準備をすることになっている。


 そうして夕方。


「エド、エドちゃん! 降ってきた。雪、雪だよ」

「おう、さすがに寒いな」

「えへへ、雪、すごい」


 犬庭駆け回るというが、猫だったはずでは。今はどうみても犬みたいだった。

 ミーニャが走り回ってそれを妹分のシエルが追いかけている。

 ラニアがゆっくりそれを追う。


 冬服のメイド服を着て、少女たちが小さな雪が舞っている中、走り回っている姿はとても絵になった。

 ときおり雪に手を伸ばしてぴょんぴょんしたりしてかわいい。

 また俺は心のシャッターを切って、思い出として刻む。


 待ちに待ったクリスマスの夕ご飯になった。

 みんなが食堂に集まっている。

 ギードさんとメルンさんも一緒だ。


「今日は特別な日です。今年も無事にクリスマスを迎えられました。ラファリエール様に感謝します」

「「「ありがとうございます。メルエシール・ラ・ブラエル」」」


 この聖句もなんだか懐かしい。

 最近は簡略化した言い方を多用していたので、古代語の謎の響きがなんだか神聖だ。


 大人たちは今日はエールではなくワインだった。子供たちには紫のブドウジュースが配られた。

 これはこの日のために輸送してきたもので、特別な飲み物となっている。

 祭壇にはもちろんパンと干し肉。それから聖水の代わりに今日は特別にワインが捧げられていた。


「ああ、美味しいな」

「えへへ、唐揚げ! 美味しい!」

「唐揚げ美味しいです」

「唐揚げだみゃう」


 みんなで山盛りになっている唐揚げを食べる。

 メイドさんたちを含む全員で分けるので、一人の分はそれほど多くはない。

 でもこの山になっているのが幸福に見えて、なんだか幸せを感じる。


 エルダニア再興も軌道に乗りつつある。

 そして母、トマリアが生きていて戻ってくるという話。


 窓の外には雪が舞い散り、地面を白く染め上げていく。


 ごちそうさまをした俺たちははやる気持ちを抑えて寝る。

 クリスマスの夜にはプレゼントがもらえる。


 この世界には空を飛ぶサンタクロースはいない。

 代わりに聖なる騎士ドラゴンナイト様が世界中の子供たちにプレゼントを配ると言われている。

 まあ実際には親がくれるのは一緒だし内緒だ。


「エド、おやすみ。プレゼントもらえるといいね」

「ああ、今年はいい子にしていたし、いっぱいいいことしたから大丈夫だよ」

「そうだよね。ゴブリンキングとかクマをやっつけたりしたもんね」

「おう、よ。お休み、ミーニャ、ラニア、シエル」

「「「おやすみなさい」」」


 みんなで布団に入る。

 今日は珍しくラニアも一緒に布団に入ってきた。

 さすがに三人が左右に並ぶことはできないのでミーニャの向こう側だけど、ラニアもニヘラと笑顔を浮かべている。



 朝。


 ポチュチューピ。

 ピピピピピ。ピチュ。ピピピ。


 朝から鳥の声がして目が覚めた。それ以外はものすごく静かだ。

 外には雪が積もっていた。雪が積もると音が吸収されるのですごく静かになる。


 ベッドの中はミーニャたちがくっついてくるので今日もすごく暖かい。


「むにゃむにゃ、おはよう、エド」

「ああ、おはよう、ミーニャ」


 ミーニャに続いてラニアとシエルとも挨拶を交わす。

 ベッドから這い出て部屋を見回す。


「そうだ、プレゼント!」

「ああ、ちゃんとあるね」

「うんっ」


 名前の紙がついている包装紙の箱が四つ。


「じゃーん。くまさん」


 ミーニャへのプレゼントは茶色いクマさんのぬいぐるみだった。

 大きさは二十センチくらい。


「私のはえっとスライムさん、です」


 ラニアには水色のスライムのぬいぐるみだった。


「みゃうっ私のはネコさん!」


 シエルはネコのぬいぐるみだ。シエルとお揃いの白ネコだった。


「どれどれ」


 俺へのプレゼントはさて……。


「おぉい、俺もぬいぐるみなのか」


「あっ、エドのぬいぐるみはゴブリンさん!」


 俺は緑色をした人型の人形、ゴブリンだった。

 顔は愛嬌があるがあまりうれしくはない。

 まぁミーニャたちはよろこんでいるからいいか。


 差出人はギードさんたちだろう。

 この世界では当たり前だがぬいぐるみはかなり高級品だ。

 スラムの子が持っているのは親が端切れで作ったダサい人形のぬいぐるみと相場が決まっていた。

 このプレゼントのぬいぐるみは王都の品だろう。

 ギードさんたちもなかなか侮れない。


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