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93.キングの魔石と謁見


 ゴブリン・スタンピードのとき、Bランク冒険者相当のメルンさんとギードさんは目立たないように新東門で待機していた。

 ひっそり後方から戦線を抜けてきた敵を叩いていたらしい。

 表立って目立った戦闘はできなかったものの、精一杯戦ったようだ。


 それで新東門より内側のスラム街には被害がいっさいなかった。

 その代わり小学校がある真ん中の北東門のほうでは少し被害が出てしまった。


 新北門には騎士団、傭兵団、マークたちもいたので、余裕の戦闘だったようだ。


 エルフのお姉ちゃんたちは三人とも軽鎧だけど魔術師なので戦闘時には杖を装備している。

 あの軽量な格好は回避に重点を置いているのだ。


 当たらなければどうということはない、という格言もあるし。


 俺もミーニャ、ラニア、シエルの三人にドレスアーマーを着させるところを想像してみる。

 うーん、今の背格好のままだとちんちくりんだな。

 まず胸がないし、胴も寸胴で子供体型だ。


 かわいいといえばかわいいが、まあ大きくなってから検討してみよう。



 さてマークさんとラプンツェル・シスターズが領主と謁見していたけど、俺たちもゴブリンキングを仕留めたため、領主との謁見が待っていた。


 今回は歩いて領主館へ向かう。

 この前、鍋を返しに行った以来だけど、貴族街の南大通りを進むのは緊張する。

 大通りは東西南北にあり、南は距離が短い。

 さらに南側にメルリア川が流れているからだ。

 貴族街は北半分より少し狭いのだ。

 その土地を広い区画で貴族たちが家を並べているので、圧巻だったりする。


 招待されているのは俺たちのパーティーだ。

 ミーニャ、ラニア、シエル、そして俺の四人。

 倒し損じた敵がラニエルダへ入らないように最終防御ラインを作っていたギードさんたちは招待されていない。

 本来なら保護者でもあるのでギードさんとメルンさんも招待されてもおかしくない。

 これはおそらく、訳アリのエルフ様ご本人を招待するとまずいということだろう。

 あくまで対外的には領主は「知らない人」でいないといけないのだ。


 さて南大通りの突き当り、立派な領主館に到着した。

 名前を名乗り守衛さんに通してもらい中に入る。


 メイドさんが出てきて控室に通してもらった。


「お茶です。どうぞおくつろぎください」


 お茶が出てくる。色が赤い。紅茶だ。

 これは渡来品でもちろん高級茶だ。

 貴族のお茶会には高いお紅茶というわけだ。

 健康茶やハーブティーとは客層が全く違う。俺たちが扱っているのは主に一般市民以下をターゲットにしていた。

 市民以下には今までほとんどお茶の習慣がなかったのだ。


 紅茶には最初から砂糖が入れられていて、優しい甘味を感じた。


「おいちい」

「ええ、この赤いお茶、おいしいです」

「美味しいみゃう」


 みんなその赤い不思議なお茶を観察している。

 お茶菓子は蜂蜜クッキーだった。


 砂糖と並んで蜂蜜も高級品で一般市民はほとんど口にしない。


 執事さんが入ってくる。

 すでに連絡が来ていたので、概要は知っている。


「魔石はございますか?」

「うん。マジックバッグに入れてあります」

「よろしいです。確認のため一度出してもらってもかまいませんか?」

「はい」


 俺がアイテムボックスからゴブリンキングの魔石を取り出して手のひらに載せて見せる。


「確かに大きな魔石です。よろしいかと。ではしまってかまいません」

「はい」


 俺は袋に入れるみたいな動きをごそごそして収納する。

 実際には手のひらの上からでも収納できるがそれではマジックだ。


 そうして領主と謁見する時間になった。


 おっぱいが大きい美少女のメイドさんに先導されて、館内を移動する。

 メイドさんはミニスカートでそれが揺れてちらちらしている。

 後ろからでも太ももとガーターベルトの絶対領域が見えていてなんだか色気を感じる。

 俺も謁見なのにそんなこと考えている余裕がある程度には大物になったものだ。


 この前の格下の第二謁見室の前を通過した。


 そして通路の奥、正式な謁見室の扉が衛兵に開けられる。


「エド様のパーティーが、ご入場です」


 メイドさんは謁見室の中まで入ると、右へ折れて横で待機して、手を進行方向へ差して、俺たちにはまっすぐ進むように指示を出した。

 そして頭を下げてくれる。


 やっぱりおっぱい大きいなと思いながらメイドさんの前を通過する。

 この子は今まで見た中で特別大きい。


 さて俺がおっぱいのことを考えているとも知らずに正面奥には領主がにっこにこの笑顔で立ち上がって俺たちを迎え入れてくれる。

 左側の壁際には奥様、長女、次女、それから女騎士と家臣たちと並んでいた。

 右側には偉そうな貴族だろうおじさんたちが控えている。


「よくきてくれた。エド君、そして少女たちも」

「はいっ」


 俺たちは一斉に頭を下げる。

 立礼の略式ではあるけれど、これでいいらしい。


「では、らくにしてくれ」


 俺たちが礼から正面を向く。


「エド君、トマトスープの件もよく働いてくれた。礼を言う。それが、まさかゴブリンキングだとは思わなかった。強かったんだね」

「ええ、まあ。たまたまです」

「なぜ戦ったか、説明してくれるか」

「あの辺に戦える人が自分たちしかいなかったのです。僕たちの後ろには子供のパーティーだけしかいなくて、僕たちが戦わなかったら子供たちが犠牲になるところだったのです。それで必死でした」

「なるほど。了解した。今度はあるまいが、そういうときは戦力をもう少し分散配置させるように言っておこう。今回は北側から攻めてきたのを考慮しすぎて北門ばかりに戦力を置いてしまった。指揮のミスだな。代表して謝罪しよう」

「そんな領主様。確かに敵はほとんど北側から出てきたので、だいたいは問題なかったんです。ただキングが東よりに出てくるのが想定外だったんです」

「そうか、ふむ。それで魔石をここに」

「はい」


 俺がさもマジックバッグですというふうに、袋を装って魔石を取り出して掲げる。

 それを執事さんが手に取り、壇上の領主様の元へ届けてくれる。


「確かに。大きいな。それに綺麗な色をしている」


 紫なのだが覗き込むと中は宇宙みたいにいろいろな色が散らばっていて、とても綺麗なのだ。

 禍々しい魔力の結晶という雰囲気は全然しない。


「確かに受け取った。では報奨金を」

「はっ」


 執事のおじさんが俺に魔石の代金として報奨金を出してくれる。


「金貨、五十枚です」

「確かに頂きました」


 失礼だから数えたりしないが、金貨が十枚ずつ塔になっていてそれが五個あるので間違いないはずだ。


「エレノアが婿にと言ったときは、焦ったが。それも悪くはないかもしれないな」

「そんな、領主様」

「あはは。エド君そんなに焦らなくてもよい。なに嫁が一人増えるだけだ。領主を継げとか言わないから、可能性の一つとして考えてみても悪くはない。なにまだ若いからこれからだ」

「はい」

「では、さがってよい」

「失礼します」


 俺たちはもう一度立礼をして、くるっと向きを変えて戻っていく。

 はぁああ、緊張した。


 領主様の席がまんま玉座のそれで、威厳たっぷりだったのでこっちはビクビクですよ。

 変に目をつけられるのもできれば避けたいのに、もうばっちり覚えられているという。


 こうして魂の抜けたような顔をして家に戻りましたとさ。

 金貨はエド信託銀行の共有財産としてプールされることに決まった。


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