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86.森と不穏な空気


 土曜日。


 みんなでエクシス森に行こうと思う。


 森探索もだいぶ慣れてきた。

 いろいろな植物を採って歩く。


 ブドウの木を発見したけど、もうシーズンが終わりなのか果実は残念な感じになっていたので、採れなかった。


「むぅ、ブドウジャムにゃ」

「まぁまぁ、季節には勝てないからな」


 ご機嫌斜めのミーニャを撫でる。


「ふわぁ、にゃうにゃう」


 撫でると途端に目を細めてご機嫌に戻るという。

 ちょろいやつめ、うりうり。


「ゴブゴブ」


 お、ゴブリンだ。


 数は四。

 みんなで攻撃する。

 ミーニャも杖で殴ってくれる。

 シエルも今はメイス装備になっているので、参戦してみんな一対一でこちらが優勢。

 すぐにラニアがファイアで一匹仕留めると、すぐに形勢がはっきりして、順次撃破した。


「ゴブリンでしたみゃう」

「おう、そういえば実践は初めてだっけ」

「はいみゃう」


 みゃうみゃうことシエルちゃんも思ったよりは平気そうだ。

 最初、俺なんかゴブリンの引きつった恐怖におびえる顔が頭から離れなくてな。

 あいつら、怖いと思ったものだ。


 だいぶ俺たちも成長した。


 そうしてやや北側の奥のほうへ進んでいく。

 こちらのほうへはあまり進んだことがない。


「わ、わわああ」

「綺麗ですね」

「みゃう!」


 みんなが感激しているのは大木だ。


【メタセコイア 植物 良品】


 メタセコイアという木で、てっぺんまで、すげぇ、ずっと上のほうにある。

 こんだけ大きければ遠くからでも見えそうだ。


 大木の陰になる範囲には木が生えておらず、知らないキノコなどが群生している。


「みてみて、これ、フェアリーリング!」

「お、おう」


「不思議ですね」

「みゃぅぅ」


 俺も見るのは初めてだ。

 現代の理論でいうところのキノコの菌糸が輪状に広がって、円になってキノコが生えている。

 伝承ではこのリングを通ると妖精に異世界へ連れてかれてしまうと言われている。


 しかし、往々にして異世界では違う理由とかがあったりするのだ。


 よくよく見ると、フェアリーリングの中心にピカッと光る紫の石がある。

 拾ってみる。


【ブラッディーベアの魔結石 魔石 良品】


 おう。これ金貨だよな、たぶん。

 大きな魔物の魔石といえば金貨行くと思う。


 値段は珍しさ強さで倍々に増える。

 比例とかじゃないんだよね。だから値段の桁が一桁ずつ増えたりするんだ。


【ブラッディータケ キノコ 食用不可


 お、おう。

 このフェアリーリングに生えている笠が赤いキノコ。茎は白い。

 血を吸いそうな名前だけど、ひさびさに頂きました「毒」。

 はい、食べるな危険。危険がいっぱい。


 めっちゃ美味しそうな見た目しているんだよな。

 タマゴタケにそっくりだ。

 まぁそういうとベニテングタケにも似ているわけだけども。


 ベニテングタケの毒成分が強烈なうま味成分とか、罪なキノコちゃん。

 一度食べてみたいがおすすめはしない。

 絶対うまいよ、死にかけるけど。




 さてここをランドマークとして覚えて、もう少し進む。


「わわ、綺麗。すごーい」

「綺麗ですね」

「みゃうみゃう」


 今度は木がない空き地に出たのだ。

 一面、お花畑。


 すげえ。


 薄青い花が一面に咲き乱れているのだ。

 一応なので鑑定。


【アオヒナゲシ 薬草 良品】


 こういう適地に生えてる薬草は良品が多い。


「あぁアオヒナゲシですかぁ。微妙ですね。確か麻酔薬に使うんでしたっけ。あまり扱える薬師が多くなくて、でも高い薬草ですね」

「ありがとう、ラニア」

「いえいえ」


 とりあえず十本くらいだけ採取しておくか。

 買い取ってもらえるかは微妙そうだけど。


