夕暮れに染まる街を眺めながら、冒険者ギルドへ直行する。
ギルドの建物に着くと、ドアを開けて入る。
カウベルが鳴る。
やはりこの音を聞くとなんか戻ってきた感じがして好きだ。
そういえばカウベルだと思っているけど、厳密に言えば「ドアベル」かもしれない。
ドアベルなんだけどギルドのは音が低くて、どう聞いてもカウベルに聞こえる。
ちなみにカウベルっていうのは、家畜のウシが首から下げてるベルのことね。
夕方だから比較的混んでいる。
その中でも列がすいている例のエルフさんのところへ並ぶ。
「本日はどのようなご用件ですか、ミーニャ様」
「あ、えっとメリクリウスを取ってきたんですけど、買い取ってくれますか?」
ミーニャに聞いてくるがもちろん無視して俺たちが答える。
「えっ? メリクリウス? そんな貴重な物を? どこからです?」
「エクシスの滝からですけど」
「あっ、はい。一度にたくさん採ってきちゃだめですからね。一応、保護されてるんです。四人だと週に一回六株までですよ」
「そうなんですか。知らなかったです」
一人あたり一株でパーティー単位でプラスで二株らしい。
アイテムボックスから五株のメリクリウスを出す。
「おい、あれ、青い花。メリクリウスだぜ」
「あれがメリクリウスかぁ。綺麗なんだな」
「花は思ったより小さいんだな」
「あんな貴重なものをガキどもがか」
なにやらうしろのほうから声が聞こえる。
「た、確かに。クマイラス殿、クマイラス殿」
エルフ受付嬢のミクラシアさんが、鑑定スキル持ちのクマイラスさんを呼び出した。
「これ、見てもらえます?」
「鑑定しなくてもメリクリウスだな。本物だ。まだ新しい。良品だろう」
「そうですか。鑑定いりませんか?」
「これくらいなら見ればわかる。鑑定は不要だ。よかったな」
「あ、え、はい。ありがとうございました」
「代金なんですけど。一つ金貨四枚でして。金貨二十枚になります」
「はい。ありがとうございます」
そそくさとカウンターの列を離れて清算しよう。
「みんな、金貨二十枚だから、一人五枚だね」
「うん」
「やりました」
「みゃぅ」
「ラニアは個人分、受け取るよね? はい金貨五枚」
「ありがとう」
ほいほいと金貨を渡す。
五枚となるとちょっと重い。
「そうだ。シエル。あのさ、服は買ったから、防具と武器見てかない?」
「私の武器ですか……うーん。見るだけなら」
まず武器コーナーに向かう。
いろいろある。
なにがいいかな、なにがいいかな。
まだ、後ろのほうではメリクリウスがどうとか騒いでいるけど、知らんぷりをしよう。
「あっ、このメイス、メイスがいいですみゃう!」
メイスがいいのか。ちょっと変わっている。
「どうやって使うか知ってるよね?」
「うん。殴りつけるみゃうっ!」
元気のいいことで。
これなら大丈夫そうだ。
メイスは刃とかもないし魔石もないので、他の武器に比べて安い。
値段を気にしてこれにしたとしたら、いい子だなぁとは思う。
「別に高い武器でもいいんだよ。お金あるし」
「いいの。メイスで」
「そっか」
ということで武器はメイスに決定。
革の防具、胸当ては俺たちと同じやつでいいだろう。
また新しく入荷していたので、それを購入した。
これで俺たちのパーティーはそこそこのメンバーが揃った。
格好もみんなそれっぽくなった。
うん、すばらしぃ。
ところでまだお代を払っていない。
それから気になっていることがあった。
シエルがチラッチラッと、見ているものがあったのだ。
それは「ベル」と言われる武器に準ずる楽器だった。
エンチャンター付与術師、バッファーなどの支援職、補助魔法使いは魔道具の楽器演奏という手段で、バフの性能アップ、持続時間延長などの効果をもたらす。
ただバフを掛けるだけではあまり効果は高くないと聞く。
うちのマッマは知識持ちなので、内容は浅いがいろいろ教えてくれていた。
「なぁシエル、メイスで本当にいいの?」
「うん……」
一応笑顔だけど、ちょっと作り笑顔っぽい。
未練はあるようだ。
「ベルって知ってる?」
「ひゃいっ、バレちゃったかみゃぅ」
えへっと舌を出した。
まあ、こういうのもかわいい。
「本当はベル装備してみたいんでしょ?」
「うん、でもあれ」
言いよどむ。
言わんとすることは誰でもわかるだろう。
ベルは魔道具なのだ。
魔道具は概して高い。
ベルのような楽器を装備してバフをするのは、本当は騎士団とか五十人の大規模パーティーとかを想定しているらしく、置いてあるベルは貴族用の装備しかなかった。
それも全金属製で装飾があって魔石もついてる。
「すみません。一応、お尋ねしたんだけど、このベル、いくら?」
「これですか? すみません。中古品でして人気もないので今は金貨三枚ですね」
「そうですか」
よかった。
これなら買える。
金貨十枚以上は確実にするのは見ただけでわかる。
中古だったのか。
この辺のコーナーは新品と新古品が混ざってるのでよくわからん。
ラッキーと思うよこれ。こういうレア武器の中古があるのが、さすが冒険者ギルドだ。
「んじゃ、ください」
「いいの?」
「ああ、メイン武器は俺からのプレゼントだから。あ、ごめん金貨一枚だけ出してください」
「はい、いいですよ。契約成立ですみゃう」
こうしてお代を払って胸当てとベルを買う。
右手のベルと左手のベルで音の高さが違う。
いや片手に三つずつ装備して、最大で六音まで出せるらしい。
これは中古で二つだけみたい。
「ちょっとやってみていいですか?」
「え、あ、はい」
ギルドのお姉さんに了解を得たので鳴らしてみる。
緊張した顔でシエルが構える。
「ラファリエール様のご加護の下に……」
キン、コン。キン、コン。キンキンコン。
二音だけだけど、確かに曲っぽい。
みんな、なんだという顔をしてシエルのほうを見ている。
とても澄んだ綺麗な音色だった。
なんだか癒される。
教会の鐘の音もこれにしてくれ。
そうしたら全員にバフが掛かって大変か。
「おぉぉ、これバフなんだな。俺、攻撃力の変化には敏感なんだ。わかるよ。力が湧いてくる」
「なんだか、いい音」
「元気になってきた」
その辺の冒険者が感想を教えてくれる。
ギルド内はなんだかいい雰囲気だ。
顔を赤くしたシエルが演奏を止める。
「よし、これ買って正解だったみたいだな」
「そうにゃ」
「そうですね」
「はいみゃう、うれしいみゃぅ」
ぴょんぴょん跳ねてうれしがっていた。かわいい。
そうそう。メイスも安かったので買っておいた。
予備にちょうどいい。
ピンチのときはメイスで加勢してクレ