夢にまで見た、やっとこのシーンが現実のものとなった。
キノコ売却だ。
それも今、ムラサキキノコもウスベニタケもある。
どちらかがハズレでも、片方売れればセーフだ。
ハズレならハズレで自分たちだけで美味しく食べちゃうもんね。
領主様とかが知らなくて悔しい思いしても俺は知らない。
自分たちの知識を呪ってくれ。
門を通るときには、女の子ばかり三人も連れて通ったので。
「おい、エド。両手じゃ余っちまうな。まさか三本目の腕があるのか!」
「あるわけないだろ、べぇー」
「どこだ。見せてみろ、ちくしょう。羨ましいぞ」
とかバカにされた。
いや逆か羨ましがられたけど、いいんだ。
俺に隠し腕なんかないよ。悪魔じゃあるまいし。
門番とは顔見知りなので、これくらいのじゃれ合いはある。
確かに手が二本だと不便だな、とは思った。
右手にシエルちゃんがくっつくと、すかさず左腕を確保したミーニャ。
それを余裕の表情で手を振って後ろをついてくるさすがラニア。
さて優位なのは誰でしょう。
俺にもわからない。
実益を得ているのは前の二人だけど、精神面ではラニアの一本勝ちだ。
あとでくっついてくるかもしれないけど。
ハーレムなら明確な上下は決めないほうがいいと思うので、ドローということで一つ。
輪になって遊ぶのが一番だ、うんうん。
俺は「お兄ちゃん」扱いで、将来白馬に乗った王子様が迎えに来るかもしれないし。
そんなことになったらお兄ちゃんは泣いちゃうけどね。
いないけど視聴者のみなさんもお怒りだと思うよ、それ。
シエルちゃんは結局、言ってないけど水浴びのご予定がキャンセルになってまだボロいピンクのワンピースのままだ。
スラムがあるのでみっともないと言う人は皆無だけど、思ってる人はいる。
内心の自由までは俺らにはどうにもならない。
たまにそういう顔をするおばさんが通りかかるので、その度にシエルちゃんのつないでる手がビクッと反応する。
ちょっと可哀想だったか。
やっぱり先に茶色いミーニャの着替えを出してくるんだったかな。
でももう半分以上の距離を進んだ。
今からだと冒険者ギルドのほうが近い。
そのままギルドに到着した。
いつものカウベルの音になんだか安心する。
やっと着いた。
いつものように受付のエルフのお姉さんの所に行く。
エルフは高慢という噂のせいで列は短い。
普通だと思うんだ。いやミーニャには異常に気を使ってるからミーニャ側が純粋なエルフか何かだとは推測できるんだけど。
血統書とかないのでよくはわからない。猫じゃあるまいし。猫だけど。
「こんにちは」
「こんにちは、エルフ様」
「そのエルフ様っていうのやめてほしい」
「わかりました。では御名をお借りしてミーニャ様でよろしいですか?」
「まぁいいや」
「ではミーニャ様とお連れ様。本日はどのようなご用件で?」
「キノコを買い取ってほしいんですけど」
「キノコですか。まぁいいです。見せてください」
謎のため息をつかれたけど、見せるのはタダだし見せてみよう。
俺がバッグに偽装してムラサキキノコとウスベニタケを出す。
「こっ、これは!」
珍しくエルフのお姉さんが表情を崩す。
「「「おおっ!!!」」」
「俺はムラサキメルリアタケとウスベニタケだと思います」
「私にもそう見えますが、珍しいですね。人間はあまりキノコを食べませんので」
お姉さんがじっくり観察する。
ここでいう人間はヒューマンのことだろう。
エルフさんは自分たちを人間と同じ枠に入れていない物言いをよくする。
だから人が並ばないんだけど。
「あの、このまま引き取ることもできます。各金貨一枚で金貨二枚となります」
「そっか、金貨二枚か」
「それか両方合わせて金貨一枚で鑑定をしてもらい、証明書つきで本物であればですがムラサキメルリアタケが金貨四枚、ウスベニタケ金貨三枚になりますね。賭けではありますが、偽物を持ってくるような人ではないですよね」
