目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
103.ラニエルダ墓地と避暑


「みんなじゃあ畑も見たし、そうだついでに墓地へ寄って行っていい?」

「え、いいよ」


 ミーニャたちが頷いたので、ラニエルダ小学校から城壁のほうへ向かう。

 すでに前方には見えている。


 ラニエルダの北東の城壁のすぐ内側。ここが通称ラニエルダ墓地と呼ばれる場所だ。


「お墓、だね」


 ミーニャがそっと口にする。


「ああ、あのじいさんとばあさんが眠ってる」

「えっ、あのエド君たちを住まわせてくれたっていう?」

「うん」


 墓地にはいくつもの墓が並んでいる。十字ではなく縦の木の棒だけだ。

 その数は百以上。

 ラニエルダの八年間で死亡した人、エルダニアのスタンピードで死亡した兵士の墓などもある。

 必ずしも亡骸が埋まっているとは限らない。

 ゾンビなどの伝承もあるため可能なら火葬にする。


 穴を掘って遺体を置き、上に木材などを積んでその場で火をつける。

 それを見守って火が消えたら土をかぶせるのがここのお葬式だ。


「ベルビルド、サナリス、安らかにお眠りください」


 二人の並んでいる墓へ、水筒から水を掛ける。

 生前はシワくちゃだったけど、その顔でげへへと笑う顔がなかなか愛嬌あいきょうがあったと思う。

 元はエルダニアの結構な地位にあったのだろう老夫婦は、ラニエルダのボロい家で暑さや寒さに耐えられなかったのだろう。

 エルダニアの立派な家に住み続けられたら、もっと長生きできたかもしれないと思うと、思うこともある。


 聖印を切る。いつもミーニャがやっているやつだ。


「――ラファリエール様の元へ行けますように」


 ミーニャたちも一緒に聖印を切る。

 神の元へ、これが死者への定型句だ。

 眠ってるのか旅立つのか、ちょっとわからないが、土着の宗教と一緒になってしまったのだろう。


「よし、いいな」

「はい」


 こうしてあと喫茶店の三号店を見学して俺たちはまた馬車に同乗させてもらってエルダニアに戻っていった。



 エルダニアに戻ってきて数日。

 ここのところ暑い日が続いている。夏本番だ。


「暑いね!」

「ああ」


 ミーニャが暑そうにミニワンピースのスカートをパタパタしている。

 ちょっとお上品ではないけど、暑いとなかなかそうも言っていられない。


「こう暑いと扇風機の魔道具とか欲しいよね」

「扇風機?」

「うん、扇風機」


 ミーニャとシエル、ラニアの頭にクエッションが浮かんでいる。

 俺が薄い木の板を取り出してそれでみんなに風を送る。

 日本でいう下敷きみたいな感じで。


「あぁエド、涼しぃ」

「エド君、気持ちいいです」

「エド君、いい感じみゃう」


 わーって口開けたりして、さらに手でパタパタやってみる。


「で、こんな感じに仰ぐのを自動でやってくれる機械があるんだ」

「へぇぇ」

「すごいですね」

「みゃう」


「そうだ。いいこと考えた、地下行こう、地下」

「えっ」

「ささ」


 みんなを連れて地下室へと移動する。


「おおぉ、地下室……」


 みんな地下にはレイスが出るという噂を知っていて、ちょっとビビっている。

 大丈夫だろう。さすがに領主館でレイスなんて出ないはず。

 第一、食糧庫や倉庫はこの地下にあるんだし。


「す、涼しいけど――」


 口ごもって、もごもご言っている。

 三人とも俺の服のすそをつかんでビクビクしていた。

 これはこれでちょっとかわいい。

 俺は元は悪い大人、高校生だからな、うん。


 倉庫を開ける。

 物は少ないが、古いものが雑多に置かれている。

 テーブルや椅子など、あと燭台とか。


 隣の倉庫も同じような感じだった。


「あ、そうだ。これ三つある倉庫を片付けて、一つにしようよ」

「えっ」

「それでさ、一つは休憩室にするの。避暑部屋」

「秘密基地みたいな?」

「ええ、まあ、でもう一つは客室にしてもいい」

「地下にお客さん泊めるの?」

「うん」


 ということで手の空いている人を呼んで、みんなで倉庫を片付けた。

 ほこりをとる作業などはしないで、とにかく詰めて一つの部屋にまとめてしまう。

 こうして二部屋が使えるようになった。


「ほらこれ、魔導ランプ」

「うん」


 うちにもいくつか、というか十個くらい魔道ランプがあって、臨機応変に使っている。

 そのうちの二つを避暑部屋と地下客室に配置する。


「昼間なのに夜みたいだね」


 避暑部屋にはベッドを二つ。それからソファーを並べてある。中央にはローテーブル。

 床にはカーペットを敷いて地面にも座れるようにした。


「確かに昼間はここで過ごせば快適だね、エドちゃん」

「だろ、ミーニャ」

「にひひ」


 ミーニャがニコッと笑う。

 さんざん片付けなどで出入りしたので、薄暗い地下室にも慣れたようだ。


「お化けはいいの、ミーニャ?」

「ひゃんっ、やっぱり、レイス出るの?」

「出ないでしょ、さすがに。ここ領主館だよ」

「そうだけど、だって」


 まだ不安なのか、左右を見たりしている。

 そして俺に顔をすりすりしてきてにへらと笑う。


「エドちゃんにくっついてれば平気ー」

「ふーん。じゃあ私も」

「わわわ、にゃう」


 ミーニャに続いて、ラニアとシエルまで顔を押し付けてくるので、俺はもみくちゃにされてしまう。

 涼しい地下だけど、俺の周りはこんなにも温かい。


 これはこれで涼しい部屋でぬくもりを感じているとか、俺は贅沢だった。

 外は暑いけれど、意外と快適に過ごすことができた。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?