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48.イチゴジャムの2回目


 木曜日。


 また河川敷に行ってミーニャとラニアでノイチゴを採取した。


「イチゴ、イチゴ、イチゴ。イチゴジャムを食べると、おいち♪」


 なにやらミーニャが歌っている。

 イチゴジャムをパンに塗って食べると美味しいという歌らしい。


 今日もご機嫌だ。


「んっ。やっぱり甘くて美味しい」


 たまにつまみ食いもしている。

 減るもんではないしこれは別に問題ない。

 ジャムの量は少し減ってしまうかもしれないけど、それは金額として自分たちに返ってくる。

 別にそこまで必死ではないので、いいんだ。

 それに美味しそうな顔をするミーニャはかわいい。プライスレス。


 河川敷ではノイチゴの木を探すのが手間だけれど、特に改善策も思いつかない。

 これはしょうがない。


「エドぉ、木の枝見つけたよぉ」

「おう」


 河川敷なので上流から流れてきた、加工によさそうな木の枝が落ちている。

 そうするとこうして声をかけてもらって回収する。


 アイテムボックスがパンパンにならない程度に木の枝を拾う。


 中には村の建物の残骸だったのか、板になっているものもあった。

 板は他の用途に便利なのでありがたく回収する。


「よし、いっぱい採れたし戻ろうか」

「はーい」

「はーいです」


 少し離れた場所からミーニャとラニアの声が返ってくる。


 三人連れ添って家に戻る。


 いつものように野草のお昼ご飯を挟んだ後。


「では始めます」

「(ごくん)」

「は、はいっ」


 ミーニャは無言で喉を鳴らした。

 ラニアは手伝ってくれるのだろうか、返事をしてくれる。


 鍋にイチゴを投入して煮詰めていく。

 午前中採ったイチゴのジャム作りだった。


「すごくいーにおいする!」

「いい匂いですね」


 イチゴの匂いはもう、たまらない。

 あの匂いが家じゅうに漂う。


 メルンさんとギードさんもいるが匂いを嗅いでうれしそうにしていた。

 あとエッグバード。

 いつもより落ち着かないのか、首をくるくる回したりする。


 こうしてうちではジャム作りをしていた。


 それが終わった夕方。


 子供が何人かやってきた。


「すみません。ミーニャのおばさん」

「おやおや、どうしたの」


 優しく話しかけるメルンさんだけど事情を知っているだけに苦笑いだ。


「あれ、なんか甘いような匂いしない?」

「気のせいだろ」

「そっか、それで怪我しちゃって」

「なんだっけ、ミーニャとラニアを守る戦争なんだっけ?」

「そうだよエド。俺たちはエドのうんち戦争って呼んでる」

「へぇ」


 そんな変な名前だったのか。

 まるで俺が主犯みたいじゃないか。


 甘い匂いはイチゴジャムだな。誤魔化しておいた。


 その子を見ると確かに腕に木の枝が直撃したのか、少し青アザになっている。


「神の癒しを――サクラメント・ヒール」


 おお、例の神聖魔法だ。


 アザはどんどん小さくなっていって、すぐに治った。


「ありがとうございます。あのお礼とかできなくてすみません」

「いいのよ。でも少しは気をつけてね」

「はーい」


 他の子も治してしまうとみんな出ていき家の中が広くなる。


 スラム街のラニエルダでは今も北と東の抗争が続いていた。


 チャンバラごっこは毎日やっているらしく、皮肉なことに少しずつみんなうまくなっていて、剣術の実践訓練の様相をていしてきた。


 大人たちも様子を見ているが、中には冒険者崩れの人もいるため、なぜかたまに指導したりしている。


 まったくなにやってんだか。


 しかしたまに怪我人が出て、うちのメルンさんのお世話になっているのはご覧の通り。


 子供たちの怪我の治療は軽いものであればメルンさんの場合、無料でして貰える。

 うちからしたら収入が減ってしまうが、スラム街はお互い支えていかないと成り立たないのだ。

 これくらいのことは社会貢献ということになっていた。


 俺たちは夕方、冷えたイチゴジャムを納品しにドリドン雑貨店へ向かう。


「ドリドンさん」

「ああ、エド。そろそろイチゴジャムか?」

「えへへ、そうです」

「6,000ダリル、手取り5,000ダリルでいいか?」

「もちろんです」


 がっしり握手を交わす。

 ビンに詰められた赤い物体をしげしげとひとビンずつ眺めるドリドンさん。


 数量は前回と同じ、全部で20ビンほどあった。

 ノイチゴは集中して採ると結構とれるのだ。


 俺はうはうはなので、頬が緩む。


「お、エド、今日は一段と悪い顔してる」

「ドリドンさんだって暗黒微笑あんこくびしょうじゃないですか」

「失礼な。俺はいつだって営業スマイルだよ、あはは」


 お互いこれが売れればかなりの儲けになる。

 最近は風向きがいいので、売れないこともないし、金貨は約束されたようなものだった。


「にひひ」

「あはは」


 二人で笑いあう。

 他から見たら少し怖いかもしれない。


「エド、ちょっと怖い」


 ほらミーニャに言われちゃった。


「ふふふ」


 ラニアは優しく笑った。

 彼女は金貨ではなく俺の顔を見て笑ったのだろう。

 暗黒微笑ではなかった。


 微笑みはなんだか天使のようなかわいさがある。


「おう」


 俺はそれを見て照れてしまい、ぶっきら棒に返すのだった。

 くそっ、かわいいじゃねえか。


 頬をぽりぽり掻いたりしてみる。

 まだかわいい顔で目を丸くして俺を見てくるので、やられてしまいそう。


「うにゃぁ」


 ミーニャもよくわかっていないような顔をして笑っている。

 こっちもかわいいから、なんでもいいや。


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