キラッとお姉さんの目が光る。
なるほど俺たちを品定めする気だな。
でも俺はエルフとドワーフのナイフ持ちだし、ミーニャはそのエルフ様なんでしょう。
種族そのものの信頼と当人の信頼は別という考えかもしれないけど。
俺だって鑑定持ちなので、当然後者だ。
「鑑定で」
「じゃあ鑑定ですね。先に鑑定料金貨一枚これは先払いでして」
「わかった」
持っててよかった金貨ちゃん。
残り少ないけど大丈夫。
「はい、金貨」
「ぽんっと出しますね」
「俺は自分を信じてるんで」
鑑定持ちだってばらせない雰囲気だしね。
だいたい鑑定内容を他人に見せられないので、俺が鑑定持ちなんだ! と主張したところで他人のプライバシーをペラペラしゃべる以外に証明できない。
そんな趣味もないんで、ここは秘密ということで。
おぉおおお、ギルドの中から出てきた人、本物は初めて見る。
モノクルってやつ。片眼鏡ともいう。
それをつけた、こちらも偉そうな男性エルフさんが出てきた。
シルクハットは被ってないが雰囲気的には紳士のアレだ。
クイッと上げるようなポーズをしてじっとキノコを見つめる。
「確かにこちらはムラサキメルリアタケ良品。ウスベニタケ良品ですね。鮮度も落ちていません」
「でしょうね。わかりました。ではお約束通り、金貨にして四枚と三枚、合計七枚お支払いします」
男性エルフは俺たちを一瞥してから「ふんっ」と鼻で笑った後、隣のボーッと見ているミーニャを見て目を見張る。
「あっ、あなた様は、もしや」
「クマイラス殿、むやみに鑑定するのはマナー違反ですよ」
「わかっている。しかし、このとんがり耳。この金髪。このオーラ、鑑定せずとも間違いなく」
「そうなのでしょうけど……私たちは平のギルド職員にすぎないのですから」
「わかっていると言っている」
カウンター越しにミーニャをじっと見つめる中年のエルフさん。
中年といってもエルフだから顔は若いけど、それはそれでちょっとキモい。
もしかしてあまりよろしくない趣味の人だろうか。
「お美しい。ミーニャ様でしたか」
「そうです、にゃっ」
「……ハイエルフ様に連なるもの」
猫だったら全身毛を立たせて震える感じになっている。
「ほら、怖がってます」
「私をか? そ、そうか。すまない。そのようなつもりではなかった。失礼いたします」
優雅に挨拶をして去っていった。
ハーフエルフ? ってみんなこうなのだろうか。
なんだかイメージがおかしくなりそうだ。
キノコのお金もホクホクだし、みんなで割り勘だ。
七枚で一枚が経費なので六枚を四人でわける。
一人一枚半だ。
銀貨はあるのでラニアに分ける。
「はい、ラニアちゃん」
「ありがとう、ございます」
クルッと向きを変える。
「それからはい、シエルちゃん」
「えっ私?」
「うん。自分たちで見つけたキノコだから、均等割り」
「均等割り?」
「あぁ同じ金額で分けるって意味ね」
「いいの?」
「うん」
「ありがとう!」
そそくさとピンクのワンピースの隠しポケットに金貨と銀貨をしまう。
大切そうにポケットを上からなぞっていた。
「あぁ、そうそう、これからもしばらくうちにいるつもりなら俺が代理で預かってもいいよ。必要なら俺から引き出してくれればいいから」
「うん! じゃあそうするみゃう」
「あっああ」
「でははいお金、お願いします。――それから私も、しばらくお世話になりますみゃう」
そういって頭を下げた。
ボロい服であっても、少し上品に見えたのは俺だけの秘密だ。
こうして結局、シエルちゃんはしばらくうちの子ということで話はまとまった。
ギードさんとメルンさんには説明しないと。
それからエルダニアに明日行かないといけない。連れていくしかないか。
食料とかは十分もっていくので大丈夫だけど、大所帯だな。