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108.クマ鍋


 中央広場にある噴水の先、用水路の脇には作業場がある。

 大量に水を使うような場合に使用する場所だ。


 ここに取ってきたクマをアイテムボックスから出す。


「おおおぉ、これが例のクマか。デカいな」

「ですよね。俺もびっくりしました」


 ハンターの人にクマを見せる。


「では解体の方よろしくお願いします」

「任せておけ」


 こうしてハンターさんがクマの解体を始める。


「腹んところ、丸焦げだな。こんだけデカいクマだから、クマカーペットにしようかと思ったんだが、ちょっと腹の部分は使えないな。ただ左右の幅が減るだけで毛皮は十分な大きさだけど」

「なるほど」


 ラニアがファイアボールなんて使ったので、お腹は丸焦げだ。

 毛が全部炭化して黒くなっていて、それが皮の部分までダメにしてしまっている。

 皮が目的ではなく、退治することが第一目的だったので、批難までする人はいない。


「こ、今度は、少し手加減、するわね」

「う、うん」


 ラニアがしょんぼりしてしまった。

 別に悪いわけではないが、こういう責任感みたいなものはある。


 クマの皮にはナイフが入れられてどんどん剥いでいく。

 そのまま皮と肉を切り離していく。


 慣れていないと少し怖いが、魚を捌いていると思えば、なんとか。

 大枠では同じだ。


 数少ない街の人たちも見学に来ている。

 門番さんの部下の雑用をする人などが主にいるだけなので、住民は比較的暇なのだ。

 前は旅の商人の世話もしていたが、今は領主館ホテルで相手をしているので、住民たちの負担はぐっと減った。

 いつぞやの商店の人も、興味深そうに見に来ていた。


 皮が剥がされると、今度は肉を切り分けていく。

 部位ごとにブロックにしていくらしい。


 できた肉塊は領主館ホテルのメイドさんがホテルに運んでいく。


「お肉……」

「ああ、俺たちも様子を見に行こう」

「うんっ」


 ミーニャがお肉が行ってしまうのを残念そうに見ていたので、後をついていく。

 行先はホテルのメイン厨房だった。


 大きな鍋がいくつか魔道コンロに掛けられていて煮立っている。

 そこにお肉をさらに一口大に切って入れていく。

 料理人の人は鍋のアク取りをしたりしている。


 鍋の中にはすでに野菜も投入されていて、クマ鍋になっていた。


「お鍋」

「そうだな。クマ鍋だね。こういう料理の定番」

「そういえば、しし鍋したもんね」

「そそ」


 ぐつぐつとお肉と野菜が煮られていく。

 なかなかいい匂いがして、食欲をそそられる。


 またお肉が運ばれてきて追加投入される。


「美味しそう」

「ああ、食べ応えがありそうだ」

「はやく食べたい!」

「うん、でもほら、じっくり煮込まないと」

「そっかぁ」


 ミーニャだけでなくラニアとシエルも喉を鳴らす。


 俺たちは再び外の解体の見学をした。

 このクマも魔物らしく大きな魔石が取れた。


「ほい、坊主。魔石」

「ありがとう、おじさん」

「お前らが取ってきたやつだからな。ギルドもまだないし大事に取っておけよ」

「はい、ありがとうございます」


 ここには売るための冒険者ギルドも献上するトライエの領主もいないのだ。

 一応ギードさんはいるけど、正式にはそういう領主ではない。


 ギードさんにあげてもいいけど、家計上は俺と一緒になっているので意味はない。


「クマさんの魔石、きれいにゃ」

「本当、とても綺麗です」

「綺麗、綺麗、みゃうみゃう」


 三人とも俺の手の中にある魔石をのぞき込んでくる。

 中を見ると濃い紫の宇宙に星みたいなのが飛んでいるような錯覚を起こすのだ。

 魔力の影響らしいが詳しい理由はわからない。


 ただこういう上位の魔石は神秘的な見た目から、美術品としての価値も高い。


「マジックバッグにしまっておくね」

「うん……」


 ミーニャが名残惜しそうにしつつも同意する。

 ささっとしまう。もちろん本当はアイテムボックスだ。

 手の上に置いて見せびらかしていると、運動神経がいいスリとかにヒョイッと盗まれるたりする危険がある。

 もちろん、ここにそういう変な住民はまだいないが、旅人や大工の下働きの素性までは責任は持てない。


 カートに載せられた大鍋が中央広場に運ばれてくる。

 それを見た人が次々と集まってくる。


 門番さんも最低限を残して集合した。

 大工衆も今日の仕事は終わりで、広場に出てくる。


 いくつも用意されたお椀に次々とクマ煮込みスープが入れられて配られていく。


 適当に用意された演説台みたいなものに、ギードさんが乗った。


「本日、この近辺を荒らしていた大グマが退治された。クマ鍋にして町人に振る舞うので、どんどん食べてくれ! 今日は宴会だ!」

「「「うぉおおおおおおお」」」


 男たちが喝采を送る。

 何人かいる女の子とホテルのメイドさんたちもうれしそうにしている。


 どこからか野外用テーブルが運ばれてきていて、切ったパンや、山盛りのフルーツ皿なども置いてあった。

 ビールとはいかないが、ホテルから出血大サービスのエールが振る舞われる。

 俺たち未成年はレモン水で。


 人々はクマ煮込みスープをまず食べて、その後は思い思いの食べ物に移動していく。

 クマスープのお代わりをしている人も多い。


「お肉、お肉、お肉だにゃああ」

「ふふふ、そうですね。久しぶりの大量のお肉だわ」

「ミーニャちゃんうれしそう。私もお肉食べるみゃう」


 みんなお肉をもぐもぐ食べる。

 今日はいつもよりたくさん食べた。


 暑い日々が続いていた後なので、スタミナ回復にちょうどいい。


 にしても肉々しくて、そしてクマの脂が絶妙な旨味があって美味しい。

 カロリーはうまいとはいうが、まさにそんな感じ。

 俺もたらふく肉を食べた。

 もちろん野菜も食べたよ。ホテル前の空き地の夏野菜は今、少し遅めの大豊作といっていいくらい採れたので、ホテルでは使い放題だ。


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