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101.ミルク確保とメルン診療所


 エルダニアに引っ越すことになるころ。


「あー、そうだ。ミルクッ」

「ミルクがどうしたの、エドちゃん」

「あぁそのミーニャ、あのな、ミルクっていつも酪農家から仕入れてるだろ」

「うん」

「エルダニアに引っ越したら、運ぶのに四日かかる。俺がアイテムボックスで運ぶんならいいんだけど、他の人に持ってきてもらうと腐っちゃいそうだなって」

「えっ……プリンも食べれないってこと?」

「そういうこと」

「やだぁ」

「だよな、そういうと思った」


 ということで酪農家さんと話をすることになった。

 結論からいこうか。


 トライエ市の酪農家さんの次男さんが分家してエルダニアにきてくれることになった。

 理由はすでにトライエ市内は手狭でこれ以上、頭数を飼えなくて困っていたから。


 酪農家さんはトライエ市内だけで酪農を営んでいる。

 理由は城壁の外だとゴブリンなどがやってきてウシがやられてしまうからだ。


 だから周辺の農村でもウシなどはあまりいない。

 立派な柵を牧草地中に張り巡らせてなんとかやっている村も少数あるみたいだけど、それは例外的だそうだ。


 ということでウシさんオス二頭、メス五頭を含めた荷馬車が他の業者さんと一緒に隊商を作って、エルダニアに引っ越してきた。

 エルダニア内はほとんどが更地になっており、すでに草が生えまくっている。


 その一角。元々から農地か放牧地だった場所を広めに確保することができたのだ。


「いやあ、助かるよ。これでうちは事業を広げることができる」

「いえ、自分たちで牛乳が欲しかっただけですから」

「トライエ市内には元々牛乳は出していなかったからね。チーズとバターと脱脂粉乳とかそういう加工品中心だから別にトライエ市内ではなくエルダニアから運んでもいいんだよね」

「なるほど」


 とまあ、俺たちとは別に大移動を完了して、今はエルダニアの城内にウシが歩いている。

 入口は門番さんが見てくれているけれど、柵がちゃんとしていないのでほとんどガラ空きの城内を自由に歩いている。


 これはこれでちょっとおもしろい。



 そうそう、それからメルン診療所について。

 こちらも新しい人に交代になる予定で、面接をするためにミクラシアさんにお願いしてあった。


「お任せください、メルン様」


 ハーフエルフのお嬢さんが片膝を突く。

 ミクラシアさんはトライエ市内にいるハーフエルフさんたちに知り合いが多いらしい。

 そして肉体労働とかの下働きなんてしたくないとして暇をしている人が何人かいる。


 そのうちの若い治癒魔法が得意なお嬢さんがメルン診療をやってくれるらしい。

 名前はミミレーヌさん。


 見た感じは二十歳ぐらいだろうか。

 そしてメルンさんを知っているふうなことから、元サルバトリア領民なのだろう。

 ハーフエルフらしいけど、比較的血が濃そうな金髪と耳をしている。

 かわいらしい若草色のワンピースはなるほど、そこそこのお家の子なのかもしれない。

 もしかしたら貴族の子で、俺の鑑定だと「エルフ」に分類されるレベルの子の可能性もある。


「あなたなら任せられそうですね。大丈夫ですか?」

「はい。人間、獣人だろうとエルフだろうと区別なく。治療いたします」

「それじゃあ、お願いしようかしら」

「ぜひ、私にこの役割、やらせてください」

「じゃあお願いするわね」


 ということで決まった。

 強力ではないが氷魔法も一応問題なくできるらしく、エルフィール二号店のほうも問題ない。


「喫茶店と治療院ですか。楽しそうです」

「それはよかったわ」


 メルンさんとミミレーヌさんが軽く抱擁を交わす。

 これがエルフ風、女の子同士の信頼の証らしい。

 人種とかで基本パターンの挨拶は異なったりする。

 人間や獣人だと普通は握手が基本だね。



 そして八月。


「暑い、アイスを食べよう」

「アイス? 冷たい飲み物!」

「そっちじゃなくて、アイスクリームのほうね」

「アイスクリーム? 冷たいの?」

「うん」

「やったにゃ」


 酪農家さんの移住のおかげでミルクは領主館ホテルでも普通に出せる。

 酪農家さんも家はまだなくて領主館住まいだ。ウシは外で放牧。

 一応、ウシ用の雨避けと夜間の寝床になる大型の仮設テントはある。

 そしてチーズの確保が簡単なのもうれしい。

 これでピザのチーズを取り寄せずに済む。


 卵はエッグバードちゃんだけど、こちらに引っ越してきた。


 ということでミルクと砂糖と卵黄を魔法で出した氷で冷やしてぐるぐる混ぜ続ける。

 バニラはないけれど、似たような風味のある葉っぱがあるので、それを煮てエキスを抽出したものを使っている。


 ぐるぐるぐる。


「わっわ、固まってきた」

「うん。こうやってどんどんやるんだ。頑張ってマークさん」

「おう!」


 マークさんは腕っぷしがいいので、これくらいは平気らしい。

 俺はまだ貧弱だからね。


「よし、これくらい。ありがとう、マークさん」

「いいって、いいって。僕も食べていいんだろ、アイスクリーム」

「もちろん!」


 結構な量なのにマークさんは頑張った。


「甘い! 美味しいにゃ」

「クリーミーで美味しいです!」

「美味しいみゃう」


 ミーニャが舌を出して口の周りをぺろぺろしている。

 まだ食べたいみたいだけど、大量に作るのが難しいので、今日は我慢だ。

 三人とも、ちょっとアイスクリームにうっとりだ。


「エド、また作ってもらおうねっ」

「おう、そうだな」


 マークさんは一番に食べて、もうどこかへ行ってしまった。こういうときは素早い。

 あ、ああラプンツェル・シスターズにはあげなかったから、ひっそり食べて先に逃げたのか。

 悪いお兄さんだ。あはは。



 ほとんどの物資をトライエ市からの輸送に頼っているので、採れるものは近場で処理したい。

 野菜も領主館の中庭や近くの空き地を耕して、本格的に畑にしている。


 レタスやバジルなどの葉物は早くから収穫できるから重宝している。

 それからこちらにもラニエルダの草原と同じで、似たような植物が自生している。

 エルダタケという名前の通り、このキノコはこちらの方が多いくらいだ。

 さらに放棄地になった今も元々畑だった場所の野菜がそのまま生えていて、何種類かは確保ができた。

 勝手に勢力を伸ばして、かなりの数になっているジャガイモなんかもある。

 トマトも隅の方を探せばそこそこ生えている。

 残っていた住民が採っていないのは、あまりそういう関心がなかったらしい。

 ラニエルダの住民もそうだけど街の人は「食べ物は買うもの」という意識が強い。

 近くに生えているかも、という発想をする人がいなかったようだ。

 寂しい城内を隅まで歩いたりする人もいなかったと。

 城壁は完璧に残っているので、壊れた門だけ警備すればよかったしね。

 元からの住民はほとんどが警備の騎士団関係の下働きの人というのもあるみたい。


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