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89.戦後処理と後夜祭


 あれだけいたゴブリンが全滅した。

 ゴブリン・スタンピードを制圧したのだ。


 ゴブリンキングがほぼ最後だったのか、その後は残党を散発的に倒して勝利を収めた。


 敵の掃討を確認した騎士団が、笛を吹く。

 するとあちこちから勝利の雄たけびが聞こえた。


「うぉおおおお」

「われらの勝利だああ」

「女神様、ありがとうございます」

「ラファリエール様、ありがとうございました」


 モンスターの中ではゴブリンは弱い。

 スタンピードの中でも弱い魔物ではあるが、小さい町であれば全滅することもある。


 以前エルダニアを襲ったのはモンスター・スタンピードと言って、一番恐ろしいタイプのスタンピードだ。

 特定の魔物ではなくあらゆる魔物の混成部隊が襲ってくる。

 ゴブリン、コボルト、オーク、オーガ、トロール、ハーピー、などが確認されていた。

 すわ魔王軍の襲来かと思う人もいたが、魔王領はずっと遠いので、違うとされる。


 実質的な被害は軽微だ。

 けが人は多いが、大けがの人は少ない。

 ゴブリンされどゴブリンとはいえ、重傷者が少ないのは幸いだった。

 あと死者も確認はされていない。


 これは領主令「命は大切に。怪我したらさっさとひっこめ」と忠告されていたことも大きい。

 あの領主、ちょっと抜けているが頭は切れるほうだ。

 ただタイミングに関しては、あまりよろしくない。

 防壁も間に合わないし。

 警報は解除して注意報にしちゃうし。

 傭兵も半分は帰っちゃうし。



 実質的には戦後処理をすることになった。

 まずまだ元気がある下っ端は、隅からゴブリンの死体を剥いで皮と魔石を回収していく。

 こういう近場で出たゴブリンの皮はなめして干した後、俺たち御用達の安い靴や鞄などの材料にされる。

 スラム街のテントの半数もゴブリンの革製だと思う。


 ゴブリン肉はめちゃくちゃ不味くて少なくとも人間は食べない。

 ゴブリンキングからなら肉も多く取れそうだが、不味いものは仕方がない。

 スラム民でも避けて歩く。


 オオカミとかイヌはバクバク食べるので、ペットフードにされることが決まった。

 ちょっと量が多いので乾燥のいわゆる「ジャーキー」に処理されるそうだ。

 領内の農家や商店がてんてこ舞になって今、人員を集めている。


「おい、キングの魔石だ」

「でけえぇな、おい」


 俺たちも残存しているぺーぺーにカウントされているのと、キングを倒した当事者なので、ゴブリンキングの解体をさせられている。

 本当はギルド職員が派遣されてくるはずだったのだが、忙しすぎて連絡がつかず、どっかで何かしているらしい。


 そっとゴブリンキングの魔石をアイテムボックスに収納する。

 スられたらたまったもんじゃないので。

 金貨二十枚は固い。もっとするかも。

 俺たちが倒したので俺たちに所有権があるのは確認してある。


 さてキングの処理が終わったので、俺たちはささっと解体の戦線を離脱する。


 俺たちには秘められた仕事があらかじめ領主直々に命令書が出てる。


 いわゆる『飯の冒険者』。


 普段は『剣の冒険者』だが、飯炊き係に特任されている。

 今回ぽっきりという名目だが、わかったもんではない。


 トマトや各種野菜はすでに領主館から送られてきたのを収納してある。

 あと鍋。デカいのをいくつか領主館から貸し出してくれた。

 それから魔道コンロ。こちらも業務用の移動コンロを四つばかり。


 ということでラニエルダ青空小学校の前に陣取って、学校のコンロと合わせて「トマトスープ」を作っていく。

 最近密かに溜めていたエルダタケを涙を流す勢いで入れる。

 くそっ、まあみんなが美味しく食べてくれるのはうれしいが、自家用にしようと思っていたのにこの命令ですよ。


 キノコは自家用だ! と主張したが、なら兵士を貸してくれると言って、エルダタケ大捜索になったのだ。

 まだゴブリン警報で警戒態勢の中、兵士が警備を兼ねて平原を歩き回ったのだった。

 結果、数は揃ったがぎりぎりで、俺の自家用分も入れるしかなかった。


 その代わり大量のトマトとキノコの旨味スープができた。


 他にも何軒かテントが出ていて、調理作業をしている。

 当たり前だがこれだけの人数相手に俺たちだけに料理をすべて丸投げしてくるほど領主は頭がくるくるパーではない。


 テント群の前には、ゴブリンの襲撃で少しだけど壊れた家とか外の折れた木などが集められ山にされていて、それに火がついている。


 いわゆるキャンプファイアになっている。

 地球では昔よくあったと聞く。この雰囲気は後夜祭だ。



「はーい、みなさーん。領主公認、トマトスープですよぉ」

「「「うおおお」」」

「「おおぉぉお」」


 男たちの野太い声がスラム街の外の平野に広がった。


 お皿も領主館持ちだ。

 洗うのは俺たちなのだが、何人かお手伝いさんが来ているので、なんとか回す。


「おぉなんだこれ、うま」

「うまうま」

「トマトうめぇな」

「これがトマトスープってか。前食ったのと全然違うんだが」

「これが領主様主催のトマトスープかあ、すげえうまい」

「領主の野郎、こんなうまいもん、普段一人でくってんのか」

「あいつっ……」

「くそ領主め」

「うまい、うまい。お代わり? え、お代わりないの? 一巡してから? わかった。並ぶ並ぶ」


 行列ができる。

 スープをみんなばくばく飲んでいく。


 野菜は小さめにしてある。

 スプーンすら使わないで、直飲みの人も多数いる。


「おいしー」

「すごいわ」

「うちの旦那もこれくらい作れればねぇ」

「きゃはは」


 女の子も結構混ざっている。

 なんか愚痴も聞こえるが、聞かなかったことにしよう。


 このトマトスープ。

 偶然の産物なのだがトマトとエルダタケの旨味成分は合わさると、万倍うまい。


 問題はエルダタケの鑑定が高いのと、素人が未鑑定で食うと死ぬってことだな。


 自分で鑑定できれば問題ないのだが。

 俺はひっそりひそひそ使っているから大丈夫だが、バレたら領主にさ。


『エド、お前は一生キノコでも採ってろ。キノコ男爵に特任してやる』


 って言われそうな件だな。


 高いから悪くはないが、専売できればの話だ。

 同業者が出てくると、稼ぎが一気に減る恐れがある。


 さて、こうしてトマトスープを関係者一同に振る舞って、飯の冒険者の仕事をこなした。

 指名依頼扱いなので、冒険者ギルドの評価も上がったことでしょう。


 他のテントではパン、干し肉、ドライフルーツなどを配給していた。

 スープも何種類かあった。それから西の森のオオカミ肉が振る舞われていた。

 あとビエルシーラ商店が健康茶の無料露店を出していたのは確認した。


 あのビエルシーラさんもちゃっかり仕事している。

 無料配布なのも憎いところだ。

 茶葉の購入にはお金がかかっているだろうに、これはいい宣伝になる。

 今、健康茶は知る人ぞ知る密かなブームだ。

 本格的なブームになれば一気に黒字確定、あとはボーナス倍ドンが約束されていると。

 こんなお披露目できる機会、めったにないだろう。

 しっかり押さえるところは押さえるのだ。


 そして余裕の表情で少女連れで視察にきて、ちゃっかり健康茶飲んでいく司祭様にも目ん玉飛び出るかと思った。

 門の外へほいほい来ていい身分ではないだろうに。


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