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46.しし鍋と火の粉


 荒れ狂う火曜日。

 俺の腹が痛いのもだいぶ治まってきた。


 ラニアもいるので、お昼はしし鍋といたしましょう。


 この前の大イノシシだ。


 生姜焼きも大好評いただいたのだけど、今日は珍しく鍋にする。


 大きめの鍋に秘蔵のキノコちゃん、各種野菜、そしてイノシシの肉を投入する。

 味は塩がベースだけれど、キノコや野菜の旨味が出る。


 ぐつぐつ煮込み始めると、いい匂いが漂ってくる。


 イノシシ肉は可能な限り薄切りにして、柔らかく食べられるようにしている。


「いい匂い、エドぉ」

「ええ、美味しそうね」


 ミーニャもラニアも機嫌をだいぶ直してくれた。

 今は鍋に興味津々だった。


「お肉と野菜がこんなに……」

「あぁ、豆ご飯とはだいぶ違うな」

「エド君の家のご飯はこんなに立派になって」


 さてだいぶ煮込んだし、そろそろいいかな。


 鍋を火からおろして床に置く。

 この家はテーブルがないので床で食べる。

 狭いのでテーブルなんて置いてられない。


「「「いただきます」」」


 みんなで簡易的な挨拶をして、鍋を取り分ける。


「このスープ、具だくさんで美味しそう、にゃ」

「そうですね」


「これはスープだけど、鍋っていうんだ。鍋のまま食べるから」

「へぇ」


 うん。鍋の一品しかないが我慢してもらおう。


「美味しいぃ」

「あつ、あつ、美味しいです」


 みんなには好評だ。

 俺は病み上がりなので少なめだけど、美味しいものは美味しかった。




 午後、俺たち三人でラニエルダを巡回することになった。

 午前中の例のアレのせいで、子供たちがまだなんだか騒がしい。


 うちの中まで声が聞こえてくる。


「「行ってきます」」

「気をつけてねえ」


 メルンさんに見送られて外に出る。


 俺たちは完全装備だ。

 舐められたらボコられるので剣も装備してる。

 子供相手では明らかに過剰戦力だけど、他にないからしかたがない。


 外に出ると子供が走り回っているのが見える。

 あれは東地区の子だ。


「おうぉおりゃああ」


 手にはご丁寧に木の枝を装備して何かを叫んでいる。


 後をついていってみると北と東の緩衝地帯の空き地の平原に出た。

 何やらすでに近所の小さい子供たちがみんな集まっている。

 手にはみんな木の棒などを握りしめている。


「うううううぅうう」

「うわあああああ」


 お互いが牽制しあっていてまだ戦闘にはなっていない。


 まったく異世界の子供たちは血気盛んなんだから。

 ほんと困るわぁ。


「エドのうんちが来たぞ」

「エド、てめぇ、ラニアとミーニャを返せ! 独り占めするな」

「「そうだそうだ」」


 北の子から俺への非難が始まる。


 そういえば、そういう話だったな。

 俺が美少女ワンツーのミーニャとラニアを独占しているから面白くないという。


「このやろう、お前なんか『エドのうんち』だかんな」

「「そうだ、そうだ」」


 もちろん俺は何も言わない。

 反論のしようもないし場を引っ掻き回してもしょうがない。


「私もラニアも好きでエドと一緒にいるんだよ。エドに連れまわされてるわけじゃないわ」

「そうですね」


 ミーニャの主張にさらっとラニアも同意して北の子たちをにらむ。

 ラニアが厳しい視線を向けると、さすがの北の子もひるんだ。


「くっ、ラニア、お前らはだまされてるんだよ。エドは黒髪黒眼の忌み子じゃんか」


「ふっ、まだ魔素占いなんか信じてるの? お子様」

「ぐぬぬぬ」


 ラニアは辛辣だ。

 魔素占いを大人は全然信じていないことは、子供たちも一応認識している。

 しかし子供たちの中ではいまだに絶対的な存在なのだ。


「ラニア、ミーニャ、俺たちと一緒に行こう」

「なんで生意気な北の子と遊ばなきゃならないのよ」

「く、くそっ」


 さっきから右から3番目の子が必死に説得しようとしている。

 どうみても逆効果だが、彼の中ではそうなってるのだ。


 周りの子は少し引き気味だけど、今更引くに引けないようだった。


 でも、でもですよ。

 3番目の子は顔なんて真っ赤なのだ。怒ってるとかじゃなくてその視線はラニアとミーニャに釘付けなのだ。

 わかりやすいよな。


 ひゃひゃひゃ。


 べた惚れなのだろう。


 そう思ってみると、子供たちはなんというか、微笑ましい。


 まだ幼くてその感情の向け方が下手クソではあるが、あれは愛なんだなぁ。


 にやにやにや。


「くぉ、エド、なんだよ。その顔」

「なんって、だってさぁ」


 俺が余裕でニコニコしてるから気持ち悪いのだろう。


「エド、お腹は大丈夫?」

「ああ、大丈夫だミーニャ。ありがとう」

「うにゃぁ」


 ミーニャが心配してくれる。

 お礼を言うとミーニャが相好を崩す。


「くそぉ、くそぉくそぉくそぉ」


 当然、俺を見て笑顔になるミーニャを見ればその態度ははっきりわかる。

 めちゃくちゃ悔しそうな顔をする3番目の子。


「んっ。みんな、戦闘しちゃだめです。ファイアボールくらいたいですか」


 ラニアが睨みを利かせて杖を斜め前方に掲げる。

 魔石がついていていかにも高そうな杖だ。

 当たり前だが威力は高い。


「くそおおおお、解散だ。撤収、撤収」

「あぁ」

「そっか、あ、うん」


 北の子たちがみんなぞろぞろと引き上げていく。


 残された東の子たちはぽかんと突っ立ってそれを見ていた。


「なんなんだ、あれ」


 ガキ大将のハリスが呆然と呟いた。

 一応、いたらしい。

 わかるよ。


 子供心に恋に怒り狂って、明らかにおかしかったもんなあれ。


「ハリス、どうだ? ハーブティーは」

「あぁ、儲かってる、儲かってる。以前と比べりゃずっとマシな生活してるよ」

「そりゃよかった」


 俺はまだハリスから資金を回収していないが、まあいいんだ。

 口約束だったしな。

 大した金額でもないから別にいい。


「なんていうか、エド。その、サンキューな」

「いや、いいよ。それより今回の件。俺が原因らしくてすまん」

「いいって。ラニアちゃんとミーニャちゃんを守るんだって、みんなが」

「そうか。ありがとう」


 儲かってるようで安心した。


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