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76.雨後のマイマイ


 台風一過。月曜日。

 正確には気象衛星とかないので、台風であるかはわからない。

 地面に住んでて渦巻を確認するのは難しい。


 朝から学校だ。


「みなさん、おはようございます」

「「「おはようございます」」」


 ギード先生が一張羅のかっこいい服を着て教鞭に立つ。

 ちなみに初日からずっとフードをしていて長い耳を晒したことはない。

 俺の友達はミーニャの父親がエルフだと知っているが、他の人にまで知らせる必要はないだろう。

 一応、まだ隠れ住んでいることになっているので。

 視察に行って少し落ち着いたのを確認したからか、最近ではそこまで隠れ住むことを重要だとは思っていないようだ。

 状況が改善されてきているなら俺もうれしい。


 子供たちのほうを見ると、中には寝れなかったのか疲れた顔の子もいる。

 みんな挨拶は返すが、ぼーぅとしてる子もいる。


「家の屋根が飛んだ」

「雨漏りがしてさぁ」


 被害の報告も何件かあった。

 ただし深刻なものは少ないようだ。

 屋根が飛んだ家も、テントだったようなので張り直してすでに修復済みらしい。


 市内も少し被害があった。

 表通りの老木が二本、根本からぽっきり折れて倒れていた。

 朝から領主館で人を出して、今撤去をしている。


 あとはラファリエ教会の看板が飛んだ。

 拾ってきて仮設置してあるらしい。教会も大変だ。


「今日はアルファベットの歌を歌って数字の復習を簡単にしたら、終わりにしたいと思います。というのも雨の次の日です。マイマイを取って給食に入れましょう」

「「おおぉぉお」」


 みんなやる気になった。

 勉強ははかどった。士気がいつもと違う。


 定期的に復習して覚えていくことは重要だ。

 さて復習が終わった。


「では班ごとに分かれてください。森へ行ってはいけません。切り株の草原でマイマイを探しましょう。スライムも集めるとドリドンさんが引き取ってくれるそうです」

「おぉぉ」


 いつの間にか顔を出しているドリドンさんが優雅に挨拶してみせる。

 右手をL字にして足をクロスさせるアレだ。

 これで紳士服を着てシルクハットに杖だったら完璧だった。


 ちなみにスライムはトイレに入れると繁殖するので、その種にするのだ。

 うんちの量で繁殖量は決まるものの、元が少ないとあまり増えない。


「1班点呼。エドでーす」

「はーい。ミーニャです」

「はいっ。ラニアです」

「はいみゃう。シエルです」

「はい。1班出発します」


 こうして我々も草原に繰り出す。

 雨の後には、森からマイマイが出てきてよく歩いているのだ。


 マイマイ。要するにカタツムリである。


「いたあぁああ」


 ミーニャが叫ぶ。

 みんな反応する。


 当人のマイマイは我関せず、ゆっくり移動するのみ。


 ミーニャが両手で持ち上げて持ってくる。

 うん。そうなのだ。

 こいつ、30センチくらいある。

 この世界のマイマイは巨大カタツムリなのだ。


【(名前無し)

 4歳 雌雄同体 A型 マイマイ

 Eランク

 HP95/102

 MP205/215

 健康状態:A(健康)


 きました。雌雄同体。

 男の子かなぁ女の子かなぁわかんないなぁ。


 いっちょ前に健康だ。

 葉っぱは食べ放題。さぞかし美味しかったでしょう。

 だが今度は食べられてしまう番なのだよ。


 貝の仲間であるからして、かなり美味しい。

 出汁が出る。

 アワビに似ていると思っても間違いではない。


 美味しいため草原に出てきたものは狩りつくされてしまっている。

 しかし雨が降ると森から新しく移動してくる。

 そこが狙い目なのだ。


「スライムちゃんみっけ」


 はい、今度はスライムちゃん。

 そういえばスライムをわざわざ鑑定したことがない気がする。


【(名前無し)

 3か月 雌雄同体 D型 スライム

 Eランク

 HP55/55

 MP85/85

 健康状態:A(健康)


 あぁスライムも雌雄同体なんだ。へぇ。

 男の子か女の子かわかんないなぁ。天丼。


 スライムは新鮮なうちにすぐ、ドリドン中央トイレの前にドナドナされて連れられていく。

 一匹、銀貨二枚。


 参考価格として一角ウサギの魔石が銀貨二枚相当だ。

 一角ウサギの魔石はスライムの魔石より大きいので本来は高い。


 結構奮発しているなドリドンのおっちゃんよ。


 各班、見つけた班も見つけられなかった班もいる。

 スライム狩りをして報酬を集めるのに集中した班もあったみたい。



 料理ができる子、つまりナイフが使える子が集まってマイマイを解体した。

 魔石もあるがすごく小さい。


 解体してしまえば、単に貝の切り身にしか見えない。

 実際そういう味だし。


 隅のほうに魔石は置いてある。これは先生が回収する。

 魔石は売って、共用の費用プールに追加される予定。


 そうそう俺たち1班は、他にエルダタケを二株、ムラサキキノコを二株発見した。


 ぶつ切りにされたマイマイがイルク豆と一緒に煮られていく。

 ひっそり俺が料理班に混ざってエルダタケを二株とも投入しておく。

 俺は味のアクセントにコショウと砂糖を少しだけ提供する。

 この少しだけでも全然違うのだ。

 もちろん塩も使ってある。


「「「いただきます」」」


 みんなで一人一つのお椀にマイマイとイルク豆の煮物を入れて食べる。


「おいちぃ」

「うまい」

「マイマイ初めて食べたけど、うまいじゃん」

「マイマイうまいまい!」


 はい、美味しい。

 貝の仲間なんだから美味しいに決まっている。

 出汁が何とも言えない旨味が出てて、こりゃうまい。


 貝の出汁とエルダタケの出汁でめちゃうま料理に大変身。


 まだ生存しているマイマイもいるだろうけど、こいつらだけはスラム民も食べられるものにカウントしているので、さっさと捕獲されて居なくなる。

 スラム街にいるイヌ、ネコと同じようなものなのだ。

 実際のところは知らないけど。


 ということで皆さんご一緒に。


 ――『マイマイうまいまい』。


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