それからエレノア様と司祭様を交えてしばらく会話した。
お店はお客様には悪いけどクローズドにしてある。
オープンのままでも外に騎士がいるから入ってこないと思うけど。
女近衛騎士三名のほかに普通の近衛騎士三名の別のチームもいるのだ。
「少しお腹が空いてきたわね」
「そうですか、なにか食べますか? ピザとかどう? メニューにはまだないんだけど」
「ピザ? どんな料理なのかしら」
「えっと、薄いパン生地にトマトとバジルとチーズを乗せてオーブンで焼いたものだね」
「そうなのですね。ぜひ、それをっ!」
ニッコニコでエレノア様が待っている。司祭様もそれを見て微笑んでいた。
俺はアイテムボックスから焼く前のピザを取り出す。
ピザはいつでも焼けるようにストックがあるのだ。
実を言えば焼いて入れておけばいいのだけど、それだとアイテムボックスがバレてしまう。
オーブンを予熱してからピザを入れる。
今日のピザは森産トマト、草原のバジル、薄切りのウサギ肉、そしてスライスしたチーズをまんべんなく乗せてある。
後をラニアにお任せして俺はエレノア様の相手をする。
「なんだかいい匂いがしますわ」
「そうですのお」
エレノア様だけでなく司祭様もノリノリだ。
「ピザ、お待たせしました」
「おおぉ」
「ほほう」
ラニアがピザを二人の前にそっと配膳する。
「これがピザなのですね。とっても美味しそう! エド君は天才ですわね」
「ま、まあね」
「では、いただきますわ」
「ラファリエール様に感謝して、いただきます」
司祭様はさすがにラファリエ教だけあって、ちゃんとした挨拶をした。
「おいしぃ!!」
「ああ、とっても美味しいですのう」
もぐもぐとエレノア様がかわいらしくピザを頬張る。
俺とラニアはそれを微笑ましく眺めていた。こっちもお腹が空いてきた。
「こんなに美味しいものがあるなんて、エド君はすごい」
「まあ、うん」
「エド君、エド君、これ、これは売っていませんの? さっきメニューにはないって」
「ああ、今度喫茶店をすぐそこの家に移して、ここをピザとカレーの店にするんだ」
「まぁ、ところでカレーってなんですの?」
「カレーは辛い食べ物で、スパイスが利いてるスープなんだ」
「スープなのね。今度食べてみたいわ。また来るわね」
それから他に聞ける人がいないので、エレノア様にエルダニア領主館について質問してみた。
「エルダニア領主館なら前の領主が逃げ出したから今は無人のはずよ。管理はうちでやっているから利用許可なら取れるけど」
「じゃあ、お願いしてもいい?」
「もちろん」
こうしてエレノア様に領主館ホテルの設置許可をお願いした。
その後も雑談などをして、司祭様とエレノア様は帰っていった。
話はとんとん拍子で進む。
領主館ホテルはエレノア様による支援が決まり、資金の援助なども受けられることになった。
現地へ行って調べたところ、元々ベッドや布団、それから食器類、調理器具に至るまで、エルダニア領主館にはそっくりそのまま放置されていたため、準備するものが少なく済んだ。
喫茶店エルフィールは近所の「エルフィール三号店」に移された。
アルバイトの人も決まった。
ハーフエルフの店員さんは魔法が使えるため、氷の手配をお願いした。
これで俺たちなしでも指示だけで店が回せる体制を整えた。
今住んでいる家のリビングは「会員制料理店エルフィール」に生まれ変わる。
出すのはエレノア様に話した通りお茶類とカレーとピザだ。
こちらも先ほどのハーフエルフさんに氷をお願いして、あとは他の店員さんにお任せする体制ができた。
ギードさんはラニエルダ青空小学校の先生を辞めた。
後任のこちらもハーフエルフさんが見つかったので、問題はない。
