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60.エルトリア街道


 トライエを出発して数時間が経過したあたり。


 橋がある。

 石造りの立派な橋だ。


 エルトリア街道に交差するようにメルリア川の支流が流れている。


「エクシス川だな。メルリア川の支流だよ」

「へぇ」

「上流に行くと水が綺麗で、そうそう滝があるんだ。エクシスの滝だよ」

「なるほど」

「エクシスの滝という名前が先で森がその名前を引き継いだんだそうだ」

「さすがギードさん物知り」

「まあね」


 橋には小屋が建っていて兵士が五人ほど駐留していた。


 トライエから進むこと半日。

 手頃な待機所があったので、そこでお昼にする。

 野営のお昼は初めてだ。


 でも魔道コンロは持ち込みなので、やることは同じだという。

 野菜を適当に切ってこの前のエルダタケを一つ入れる。


 キノコを入れると抜群に旨味が出るので、あるなら入れたい。


 ブタ肉っぽいイノシシ肉を少量入れる。

 まだ在庫はそこそこあるので、大量に入れてもいいが、昼だし軽めでいいかなっと。


 あと持ち込みの卵を2つだけ使い、目玉焼き。

 味付けは塩。


「なにこれ、卵がそのまま焼かれてる面白い!」

「ほんとう。これが卵って感じですね」

「へぇ面白い、みゃぅ」


 みんなそれを見て目を輝かせている。

 いろいろ作ってみると思わぬ反応が返ってくるから、俺も作り甲斐がある。


 ナイフを使って卵を三分割して、六人分に分ける。


「「いただきます」」


「黄色いところと白いところで味も違う!」

「はい、白いところは少し柔らかくて、黄身はほくほくしてます」

「こんなの食べたことない、みゃう」


 ワイワイ騒いで目玉焼きを食べた。

 スープもかなり美味しい。


「いい匂いさせてるねぇ」

「ちょっとスープ分けてくれよ」


 他の馬車の人が声を掛けてくる。


「はいどうぞ」


 そうくると予想していたのでスープは多めにある。

 目玉焼きはないぞ。


 ずずず。


「うっまっ、なんだこのスープ。めっちゃうまい」

「おい、俺にも少しくれ」

「俺も俺も」


 ぞろぞろ人が集まりだした。

 お椀がそんなにないので、他の馬車の人には悪いけれど椀を使いまわしさせてもらう。


「うまい」

「すげーうまい」

「これなら毎日食いたい」


「ありがとう坊主」

「じゃあな、またな」


 うちのスープはよっぽど美味しいらしい。


 ささっと片づけをして出発だ。


 またゴロゴロ、トコトコと馬車に揺られていく。

 道は未舗装路で土がむき出しになっている。

 しかし土自体はかなり硬く押し固められていて、わだちもそこまでできていない。

 しばしば街道のメンテナンスはしているようだ。

 トライエ領主の采配なのだろう。逆側のエルダニアは現在領主が不在だ。


 揺れるには揺れるけど許容範囲だと思う。


 三人娘は荷台の中でわいわい楽しくやっているようだ。

 女の子は仲がいいとすごく明るくて華やかだからいいね。


 そうして夕方、馬車を待避所に停車させる。


「到着」

「ここ?」

「うん、今日はここに野営だ」


 ギードさんの宣言で準備を進める。


 夜ご飯は、贅沢にイノシシ肉の焼肉となった。

 肉を焼いていると次々、人がきて持って行ってしまう。


「うまうま」

「美味しい」

「いい肉、いい人、今日もお疲れさん」


 なんだかよくわからないが他の馬車の人たちまで集まって焼肉パーティーだった。


 そうしてそのまま寝る。

 俺たちはうまい飯によって夜警が免除になったので、みんなで寝てしまう。


 テントなどはない。

 俺たちは馬車の荷台で頑張って並んで寝る。

 なーに、いつも狭いスラムの家で寝てるから余裕余裕。


 うっ、半ば予想していたけど、女の子三人がくっついてきて非常に寝にくかった。

 くっそ、いつもと違う女の子のいい匂いがする。

 いつもではないということはラニアだろう。

 気分は悪くないがドキドキして寝付けない。




 朝になった。

 いつの間にか寝てしまった。

 むしろいつもより気持ちよくて、ぐっすりだった。

 教会の鐘の音が聞こえてこない朝というのは、これはこれでいいね。


 また飯の準備だ。

 贅沢ばかりしていると後で困るので、今日はイルク豆にしよう。


 イルク豆といってもホレン草、サトイモを入れてアレンジしてある。

 豆だけだからきついんだ。


 味が数種類あれば、まだ食べられる。


「なんだ、今日は貧民のイルク豆か。そういえばスラム在住なんだっけか」

「まあ毎日贅沢ってわけにもいかないかぁ」

「食えるだけでも儲けもんだぜ。前なんかずっと乾燥携帯食料だったぜ」

「うわぁああ」

「そりゃひどい」


 乾燥携帯食料というのは乾パンみたいなやつでボソボソして食べるのがきつい。

 だいたいは水と一緒にむりやり飲み込むのがお作法となっている。


 野営で料理するだけでも上位半分以上だからこれでも贅沢なんだ。

 魔道コンロだって、持っていない人は煮炊きは面倒だし。




 こうして2日目。

 街道を順調に進む。


 途中で昼食をとって、夕方には今日の目標のバレル町に到着した。


 数メートルある土の壁が町を囲っている。

 町の大きさは思ったより小さい。


 その壁の間の門のようなところを通って町の中に入る。

 入市税のようなものはない。


 門には兵士さんが十人以上いたのでどうしたんだろうと思ったけど、いつもこうらしい。

 トライエ市よりもモンスターが出やすいのだろう。


 表通りにある宿屋に泊まる。

 馬車は街道に路駐だった。


 確かに馬車五台も駐車できる馬車小屋なんてないもんね。


 宿屋のおかみさんに案内されて食堂でみんなで夕ご飯だ。


「いただきます」

「うんとお食べ」


 出てきてのは黒パンと野菜スープだった。

 お肉は干し肉を戻したものが少し浮かんでいる。


 ずずずず。


 スープを飲む。

 まぁまぁ美味しい。


 だけどみんな微妙な顔をしている。

 黒パンをスープに浸して食べていた。

 俺も真似して食べる。


 そうだな出汁が弱いな。

 塩味は感じるけど味も薄い。


 野菜は大根とネギとサトイモかな。

 あとは少量の干し肉以外には何も入ってない。


 なんか俺のほうを見てる人が数人。


「ほら、坊主の飯のほうがうまい」

「ちがいねぇわ、あははは」

「あはははは」


 一斉に笑い出してなんだと思った。

 こわっ。


 いやいやいや、俺はここでは料理しないよ。


 大人たちはエールをあおってる。

 ギードさんとメルンさんは遠慮してレモン水をちびちびやっていた。

 俺もレモン水をぐびぐび飲んだ。


 このレモン水。水に少しレモンを垂らしただけなんだが、結構うまい。

 女の子たちも同じものを注文している。


 どの店も向き不向きはあるということで。


 宿屋は男女別だった。


「なんだかさみしいな」

「そうかい、いつもミーニャと一緒だもんなあ」

「はい。男だけってはじめてかも」

「あはは、お休み」


 ギードさんと相部屋で寝る。

 女子部屋はどんなことになっているだろうか。


 俺にとって広いシングルベッドで眠りについた。


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