平日のうちミーニャとの非番の日。
「今日はちょっとトライエ市の中で探し物を」
「探し物?」
「乳牛、もしくは牛乳」
「牛乳、ミルクだね!」
「そそ」
ということでトライエ市内のうち表通りではなくて裏側を探す。
もしかしたら朝市で普通に売っているのかもしれないが。
朝市をそれほど利用していないので、見当がつかないものも多い。
平日だと朝から学校があるし。朝早く起きるのもだるい。
土日は朝市をやっていない。
チーズは前買ったので、どこかに牛乳の可能性が。
家の周り東地区を探してみたものの、ここにはなかった。
西地区、正確に言えば北西側を探してみたら。
「モーウ、モーウ」
いるいる。この声、間違いない。
近づいてみると数は少ないものの、乳牛らしいものがいた。
白と黒の例のウシ模様だった。
「すみませーん。牛乳分けてほしいんですけども」
「あーはい、ちょっと待ってね」
どうも話を聞いたところ、ここの酪農家では全量のうち半分はチーズにもう半分はバターにしており、生のミルクは卸していないらしい。
「ミルクの販売は傷みやすいからねぇ。苦情とかも困るし」
「分かりました。ノークレームでいいので、売ってください」
「直接来てくれる人なんて珍しいし、いいよ」
ということで売ってもらえることになった。
全体から見たら大した量ではないので、欲しいだけ買える。ありがたい。
この日は小ビンに十本買って帰ることになった。
値段は思ったより高くはない。
さすがに日本よりは高いと思うけど、それは食品全体に言える。
イルク豆と小麦と塩くらいか、安さを実感できるのは。
帰り際、ミーニャがウシを見ていう。
「ウシ! 牛肉!!」
「まぁそうだけど、ウシの数も少なかったし」
「そっか」
ミーニャはお肉に興味津々だもんな。
牛肉は手に入れたいもののひとつだけど、なかなか難易度が高い。
たまたま飼っているのを解体したとかでないと。
あとはバッファローみたいな野生種か。
西の森の奥のほうに集団で生活しているんだったかな。
とぼとぼと歩いて戻る。
「みるくぅ、みるくぅ♪ もぅもぅもぅ♪」
ミーニャが変な節をつけてミルクの歌を歌う。
そうして家に戻ってくると、さてここからが本番だ。
ミルクと卵に砂糖を入れて混ぜておく。
先に砂糖に水を少し入れて火にかけてカラメルを作る。
作り方は知っていても、気をつけないと完全に焦げてしまうので、気をつける。
「わ、わ、甘い匂い」
「これがカラメルソース」
「ふぅん」
コップのような容器の底に入れておく。
そっとミルクと卵のほうを容器に上から注ぐ。
それをフライパンに並べて、水を張っておいて蒸す。
カップに入れる前に間違えて先に温めて温度を上げすぎるとその時点で固まってしまう。
これは茶碗蒸し、目玉焼き、茹で卵と同じだ。
ゼラチンなら逆で温めて溶けて冷やすと固まる。
これはミルク卵プリンなので。
「「「ふんふんふん」」」
みんなで鼻歌なんか歌って、楽しそうに蒸しているのを眺めている。
かわいい。
また知らない歌だ。解せぬ。
とにかくこうして蒸し上がった。
「はい、完成」
「よしぃ、食べていい?」
「冷やしたほうが美味しいよ?」
「ぐぬぬ」
さてミーニャたちが悔しがっているうちに魔法を使って出した氷で冷やしていく。
腹ペコ妖精が今にも襲い掛かってきそうだ。
「よし、そろそろいいと思う」
「「「いただきます」」」
一斉にスプーンを手に取って、プリンとの戦闘を開始する。
戦場は激戦であった。
「おいちぃ」
「おぃしぃぃいぃ」
「おいしいみゃう」
プリン、結構数作ったんだけどな。
二個、三個と消えていった。
卵に制限があるため、あまり大量には作れなかった。
メルンさんギードさんの分を避けてあるので大丈夫だが、あっという間にプリンたちは腹ペコ妖精に食べられてしまいました。
俺は隅っこでひとつだけいただいた。
「やっぱプリンもうまいな」
タンポポコーヒーにミルクと砂糖を入れて洒落こむ。
うん。
プリンとコーヒーは合うなぁ。
プリン格闘戦を眺めながら、俺はエルダニアのことをまた考えてみる。
エルダニア再興といっても、まず何を始めたらいいのだろうか。
領民の募集かな。ラニエルダで募集すればついてくる人は一定数いると思う。
でもその人たちを食べさせなければならない。
今エルダニアに残っている人は、領軍の門兵のお世話の人がほとんどで、ほかには例のお店の人がいて、あとはほぼいない。
なにか仕事があればご飯の輸送も可能だけど、あの土地で再び仕事というとなかなか難しい。
まずは宿屋かな。
テントの宿はあるけれど旅人は野宿をするので基本的にテントは持っている。もしくは馬車で寝起きする。
しっかりした宿は欲しいかもしれない。
ほとんど見るものはなかったけど一通り見た感じ、領主館は健在でほとんど痛みがない。
領軍はモンスターに街の中へ侵入された後、領主館だけは死守したらしい。
涙ぐましい話だけど、その領主は後に執事の話により真っ先に逃げたことが証言された。
だから領主館の痛みは少ないんだけど、今は使われていない。
領主館を宿屋にしてしまうというのはひとつの答えかもしれない。
どこかの誰かに怒られなければだけど。