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107.建設作業とクマ退治


 エルダニアのラファリエ教会の建設が始まった。

 涼しくなるシーズンに合わせて、建設作業を進めてしまおうという予定だ。


 エルダニアでは真冬には雪も舞い、トライエ市より少しだけ寒いので、この秋の間になるべくやってしまう算段だそうだ。

 建てる家の数は膨大なので何年も掛かるけど、まずはこの秋に中心地だけでもということらしい。


 市街地の中心地の一等地なので、巨大な教会を建てるのではなく、まずは手ごろなサイズを建てて、もうすこし郊外にもっと大きな教会を後々建設する計画になっている。


 領主館ホテルも、閉鎖されていた元住み込み従業員用のベッド区画を新しく開放して、この工事関係者の宿舎として利用することになった。

 住み込み用の複数人用の宿舎はまだ空きがある。

 食堂はそのぶん、毎日賑わいを見せている。

 他にお店がまずないという事情もある。


 ドワーフの大工さんが何人か。それから人族の働き手の男の人も多い。

 女の人も数人いる。若い人が多い。

 ただし棟梁のドワーフ大工のおっちゃんはかなりのご高齢の大ベテランらしい。


「工事すごいね」

「ああ」


 ミーニャがぼーと工事を見ながら呟いた。

 俺もぼーとそれを見る。


 まず荒れてしまった石組をやり直して地面を平らにするところで、それはもう終わっている。

 次にメインの柱を立てて木組みの枠と石組の壁を合わせていく。

 ラファリエ教会はだいたい白い石でできているので、ここも同じ工法らしい。


 一面空き地と仮設テントの隅のほうに、白い石の建築物ができあがっていく。

 なんだか感動的だ。



 ここには俺たち以外にも、エルダニアの門番の隊長として戻ってきたビーエストがいる。

 普段は門番の仕事をしているので、俺たちとは完全に別行動だ。

 ただ一日中、門を通過する人がいるわけないので、日中は剣の稽古などをしてもらっている。

 向こうも暇をつぶせるから歓迎らしい。

 門番さんたちも興味深そうに見学したりしている。


 それからラプンツェル・シスターズとマークさん。

 シスターズは、仮領主のギードさんと、メルンさんについていることが多い。

 ついでにベッドメイク、料理、雑用の仕事を手伝ったりするようだ。


 それでマークさん。

 この人、剣術は結構な能力なのは当たり前なんだけど、その流派がビーエストさんと同じ、エクスプローラー流なのだ。

 エクスプローラーというのは「探索者」という意味で冒険者のちょっとかっこいい言い方で、ダンジョンに挑む冒険者を主にそう呼ぶ。

 その探索者たちの流派なのだ。


 マークさんちは元々何代か前は冒険者だったらしい。

 下級貴族や騎士などは冒険者上がりの一族が多いので、必然的に最大派閥の剣術なのだそうだ。


「ていやー、うりゃぁ」

「おっと」

「まだまだ、マークさん、このぉ」


 俺とマークさんも剣の練習をしたりする。

 ミーニャたちは一緒に杖術の練習したり、見学したり、まちまちだけど。



 それで俺たちとマークさんに依頼が入った。

 それはエルダニアにいる数少ない冒険者のうちハンター業をしている二人がいるんだけど、最近クマの痕がたびたび目撃されているらしい。


「体長は二メートル級だな、足跡や木の傷などからすると」

「そ、そうですか」


 さすがに俺たちも冷や汗ものだ。


「ということで俺とそれからエド君たちでちょろっと行って狩ってこよう」

「簡単に申されましても」


 俺は少しだけ反対ぎみだ。

 まだ俺はいいとして、ミーニャたちをほいほい危険に晒したくはない。


「あの俺はともかく女の子は。シスターズを連れて行った方がいいんじゃないかと」

「うーん、しかし領主様の護衛を減らしたくはないんだ」

「まあ、そうでしょうね」

「そそ、自由に動けるというと俺とエド君たちだけだし」


 そういうことだ。俺とマークさんは固定の仕事についていないので唯一、自由人なのだ。

 だからこうしてお鉢が回ってきた。


 エルダニア城門でビーエストさんに激励されて出てきてから、すぐ北側の森へ入る。

 この辺もトライエ市東側のエクシス森林の北東の隅になる。


 トライエ側より森も深く、魔物も若干強いらしい。


「周りの警戒はよろしく」

「はい、マークさん」

「「「はーい」」」


 女の子たちは久しぶりの森でわくわくしているらしい。

 ミーニャの祝福もちゃんと使ってある。

 俺も心の中で祈る「俺たちに幸運あれ」と。


「これ、クマの爪痕」

「あ、はい、すごいですね」

「そうだね、かなりでかい」


 マークさんがさっそく痕跡を見つける。

 痕跡と気配を頼りに進んでいく。


 なんとなく森がいつもより静かだ。

 こういうときの静寂さというのは、なんだか怖い。


「ぐぎゃああああ」


 おっと、いきなり木影からクマさんご登場。


【(名前無し)

 3歳 オス A型 メルリアベア

 Cランク

 HP450/450

 MP325/325

 健康状態:A(普通)


 Cランクか。ゴブリンキングやギードさんがBランクなので、それと比べたら大したことはない。

 しかしデカい。

 体長やはり二メートルあまり、起き上がるとかなり目線は上だ。

 こうぐわっと押さえられたらたまらない。

 そして体もかなりの太さがある。

 全体として、すごくデカい。


「うぅ、こいつはバカ力だな」


 俺が観察している間にマークさんが剣で腕の攻撃を押えている。

 しかし向こうのほうが力が強いらしく、押され気味だ。


 この体勢で魔法を打ち込むとマークさんに当たってしまうので使えない。


「加勢します」


 俺が横に回って名剣クイックカッターをブチ当てる。

 手ごたえはあって、腕の下の方が少し切れたのか、クマが痛がった。


「ぐあああああ」


 すごい迫力だ。

 でも俺たちはゴブリンキングで経験済みだった。

 確かにすごく怖い。でも痛いから吠えているとわかっていれば、どうということはない。


 この隙にマークさんが下がる。


「ファイアボール!!」


 うぉおお。今までより火力を抑えた火の玉が飛んでいく。

 クマの真正面にぶち当たって爆発した。

 その火の熱はこっちまで飛んできて、少し熱い。


「ぎゃああああ」


 さすがにファイアボールには参ったらしく、クマさんはそのままご臨終、バタンと後ろに倒れた。


「おわっ、たか」

「みたいですね、マークさん」


 俺がマークさんに問いかける。


「ファイアボールか、あれを見るのは二回目だけど、肝が冷える。クマだけに」


 日本では臥薪嘗胆と言ってクマの肝の話はするけど、異世界でもクマの肝を何かに使うのかもしれない。


 そのまま新鮮なうちにアイテムボックスに収納する。

 マークさんもマジックバッグは持っているらしいけど、今回は俺が仕事をする。



 さて持って帰ってハンターの人に解体してもらおう。

 今日のお昼はみんなでクマ鍋じゃあ。


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