夏のピークは少し前に過ぎ、今はだいぶ過ごしやすくなってきた。
いつも女の子たちは、ワンピースタイプの中古服などを着ているんだけど。
トライエ市から王都へ向かう輸送馬車が到着した。
この馬車には経由地であるエルダニア向けの品々も積まれている。
「きたきた。今日の馬車でくるはず」
「どうしたの、エドちゃん」
「えへへ、実はね。トライエ市の裁縫店に、下取りのメイド服を回してもらえるように頼んでおいたんだ」
「ほーん?」
ミーニャちゃんはいまいちわかっていない様子。
「ほら、セブンセブン商店とかトライエ領主館のメイドさんが着ていたような服が届いたんだ」
「え、あのヒラヒラスカートの?」
「そ、ヒラヒラスカートの?」
「それって私たちのサイズもあるの?」
「もちろんです。抜かりはありません」
馬車に駆け寄って、品物を受け取る。
確かに『エルダニア領主館ホテル、メイド服』と書かれている。
「よいしょ、よいしょ」
ホテルまで服の入った木箱を運ぶ。
よく考えたら運ばないでアイテムボックスに入れればよかった。俺の努力、南無三。
「とにかく開けよう」
玄関ホールから更衣室のほうへ運んでいく。
そこで蓋を開ける。
「じゃじゃーん」
「おおーぉ」
「ふーん」
「みゃう」
ふーん、とあまり関心がなさそうなのはラニアだ。
しかし目は取り出した白と黒のメイド服にくぎ付けだ。
ほっぺはわずかに赤くなっている。すでに着ることを想像して恥ずかしがっているらしい。
なんだか、そんな表情がすごくかわいい。
「はい、これが子供サイズみたい、はいどうぞ」
「あ、ありがとう」
ラニアがまず受け取る。
「これも子供サイズ。あとこれも。はい、はい」
「あ、うん」
「みゃううう」
ミーニャはまだよくわかっていないようだけど、とりあえず手にして着替え始める。
シエルもなんだか釈然としない顔をしているが、着替えはするらしい。
そうして普段着のミニワンピースを脱いで、メイド服、エプロン、靴下と専用品を着る。あとホワイトブリム。
「できたよ、エド」
「着替えました。えへへ、どうですか。ちょっと、恥ずかしいですね」
「みゃう、私なんかに似合うかみゃ」
揃って着替えて俺に見せてくれる。
三人ともテレテレしていて、とてもかわいらしい。
「うん、みんな、すごくかわいいよ」
「やったあ!」
「う、うん。そうよね」
「みゃうみゃう!!」
なるほど小さいので、ただただカワイイ。
異世界の女の子は美少女ばかりなので、こういう服が嘘みたいに似合うのだ。
めちゃくちゃかわいいな、おい。
黒ベースの服に白いエプロンとミニスカート。
そして白いガーターベルトとニーソックス。
ガーターなのは趣味なわけではなく、ゴムがないのでニーソのような長い靴下を穿くならこれしかない。
長さがミニ丈なのは元々は高価な布を節約した風習の名残だ。
特に小さい子は頻繁に服を変えるため、もったいないとされる。
二十歳を過ぎるくらいからミニ丈は卒業して長めのスカートになるのが習わしだ。
メイドさんは未婚の若い子という決まりだから、当然のようにミニ丈なのだ。
スマホとかあったら写真撮りまくって、SNSにアップとかしたいレベルだ。
一万イイネとか貰えそう。
写真集とか出しちゃったりして。
「うふふ。かわいいですね」
「おお、メイドさん、メイドさん。本職のみなさま」
「なに、私たち?」
「うん。実は大人用も人数分あるんだ。予備も」
「そうなの、きゃっきゃ」
メイド服は上流階級のメイドさん用と決まっている。
装飾などが多いので高いのだ。
この世界ではそもそも布や裁縫されたものは高価だ。
庶民からしたらヒラヒラとか無駄の極みだが、これがステータスそのものなのだろう。
これはトライエ裁縫店の汎用デザインのもので下級貴族の家とかでよく着られているらしい。
くそ高い中では比較的安いものとなっている。
だから日本と違ってただのマニア向けファッションではなく、格式あるメイドのステータス衣装なのだ。
ということで、年頃以上の女の子の憧れだった。
「みてみて、かわいい!」
「これよ、これが着たかったのよ。今までさんざん苦労したから、感動もひとしおで」
メイドさんたちもさっそく着替えて感動している。
「我ら、エルフ組もメイド服に感動です。これからも頑張ります」
エルフ領でもメイド服のステータスは高いらしくて、みんな喜んでくれた。
もちろん俺が頼んだもので、エレノア様の差し金である。
張り切って中古のメイド服を揃えてくれたらしい。
なんでか知らないが、俺がこういう服を大好きなのを知っているご様子。
謁見のときにメイドさんガン見してたのバレてーら。
もう少しでエレノア様まで直々にメイド服でやってくるとメールに書いてあったのを、引き留めておいた。
手紙には「また今度会う時でいいよ。俺はちゃんと待ってるから」って書いておいた。
ほいほいとしょっちゅうエレノア様がエルダニアにくるわけにはいくまい。
まだ就学前なので自由時間があるとはいえ、出歩いていると噂が立つのはあまりよくろしくない。
一応、まだ先なんだけど同学年であるので、トライエ高等学校で一緒に机を並べる約束はすでにしてある。
ややこしいけど小学部と高等部はあるが中等部はない。日本の中学生くらいが高等部となる。
これにはミーニャ、ラニア、シエルも推薦枠の予約済みなので、試験がボロボロで不合格にならなければ大丈夫のはずだ。
推薦があっても試験自体は受ける決まりなのだとか。
ちなみに俺たちは定期的にギードさんたちから指導を受けている。
ただ小学部で習って高等部の入学試験になる内容は読み書き基礎計算ができればほとんど問題ない。
「領主様、見てくださいこれ、メイド服」
「ああ、メイド服だな」
「領主様はこういう服、お嫌いですか? はしたないと思います?」
「いや、前はみんなこれだったから別に。ただ懐かしいな」
「そうですよね。これかわいいから人気なんです、見てくださいっ」
メイドさんたちも領主様に順番に見せに行って、きゃっきゃとはしゃいでいた。
やっぱり若い女の子にはイケメン領主様とか人気なんだな。
「エド様、どうです? かわいいですか?」
「もちろん、特にそのニーソックスの上のところが最高」
「わかります? ここちょっとセクシーで。でもエド様にはセクシーとかちょっと早いかな? わかんないよねぇ」
「ええ、まあ」
「しょうがないよね。でもかわいいって言ってくれるからエド様も好きですよ」
「あはは」
俺をおだてても何も出ないぞ。
いや、たまにフルーツとかの甘味を出すことがあるな、うん。
女の子たちはこうしてメイド服を着て見せびらかして歩いた。
しかし、そのうちみんなピリッとして、領主館のスタッフだという自覚でもあるのか、その服に見合った仕事をするんだと意気込んで頑張っていた。
やっぱりちゃんとした制服があると、なんだかんだ仕事する気分になるらしい。
よかった、よかった。
えへへ。メイド服、俺が好きだからとかいう理由だとは思うまい。
これは上流階級の身だしなみだもんね。
どちらにせよ領主館には必要なのだった。