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102.ラニエルダ小学校の野菜畑


 ちょっと夏の合間に俺たち子供組は隊商にお世話になって一度、ラニエルダに戻ってきた。

 事務処理とか喫茶店の様子見とかあるのだ。


「わっわ、エド、エド、トライエ市だよっ」

「ああ、ミーニャ、懐かしいな」

「うんっ、みんな元気かな」


 エルフィール一号店の家部分は空けてあるので、今でも俺たちが寝泊まりできる。

 それからラニエルダ小学校の放置畑も気になっていた。


 俺とミーニャ、ラニア、シエルは学校へ今は行っていない。

 エルダニア領主館ホテルはお手伝いさんもいるので、朝の仕事が終わると、お昼ご飯と夕方以外は暇だった。

 その空き時間にギードさんにお願いしてたまに歴史や算数の勉強をしていた。

 メルンさんに薬学などを学ぶこともたまにある。


 馬車から下ろしてもらい、トライエ市の門を通過する。


「おぉエドか、元気してたか、相変わらず仲いいな」

「そういう門番さんだって、なんだかうれしそうじゃないですか」

「わかるか、あはは、最近彼女できたんだ」

「そりゃよかった。おめでとう」

「ありがとう」


 あの腕が三本とかバカ話をしていた門番さんも春がきたらしい。

 もう夏だけどね。遅い春だったね。


 こうしてトライエ市の家に戻ってくる。

 そういえば、まだ母親トマリアは戻ってきていない。


 ラニアもおうちに戻って両親とご対面だ。

 もう自称お姉さんなので泣いたりしないが、抱きしめ合っていたので大丈夫だろう。


 翌朝、俺が朝ご飯を作って食べて、ラニアを連れて学校へ向かう。


「みんな、元気?」

「おおぉエド生きてたか。ミーニャちゃんもラニアちゃんも、それからシエルちゃんも」


「「「へへ……」」」


 三人とも注目されてちょっと照れ臭そうだ。

 みんなの聖女様と戦乙女だもんな、あと鈴巫女様。


 聖女様と戦乙女は例のエドのうんち一週間戦争で名付けられたものだけど、シエルの字名あざなはゴブリン・スタンピード戦で後からつけられた。


 実は三人とも、女子魔法部隊から予備役として来ないか、とすでに誘われている。

 規定の年齢になるまでには正隊員にはなれない決まりなので、その抜け道として予備役なんだけど、エルダニアに行ってもいいという条件で受諾はしている。


 予備役でもお金が出る。なんと月に一人金貨一枚。

 俺たちの収入からしたら少ないけど、家賃と同じだと思えば、結構高い。

 非常事態があればエルダニア警備隊と一緒に戦う義務があるので、命を張っているという意味では決して安い値段ではないんだけどね。


 俺はなんというか騎士団の予備役のほうに所属しているのだけど、同じく金貨一枚。

 まだ六歳なのに優良物件には唾つけておくということだろう。


「おうおう、それで野菜畑なんだけど」

「ああそれなりにできてきたぞ。それからトマトには支柱立てておいたから」

「ハリス、元気だったか?」

「両親ともに元気だ。うちは儲かってるんでエドのおかげだ、助かる」

「そりゃどうも」


 正面から褒められると俺だってちょっと照れる。

 あのハリスもだいぶ丸くなったもんだ。

 前はガキ大将だけど、悪ガキの類だったものな。

 腹空かせていたのもあるんだけど、ドリドンさんにしごかれてるらしいし。

 あのドリドンさんの商品を見る目は鋭いから手は抜けまい。


 ハリスは今、ハーブ類の収穫を増やしている。

 なんでも秋の終わりから冬にかけて、ほとんどの種類が枯れてしまうため、その間は出荷ができない。

 それだと困るということで、倉庫に在庫を少しずつでも乾燥ハーブの状態で置いているらしい。

 先出し先入れは当然やっているみたいで、感心した。

 その辺はドリドンさん、商店のビエルシーラさん、それから教会のバイエルンさんの入れ知恵だな。

 仕事相手が大物だと少しは成長するか。


 ということで旧友とお話をしたところで畑を見る。


「ちょっと前から収穫できるのは採ってる。構わないんだよな?」

「もちろん。腐ったらもったいないから時期になったらどんどん採って、余ったら売ってもいいよ。儲けは学校の備品とか干し肉とか買うといい」

「そうする。チョークとか紙束とかな。あと勝手にやったが、第二弾の種蒔きしておいたぞ」

「おう、そりゃどうも。お金は?」

「ドリドンさんと俺んちから少し儲かってるんで」

「景気がいいことで」

「まあな」


 時期をずらして種蒔きしておけば、長く収穫できる。

 最初に蒔いたときも全部ではなくて毎週ちょっとずつ蒔いたのだ。


 今日もお昼になる前に収穫して、イルク豆と野菜の炒め物になるらしい。

 なぜかウサギ肉、干し肉も入れられて結構美味しそうだ。


「前より豪華になったな」

「ああ肉は少しだけど冒険者がたまに差し入れで。干し肉はみんなで儲け分から少し」

「なるほど」


 まあ儲かってくればこうしてご飯を食べることぐらいはできるようになると。

 よかった、よかった。


「盗難は?」

「あるぞ。ただ夜中なのかなんなのか、ちょっと盗まれるくらいだな。こんな量一度に朝市なりギルドへ出したら自分が犯人だって言ってるようなもんだし」

「そりゃそうか」

「そういうこと。自分で食う分を盗んでいくやつはいるが、もうしょうがないな」

「それくらいなら見逃してる?」

「いや、一人派手に採ってるやつは夜の警備で捕まえた。あとは沈静化して放置だな」

「わかった。まあいいんじゃね」

「だよな。面倒だし」


 食うに困ってるから栽培しているが、ラニエルダには豆しか食えないレベルの人もいる。

 多くがエルダニア民でこの人たちは仲がよく結束が固いので悪いことは基本しない。

 俺たちみたいに流れてくる人の中には悪い人もいるが、近所づきあいとかはあるので、相互監視が基本なのだ。

 表立って悪いことしていれば目立つので、治安はそこまで悪くないと。


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