教会、セブンセブン商会に納品してから一日。
「エド君、ひどいじゃないか」
俺は非番だったのだけど、お昼の時間に商店のビエルシーラさんがやってきたのだ。
「な、なんのことですか?」
「健康茶の街の外での売買、セブンセブンに委託したんだって?」
「ええ、まあ。耳に挟むのが早いですね」
「昨日、店の前へみんなで行って騒いでいたと報告がね」
「あぁね」
ビエルシーラさんはそれから少し渋い顔をして。
「僕の店だって他の都市との売買をしていてね。健康茶には目をつけていたんだ」
「つまり?」
「僕の店で王都方面へ売り出そうと思っていた矢先だったんだ」
「そうだったんですか。それは悪いことをしました」
「まあ、セブンセブンもそこまであくどいわけではないからいいけど」
「そうなんです?」
「やりすぎると教会の顔に泥を塗ってしまうから、表向きは清い商売だよ」
「よかったです」
そっか。
本当の裏では何してるかわからないものの、表に近い場所では教会の顔があるせいで、いい顔をしていると。
教会の力を見せつけて圧力かけまくってるのかと思ってたわ。
確かにあの司祭様もそんなに権力を笠に着て悪いことする人には見えない。
どちらかというと
「教会側と相談してみますか?」
「うーん。そうだね」
ということで教会へ歩いて行って、話し合いをお願いしたら、その場で司祭様が暇だというので、セブンセブン商会へ通された。
「では、わしはラファリエ教会の司祭、セブンセブン商会支部長のバイエルンじゃ」
「僕はビエルシーラ商店の店主、ビエルシーラです」
「俺は喫茶店エルフィールの仮店長のエドです。元ラニエルダ民です」
「ふむ。それでお話というのは?」
「ビエルシーラ商店も健康茶の市外への流通を検討していまして。その権利の確認と、流通範囲の相談です」
「なるほど」
こうして話し合いは始まった。
まずセブンセブン商会の健康茶の流通は別に専売の権利があるわけではないので、ビエルシーラ商店が流通するのは何も問題がないと確認された。
次に販売先なのだが、セブンセブン商会では国内主要都市への販売を計画している。
すでに納品したものは今朝のランバード便のマジックバッグ輸送で王都へ送られた。
そこでビエルシーラ商店ではトライエ周辺の農村など、小さな村町をターゲットに販売を広げてみてはどうかという提案がバイエルンさんから出た。
ビエルシーラさんは国内での都市での販売もしたいと交渉して、この提案は受け入れられて、ビエルシーラ商店としては国内に限り幅広く大都市から農村まで販売するということになった。
都市部では両商店から販売されるが販売量は多くなくて人口を考えれば干渉したり特にお互いへの悪影響は出ないだろうという結論になった。
「以上でよろしいかな」
「僕は問題ないです。流通の許可がいただけて、感謝しています。司祭様」
「俺? 俺は、あっはい。大丈夫です」
正直、俺は大人たちの会話にあまりついていけなかった。
こういうとき、人生経験の浅さが露呈するらしい。
二人とも終始和やかに話しているのに、どことなく緊張感が漂っていて、見えない火花が飛んでいた。
先にビエルシーラ商店が販売していたのに相談なく勝手に流通をはじめたセブンセブン商会にも落ち度があった。
専売や市外への流通について俺エドと話し合わなかったビエルシーラ商店にも落ち度があった。
両方、探られたくない腹を見せるわけにはいかないのだった。
「なにより『健康茶』という名前が素晴らしいな。いままでこんな商品はなかった」
「そうですね。僕もそう思います。健康に気を使う人は多いので、売れるでしょう」
「な、なるほど」
そっか。
この世界にはいわゆる「健康食品」という概念がないんだ。
○○が健康にいい、という話はあるけど、あの夜中に通販でやってる健康食品というカテゴリーが今まで存在していなかった。
健康を直接訴えるお茶は、なるほどブームになる要素がある。
ということでハリスに相談して、ビエルシーラさんの商店に納品する薬草をみんなで採取した。
「葉っぱ採って、お金持ち!」
「みんなで草とるべぇ」
「お仕事! お仕事!」
「こんなどこでも生えてる草が売れるんだか、オラは不思議だわ」
子供を中心に人が集まって、健康茶の材料を収穫していく。
セブンセブンの分から数えて二回目だから一回目ほどは盛り上がらなかったけど、そこそこ賑やかだ。
また家々にわかれて乾燥をして、リュックに詰めて提出に行く。
ビエルシーラ商店はメイン通りの南側、貴族街側にある。
メイン通りから南側は貴族御用達の高級店などが並んでいる。
ビエルシーラ商店自体は高級店ではないが大商店なので、この場所なのだ。
もちろん一般の人が入ってもいいけれど、あまりボロい服装だと白い目で見られるのはしょうがない。
俺はお店に出るときに着てる白シャツと青のズボンだ。
大きな看板が出ていて、正面には一級小麦粉、砂糖、コショウなど高級食材。
スプーン、籠、あっこれ俺たちが作ったやつ。
フォーク、ナイフ、お皿などのカトラリーが並んでいる。
いい品ばかり。さすが大商店だ。
そこの側面に荷物搬入口がありそちら側へ回る。
みんなで中の作業部屋に通してもらい、リュックの中身を木箱に詰め替えていく。
木箱が何箱かな、これでだいたいの量を測って、本日のお賃金となるのだ。
「エド君、ありがとう。助かるよ」
「いえ、俺は監督だけなので」
実際には様子見を兼ねて採取にも参加したけど。
まあ細かいことはいいんだ。
本日のお供はシエルちゃんだ。
「いっぱいとった、みゃう」
「シエルちゃん、頑張ったもんね」
「うんっ」
シエルにもスラムのお友達ができたようで、よかった。
俺たちだけとか寂しいことになる。
こうして支払いを貰う。
俺は二割の権利の料金で金貨をいただいた。
プール金がまた増えて、俺のほっぺたもハムスターみたいに膨らむというものだ。