ははは。日曜日。
朝から清々しい陽気となった。
天気予報とかないので、天気はその日になってみないとほぼわからない。
季節的な晴れやすさはある。
朝ご飯を食べて、遊びに行こう。
ラニアを連れてくる。
今日は武器は持っていない。
「近所を散歩します。あとうちの庭」
「庭!」
「はい」
この家は住宅街のほぼ一番外側で、後ろには畑があって城壁がある。
家には狭いながら庭があって、モモの木と夏ミカンの木が植わっている。
モモはもう花が散って、小さい青い桃がなってる。
夏ミカンは実がなっているがまだ熟していないと思う。シーズン前なので。
「そっかミカンまだ食べれないんだ」
「うん。もうしばらくかかる」
「ふぅん」
食いしん坊妖精のミーニャが残念がる。
庭にはいろいろな植物が混成して生えている。
「これなんかどう? ピンクカタバミ」
【ハナカタバミ 植物 普通】
普通!? いや、普通か。良品ではないけど普通と。
食用ではないみたいだけど。
これと非常に似たものは転生前でも見たことがある。
まずカタバミはクローバーみたいな三つ葉だ。
花はピンクでそれから食べると酸っぱい。
食べたことがある。
カタバミには他に全体的に小さいタイプで黄色い花のものなどがある。
葉が紫のものはムラサキカタバミと呼ぶらしい。
それでカタバミは抜いても抜いても生えてくる繁殖性があることから、戦国時代ごろにありがたがられて、家紋などにもなっているっと。
「へぇ」
「よくわかんにゃい」
ミーニャには難しかったか。
ラニアはふんふん聞いてくれてたのに。
シエルはカタバミにとまったチョウチョウ見てる。
まあいいんだ。
花をつんで食べさせてみる。
「ちょっと、ちゅっぱい」
「ほんとだ、酸っぱいです」
「すっぱ、面白いみゃう」
そりゃどうも。
思いのほかよろこんでくれて、ちょっとうれしい。
サラダに散らすといいかもしれない。
少し歩く。
家の裏側の畑はオリーブ畑だ。
そして間の地面にはタマネギが植えられている。
土地を有効活用するつもりらしい。
なかなか面白い。
近くに池があった。
水深は浅め。
中央だけ少し深くて透明のまま青っぽくなっている。
ここは湧き水が出てきて溜まっているらしく水は綺麗だ。
小魚がその辺を泳いでいる。
それ以上にたくさんいるのがオタマジャクシだった。
「オタマジャクシいっぱい」
「だね」
みんなで水の中を覗く。
黒い頭に尻尾が生えている。
中にはもう後ろ足があるやつがいる。
「これがカエルになるんだね」
「そうだよ」
ミーニャもご存じだ。
カエルの卵は子供の基礎教養だもんな。
スラムの裏にも小さい池があるのだ。
そちらは水がよどんでいるけれど、いろいろな虫などがいる。
「カエルは食べないの? オタマジャクシは?」
「うーん。あんまり大きくないから食べないね」
「そうなんだ」
ミーニャの質問は続いた。
ラニアは微笑ましそうに笑っている。
シエルはオタマジャクシを面白そうに観察していた。
ちなみにもっと大きいモンスターのカエルなら食べるらしいよ。
水面にはアメンボがいて、波紋を作りながらたまに移動する。
アメンボも食べないね。
池を離れてその辺を散策する。
よく見ていると、たまにキノコが生えている。
しかし食用にするほど大きいものとなると、スラムの向こう側と違いなかなかない。
【ホタルブクロ 植物 普通】
花びらが吊るした袋みたいな白い花を咲かせる。
これが群生していた。
なかなか見ごたえがある。
まあ食い物ではないので、ミーニャやシエルはあまり興味がないようだ。
市内は家ばっかりで自然も何もないと思っていたが、裏のほうは違うらしい。
以前仕事をしたのは主に中心地だったしイメージなんてそんなもんか。
夕食後。
もう日が沈んでいて、空の残りの明るさだけの時間だ。
「ほら、これがツキミソウ」
漢字で書くと月見草だ。
昼間明るいときは花が閉じていて、夕方開くらしい。
明るい蛍光色に近い黄色い数センチくらいの花が咲く。
【マツヨイグサ 植物 普通】
あれ正式には月見草ではないらしい。
こういうのも民間薬になったりするのは知っているが、あまり普通の人にまで民間医療の草花は知られていない。
ということで俺も知らない。
メルンさんは詳しそうだが、どうだろうか。
ゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコ。
ゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコ。
ゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコ。
「すごくうるさい」
「なに、エド。よく聞こえない」
「みゃぅ」
さてツキミソウは綺麗なのだが、すごくうるさい。
こういうのを『カエルの大合唱』というが。
――雨がくる。
家に戻ってくる。
戸締りをした。
窓にガラスはないがおろし戸がある。
正確には何と呼ぶのかよくわかんないんだけど。
スラムにはなかったし。
窓の外についている斜めになって上からフタをするやつのこと。
これで強い風が吹いても安心だ。
「じゃあお休み」
「おやすぃ、エド、ちゅっちゅっ」
「おやすみなさい。エド君。……ちゅっ」
ミーニャは相変わらず朝晩とちゅっちゅ攻撃してくる。
最近は影響を受けたシエルまでちゅってしてくる。
ただし顔を赤くして一回だけだ。
それはそれで、なんだか恥ずかしそうでかわいい。
「エドぉ」
「みゃ、みゃぅ」
ガタガタと戸の音がする。
三人で抱き合って寝ていると、外で風と雨のすごい音がする。
暴風雨なのだろう。
スラムのみんなは大丈夫だろうか。
いつもより気温は下がったものの、俺は逆にミーニャが強くくっついてくるので暖かかった。
天然暖房器具はこういうとき非常に効果が高い。
カエルの鳴いた通りだった。カエルさまさまだ。
暑いからといって窓開けっぱなしで寝るとヤバいことになっていた。
雨風は一晩中続いたようだ。
しかし、朝にはすっかり晴れて、いわゆる台風一過だろうか。
この世界に台風のようなモンスーンがくるかは知らない。
「すごい! 太陽! まぶしい! 空気綺麗!」
ミーニャが両手を広げて庭を走り回る。
まるで犬だな。猫だけど。
雨で空気中のチリが一掃されたようで、空が青い。
カエルがたまに鳴く。
ハトやスズメが飛んでいく。
トンボが群れて飛んでいく。
草花が風で揺れてサワサワ音がする。
木漏れ日も揺れて
トンボは風で流されてきたのだろうか。
今日もトライエは一見平和です。
しかし大雨の影響はあるようで地面はぐちゃぐちゃになっているところもある。
被害なんかもあるかもしれない。
朝ご飯を食べて学校へ行こう。