俺とラニアが喫茶店エルフィールの当番の日。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませー」
女の子の挨拶はなんだかそれだけで、かわいくて好きだ。
「どうじゃ」
立派な服を着たおじいさんが従者と思われる女の子を三人連れてやってきた。
「ふむ。アイス健康茶というのを、四ついただけるかな」
「はーい」
ラニアが明るく返事をする。
今日も快晴でおひさまは元気いっぱいだ。
アイスティーは作り置きなので、ささっと準備を俺がする。
ラニアに配膳をお願いする。
「ふむ。風味は悪くはないな」
「そうですね、司祭様」
「若い子としてはどうだ」
「これくらいの苦みなら逆にいかにも健康になれそうで、ちょうどいいですね」
「ふむ」
なにやら健康茶に興味があるらしい。
うおぉいいいいい。
――司祭様。
誰かと思ったらラファリエ教会の司祭様ですか。
確かに比較的ご近所様だけど、表通りからわざわざここまできたんですかね。
「もし」
げ。司祭様がこっちを向いた。
「もし」
「あっ、すみません。俺、いえ私ですか?」
「あぁかしこまらなくてよいよい。俺でいいぞ」
「あ、ありがとうございます」
司祭様は相好を崩して、返事をした。
めっちゃ怖い人なのかと思ってたけど、イメージと全然違うわ。
「この健康茶、おぬしが発案者なのであろう?」
「まぁそうなんですけど」
「スラムのガキ大将とも話したのだが『俺は難しいことはわかんねぇからエドに聞いてくれ。あいつの発案なんだ』と言っていて話にならなくてな」
「あぁそういう」
「どうだ。セブンセブン商会と取引してみないかい。市内はビエルシーラ商店で出しているから手は出さないが、他の町で売ってみるというのは」
あのスプーンと籠とお茶類を出してもらっている商店。
じつは結構大型の店らしくて、ビエルシーラ商店っていう名前なのか。
知らなかった。
未だに行ったことがない。ちょっと反省。
だって表通りの貴族街側にあって入りにくいんだ、あそこ。
ドリドンさんちとエルダニア時代から付き合いのある商店だそうで、まあ大手同士仲が良かったのでしょう。
それで市外との取引か。
そういう妄想をしたことはあったけど。
まさか司祭様直々に出てくるとは思わないじゃん。
一応、別組織なんでしょ。対外的には。
「どうだ? なにか不満か?」
「いえ、前向きに検討したいんですけど、司祭様直々でいいんですか?」
「なに、行政の都合で別組織なのだけど兼業でね。司祭が商会の支部長を務めている。問題はない」
問題はないってはっきり言われるとさすがに「強い」な。
司祭様だけはある。歴戦の勇士なのだろう。商売の。
本当に問題ないかは知らねぇ。
オラおっかねえことに手はださないんだ。
俺のアンテナ感度的には、濃い黄色が点灯している。
「値段などは、実務担当を呼んで相場の話をしてからそれで決めよう。まずは国内の流通に乗せる。どの都市にも届けてみせるよ。都市の数セブンセブンに懸けてね」
「そういわれてしまうと、はい、それじゃあお願いしてみようかな」
量はものすごく多いと困るという話をして、それは了解された。
できるだけ多くという注文だけど、無理は通さないという約束になった。
「値段のうち二割をエド君へ。そういう取り決めだそうだから。残りの売り上げがガキ大将のほうでいいね」
「あ、はい。それは」
なんか逆に俺が貰っていいのか、悪い気がしてくるが。
発案者ということになっているんだっけ。
交渉とかも丸投げされてるから、その手間賃だと思っておくか。
今後も間に入ることになりそうだし。
話はとんとん拍子で進んだ。
作業初日。
知り合いや上の年齢の子に声を掛けたりして、暇人を掴まえる。
市内で雑用をしていた人の中には、こちらのほうがいいといってくれる人もいた。
みんなで草を採って歩く。
本当にみんなで。
さすがに採りつくしてしまうほどではないけど、かなりの量になった。
各自、いくつかの拠点の家に持ち帰って干して乾燥ハーブにしていく。
朝声かけて夕方には納品だ。
このスピード感はすごい。
日本でもこんなことはなかなかしないと思う。
乾燥させて量が減った草をリュックに詰めてセブンセブン商会へ持っていく。
「納品に来ました」
「はーい。あらあら、みんなで偉いわね」
「「ありがとうございます」」
ガキンチョ一同がメイドさんに褒められて鼻の下を伸ばす。
綺麗なメイドさんに言われたらうれしいよな、わかるよ、うん。
女の子も混ざっているが一緒に喜んでいた。
普段の雑用とか怒鳴られたりすることもあるし、やっぱり褒められたらうれしいよ。
さすがに司祭様は出てこなかったが、偉い人が出てきて中に通してくれて料金をすぐに支払ってくれた。
基本的にはこういう商売は商品と代金の直接交換が多い。
売り掛け、買い掛けは信頼がない人同士ではしないそうだ。
俺とハリスがそれぞれ分け前を貰う。
そしてハリスが参加者に分配していくという流れだ。
外に出るとみんなが待っていた。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「ありがとうハリス」
「ありがとうございます」
みんなうれしそうにお金を受領していく。
なんだか俺までうれしくなりそうだ。
「では、また次回もお願いしますよ。きっと売れます」
セブンセブンの偉い人が直々に出てきて、ねぎらってくれた。
「次があるのか!?」
「みんなでまたやろうな」
なんだか