マークさんや俺たちが暇なときに、森へ入ってモンスター狩りをすることもあった。
エルダニアの近くエクシス森林ではゴブリンも出るが、他にウルフやウサギなども出没する。
ウルフ肉はトライエ市では肉串として安く売っているけど、それもそのはずで筋ばっていて堅い肉質なので、好みが分かれる。
肉々しいのが好きな一部の人はともかく、安かろう悪かろうというのがその評価だ。
そしてウサギ肉。やや鳥肉のようなさっぱりした脂身の少ない肉だ。
単独でただ焼くとパサパサしてそれほど美味しくはない。
唐揚げにするととても美味しいので、うちではもっぱらそうする。
「そこでですよ。合いびき肉のハンバーグにしよう」
「ハンバーグ?」
「そそ、ハンバーグ」
肉をミンチにするという考え自体はこの世界にもある。
しかし数センチの肉団子にしてスープに入れるのが主流だ。
「スープの肉団子と違ってな、ちょっと大きめに作って焼いて食べるんだ」
「へぇ、美味しそう」
「だろう」
ウルフ肉をナイフで細かく刻んでいく。
それが終わったら同様にウサギ肉も調理してしまう。
ウルフ肉とウサギ肉を合わせて、卵や塩など他の材料も入れてハンバーグにしていく。
あの硬かったウルフ肉がちょうどいい感じになって、食べ応えがありつつも、食べやすくなった。
淡泊なウサギ肉には濃厚なウルフ肉とその脂身が合わさって、絶妙な感じに。
「種ができたので、これを焼いていくよ」
「うわぁぁ」
じゅわぁ。
ハンバーグのお肉を焼いていく。
すでにいい匂いがあたりに充満している。
「わっわわっ」
ほいほいっとひっくり返して反対側も焼こう。
そうしてお肉が焼けましたらば。
すでに用意してあったお皿にハンバーグを盛りつけて、王都直送デミグラスソースをその上から掛ける。
ソースに少し値が張るが致し方あるまい。
そして先に作っておいたジャガイモを細切りにしてオリーブオイルで揚げたもの。
つまりフライドポテトを添えて、はい完成。
「「「いただきます」」」
「「「美味しぃいい!!!」」」
もぐもぐもぐ。ごっくん。
もぐもぐもぐ。
お肉大好き妖精ミーニャもラニアもシエルも、みんな口にいっぱいハンバーグを食べる。
よほど美味しいのだろうか、最初に美味しいと言ったきり夢中になった食べていた。
この甘辛いソースも絶妙で、この世界の食文化も侮れない。
そこへ合いびきハンバーグという凶器を持ち込んでしまったから、腹ペコ妖精さんたちが群がってくるわけですよ。
こうして、ハンバーグは女の子たちに絶賛され、領主館ホテルの定番メニューに追加されることが決まった。
宿に泊まった人たちにも大好評なので俺は鼻が高い。
ポテトといえば、ポテトを細切りにしてフライパンで焼いた地球で言う「レシュティ」に似た料理方法もある。
小麦パンばかりかと思いきや、俺たち貧民の豆だけでなく、ジャガイモ料理ももちろんあった。
これが思いのほか人気だ。
領主館ホテルでも目の前の畑で採れるジャガイモを使った定番メニューの仲間いりをしている。
さて、そういえばベッド事情について。
このホテルに来てから一人いちベッドというふうに割り当てられた。
俺たちは一応、領主一家という立場なので、使用人部屋ではなく、子供部屋なんだけど、みんなで同じ部屋で寝ている。
それでこの前の嵐になった日の夜以降、またミーニャが同じベッドで寝たいと駄々をこねたのだ。
「ミーニャね。エドと一緒に寝る」
「お、おう」
「あ、あ、シエルも!」
ということでまたミーニャとシエルが俺のベッドにもぐりこんでくる毎日になった。
ベッドは規格品で標準サイズなので、子供なら三人で寝ても狭いというほどではないのが、幸いなところか。
「私は、べつに、一人で」
そういうのはラニアで、でもほんのちょっと未練があるみたいな表情をしていた。
なかなか乙女心は複雑だ。
もうお姉さんは一人で寝れる年齢だという自覚があるようだ。
それに俺と一緒に寝るなんて恥ずかしいし、といった感じなのだろう。
夏の間は暑いのでご勘弁願いたいが、秋になってから少し涼しくなってきたこともあって、天然暖房器具の女の子は温かくて、思いのほかぐっすり眠れる。
やいのやいのと体をくっつけてくる。
子猫みたいで、かわいい。
しかも子猫ちゃんは二人いるわけで、なかなかベッドの上は手狭で大変なんだけど、この温もりは捨てがたい。
この子たちももう少し大きくなったら、離れてしまうかもしれないと思うと、なんだか寂しくも感じる。
こんなに無邪気に抱き着いてくるのは今だけだろう、たぶん。
大きくなったらこの一人用ベッドじゃあ狭いしね。
「むにゃむにゃ、えどすきぃ」
「エド君、もう食べられないみゃぅ」
なにを考えているのやら。
気持ちよさそうに寝ていると、こっちまで眠くなるので安眠グッズのようだ。
春眠暁を覚えず、とはいうけど秋もなかなか眠るのにちょうどいい気分だ。
まさか俺がこんなに人肌が恋しいとは思わなかった。
なんだか今日も気持ちよく寝られそうだ。
俺もいつの間にか意識を手放していた。