 もしくはうちのメルンさんに見てもらうか。


「わーい、にゃああ」

「みゃぅぅうう」


 またミーニャとシエルが走っていく。


 というかうまい具合に花を踏まないで走ってる。

 よく考えると結構難しいのでは。


「かわいいですね」

「そうだな」


 またいつかの再現のようだ。

 あのときは黄色い花だったけど。


 今度は青いお花畑だ。


 天国みたいだな。

 金髪幼女と銀髪猫耳少女がお花畑で戯れている。


「あっ妖精さん」

「えっどこ」

「ん?」


 俺たちも一斉にミーニャが指さす方向を見てみるが誰もいない。

 というかサイズもわからない。

 もしかして2センチとか言わないよな。ちょっと距離があり人間の目はそこまでよくない。

 ミーニャならエルフの血で見えるのか。


 獣人のほうが目そのものはいいと聞いたことがある。

 エルフも負けないくらい鋭いんだっけ。でも気配察知だったような。

 エルフは魔力視という魔力が見えるという話もあるし。うむむ。


 ここもチェックポイントにして、さてルートを変えつつ戻るか。

 みんなに集合を掛けて戻る。


「わわ。こっち、こっち変な感じするにゃ」


 気が付いたのはやはりミーニャだった。

 ミーニャの案内で着いた先は、くぼみ。


 そう、くぼみとしか言いようがない。


 中にはコケ類がびっしり生えていて、小さなキノコもぽつぽつ生えている。

 なぜか紫の小さい石がいくつも落ちている。

 拾って鑑定してみる。


【スライムの魔結石 魔石 良品】


 ふむ。これも良品か。


 いくつもあるので集めたら二十個近くある。

 全部良品。


 もしかしてここで繁殖したのか? なんで死んだのかはわからないけど、もしかしてスライムのお墓なのだろうか。


「確信しました。ここは魔力だまりですね」


 ぽつりと閃いたのかラニアが教えてくれる。

 ラニアは結構物知りだ。

 親が護衛専門の冒険者の類なので、そういう知識については詳しい。

 しかも貴族の端くれなのか、一般知識もわりあい知っている。


「あぁ、魔力だまりね」

「エド君、知ってたの?」

「いや、名前だけ」


 魔力だまりといえば、ファンタジー小説ではわりと出てくる。

 これが大きくなるとダンジョンになったりする。

 あまりいい噂は聞かない。


「健康に悪いとかないの?」

「さぁ、そこまでは私も」

「そっか」


 知らないということはそこまで問題はないのだろう。


「ミーニャ、祝福一応、お願い」

「わかったにゃ」


「ラファリエール様、私たちをお守りください」


 ミーニャが聖印を切る。


 あっ、なんか空気感が変わっていく。

 色でいうと紫っぽい感じがどんどん薄くなって黄色くなってきた。


 こういうの魔力視の一種というか、魔力感知なのだろうけど俺にも本当になんとなくわかる。

 人間誰しも、少しでも感じるものはあるだろう。

 教会でもこの黄色い感じがあるので、これが祝福の色、聖属性っぽい。


 気が付くと黄色いチョウチョウもヒラヒラと飛んでいる。

 ただのくぼ地だ。


 現代風に言うならマイナスイオンを感じる。

 なんかそういうと俗物的っぽくて、そうじゃないんだけど、これは表現しがたい。


 そして帰り道。


 ここからが問題だった。

 エンカウントする。ゴブリンと。


 その数六回。数は一匹から四匹まで。

 その都度戦闘になり魔石は回収したものの、なんだか疲れた。


 このメンバーではもはや苦戦はしないものの、精神的疲労は溜まる。


 冒険者ギルドに魔石の換金に行ったのだが、ゴブリンとの戦闘の回数を驚かれた。

 あとブラッディーベアの魔石は素直に拾ったと申告した。

 お値段は金貨十五枚。ひゃっほい。


 これで話が終わればいいんだけど、このゴブリンとの戦闘、前哨戦にすぎなかったのだ。


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