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69.ラニア家の引っ越し


 少し前、ノイチゴの3回目の収穫をシーズンギリギリに終わらせた。


 引っ越し先の家には、備え付けで移動できない魔道コンロがある。

 それと普段使っている魔道コンロの2口でジャムを作ったのでいつもの作業の半分で済んだ。


 ノイチゴとサクランボのジャムはすでに納品してすぐに売れてしまい、料金を回収したところだった。


「はいエド、ジャムの販売料金。まいどあり」

「ありがとうございます」


 金貨が俺たちに支払われた。

 端数が出たけど、四分の一になるようになったので割り切れるようになり、銀貨などで支払いが可能だ。


 清算時は銅貨以下の細かい単位はオマケしたりはする。

 これはどこの商店でもだいたい同じだったりする。


 両替には両替商という人がいるんだけど、商売なので当たり前だが手数料がかかるのだ。

 銭貨のお釣り渡すよりオマケしたほうが安いのだ。バカみたいな話である。


 そもそも1円単位で清算で計算しようとする人なんか初めから居ない。




 そうそうラニアちゃんなんだけど、引っ越しのときにちょっと企んでるような顔をしていたのだ。

 その微妙な笑顔が気になっていたが、なんと。


 なんと俺の隣の家に引っ越してきた。

 これで名実とともに隣の家の幼馴染である。


 確かこの間まで獣人一家が住んでいたような気がしたんだけど、気のせいではないはず。

 どうもラニアちゃんが「泣き脅し」で近くの家に引っ越してもらいあの家を勝ち取ってきたらしい。


「ということで隣に引っ越してきたラニアです。よろしくねエド君。幼馴染だね」

「あ、ああ、そうだなラニア」

「ちゅ」


 ラニアがほっぺにキスしてきた。

 びっくりした。

 いつもちょっとオマセさんなので普段こんな大胆なことはしない。


 マジで俺を狙っているらしい。解せぬ。


 ということで毎日一緒に学校へ向かう。

 ラニアちゃんは字も数字も本当は読めるらしいのだが、今まで黙っていたらしい。

 そして今も黙って学校に通っている。謎い。


 まずい豆ご飯を俺の目の前で食うのが日課なのだ。


「エド君のご飯のほうが美味しい。指導してよ」

「面倒くさい」

「ぶぅぶぅ」


 とまあこんな感じの毎日だった。


 確かに豆以外も食いたい。

 費用を掛けずに、ランクアップさせるにはどうしたらいいか、考えないといけない。

 一つはこの空き地を野菜畑にしてしまう方法。


 誰の土地でもない、正確には領主の土地でスラム民に無償貸与が黙認されているんだけど。

 だからトマト畑とかにしてしまう。

 今から夏だから頑張ればそのうち収穫できる。


 もう一つは栽培じゃなくて俺がやってるように採取で済ませる方法。

 タンポポ草やサニーレタスくらいならなんとかなる。

 あとはショウガとかか。


 キノコは同定が必要だが、それだけ俺がやるって手もある。

 さてどうしたものか。


「なんか策ないかな」

「野菜畑は名案だと思いますよ。種だけ蒔いて放っておくってことでしょ?」

「うん」

「それでいいなら、種だけ買ってくればいいわ」

「そうするか。野菜買うよりは安い。日持ちもするし」


 日持ちというか種の賞味期限とかあるんかな。


 とりあえずドリドンさんに相談だな。


 相談した。

 種を買ってきた。

 あと芋類などはその種芋を買う。

 種芋という種類の商品はなくて普通に芋だった。


 サトイモ、ジャガイモ、サツマイモ。

 ネギ、タマネギ、ピーマン、トマト、ナス、カボチャ、キュウリ。


 今入手できるのはこんな感じだった。

 レタス系などの葉野菜は生えているから除外した。


 生徒たちにも協力してもらってお昼ご飯の後、残れる子に種まきをお願いした。


 よし、念願の平原をトマト畑にするぞ。


「いえやぁ、ほいさぁ、種まくべぇ~♪ ほぃさの、さっささ」


 なんだかよくわからないけど農家の伝統の歌みたいなのを歌っている人もいた。

 最初は一人で歌っていて目立ってたんだけど、気が付いたらみんな面白がって一緒に歌っている。


「「「いえやぁ、ほいさぁ、種まくべぇ~♪ ほぃさの、さっささ」」


 君たちなんなんだい?


 楽しそうにやっているからいいか。


 無事種まきも終わった。


 本当は種類ごとに畑を分けたり、畝を作ったほうがいいのは百も承知している。

 でもコストを掛けたくなかった。


 最低限のコストでそこそこ食べられればいい。

 全力で何でもするものではない。


 という結論になったので、これでいいんだ、うん。


「みゃぅ」


 農業に詳しいみゃぅことシエル女史はちょっと不満そうだ。


「もっとしっかり畑作ったほうがいいみゃう」

「これじゃあ収穫も、わかんないみゃぅ」

「あうあう、こんなのないみゃぅ」


 まあ言いたいことはわかるが今回は実験も兼ねてるしこれでいいの。

 ごめんね、意見を汲んであげられなくて。


 さてこれでうまくいけばだけど、夏の終わりには収穫できるだろう。

 また時期をずらして他の種類の野菜の種も蒔こう。


 そうすれば秋の収穫と冬の収穫もできそうだ。


 イモ類だけは隅のほうに並べて植えてある。

 これは種とは少し違うので、場所を専用とした。


 秋になったら枯れ葉を集めて、サツマイモを焼くのがいいな。

 秋のサツマイモの焼き芋とか、あこがれの一つだ。

 前世では小さい頃は近所でもやっていたような気がするが、いつのまにか誰もそんなことはしなくなった。

 ダイオキシンとか小型焼却炉問題とかが言われるようになったのも原因の一つだろう。

 異世界ではどれくらい影響があるかは不明だけど、煮炊きでも火を燃やしてる世界でとやかく言われないとは思う。


 それから学校の周りには、ぐるっとサクランボの木を植えた。

 春には桜まつりをして、春の終わりにサクランボを採ればいい。

 一年で二度おいしい。


 いまから数年後が楽しみだ。


 そのころはどこで何しているかな。

 みんなはどうしているだろうか。


 あ、別にこれで話は終わりではない。

 ちょっと先のこと考えただけだよ。


 俺たちの生活は続く。


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