俺たちは引っ越してからそれほど経っていないが、一度トライエ市を離れ、エルダニア領主館ホテルの運営に力を入れることになった。
すでに馬車でみんなで移動した。
ホテルのほうも住み込みの仕事を希望しているハーフエルフさんが二人ほどいる。
他にも人族の住み込みの女の子が三人、手配してある。
全員が到着した。
というか他にも噂を聞き付けた元サルバトリア領のエルフさんが何人かお手伝いに集まってきている。
それからラプンツェル・シスターズ。
彼女たちもエレノア様から連絡が行ったのか、噂を聞き付けたのか、わからないけれど、領主館に滞在している。
一応、今はギードさん一家の専属護衛をしてもらっている。
領主館ホテルのロビーに全員が集まった。
「ごほん。エルダニア領主館ホテル、本日より営業開始を宣言します」
ギードさんだ。
エルフィールは都合、俺が仮店長をしていたが、ここは違う。
ホテルの支配人はギードさんになっている。
つまり――。
「うおぉおぉぉ」
「領主様、新しい領主様の誕生だ」
「それも、ごほんごほん、秘密じゃが、あのギード様じゃ」
ここ元ドリアンドン伯爵領の新領主こそ、ギードさんその人ということになる。
みんなギードさんに注目している。
中には涙ぐんでいる人もいる。
以前、この人たちはギードさんに救われたのだから、恩義も感じるだろう。
「ああ、まだ対外的には公にしないが、元サルバトリア公爵の私がここを新サルバトリア公爵領とすることを、仮宣言する。目標は正式にメルリア国王に領主として認めてもらうことだ」
一斉に拍手が起こる。
「おおおおおおお」
「領主様、万歳、万歳」
順番に並んでギードさんに握手を求める。
以前来たときのお店の人もいる。
「まあギード様、あなたが本当は領主様だったとは、これは一本取られました」
「あのときは偽りを告げて、すまなかった」
「いえ、まだお忍びでしたから。ご健闘、お祈りいたします」
「ありがとう」
例のごとく俺たち一行には監視なのかビーエストさんがついてきている。
「新領主様、よろしくお願いします」
「ビーエスト殿、エドがお世話になっています。剣術をまた教えてやってほしい」
「もちろんですとも。この領も忙しくなります。戦力は多いに越したことはない」
「そうですね。脅威は突然やってくるから」
「はい」
ビーエストさんとギードさんが固い握手を交わす。
それらを満足そうに見つめるエレノア様。
彼女はホテルの出資者という立場で、俺たちを見守っている。
護衛の女騎士さんたちも、キリッとしたいい表情をしていた。
「パパ、がんばってください」
無邪気な笑顔でミーニャが声援を送る。
「ギードさん、がんばってくださいね」
「ギードさん、がんばってみゃう」
おめかししたラニアとシエルもギードさんを応援する。
ラニアはうちの子ではないが、くっついてきていた。
「ありがとう。ところでエド君にも働いてもらうよ。氷を出したり、知恵を借りたり、ピザを焼いたりね」
「あ、はい。頑張ります」
俺がギードさんに頭を下げる。
「エドちゃん、一緒に頑張ろうね!」
「エド君、私とも一緒に頑張りましょう」
「エド君、みんなで頑張るみゃう」
みんなが体を寄せてきて、ぐりぐりしてくる。
その体温が温かい。
「いひひ、早く大きくなってお嫁さんにしてもらわないと、にゃ!」
「はい。私もよろしくお願いします」
「みゃうみゃう、わわわわ、私も、お嫁さんなりたいみゃう」
ミーニャが俺のほっぺにキスを落とす。
微笑みを浮かべたラニアも同じようにキスをしてくる。
最後に焦ったシエルもキスを軽くチュッとしてくる。
向こうではそれを見ていたエレノア様が顔を赤くして視線を泳がせていた。
さて、これからも、頑張らせていただきます。
めざせ、ギードさんの正式な領主就任。
それから、俺たちのスローライフ生活――。